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【15分習作】 くもり

 くもりという天気が好き過ぎる。僕は、中三の夏に部活を引退してから、塾が休みである水曜の夕方には大体サイクリングに出掛けた。十四歳の僕は、降水確率など気にしない。流石に大雨であれば諦めもしたが、どんなに今にも降り出しそうな空でも、それは僕にとって“くもり”でしかない。よってサイクリングは決行。淀川に沿って只管上流へ走り、豊里大橋の手前で雨粒が落ちて来る。それでも進み、鳥飼大橋まであと二百メートル程の所で、どうしようもない土砂降りになって、僕は河川敷公園にある簡易トイレに駆け込み雨宿りをすることにした。充満する悪臭に耐えながら、Tシャツを脱いで力一杯絞ると、面白いぐらい水がじゃーっと落ちた。とことん絞ってから扉を開けると、幸運なことに雨は止んでいた。空は元の“くもり”だ。僕はもう帰ることにした。皺くちゃのTシャツに風を受けながら、夕焼けに向かって走る。これ以上の青春を、僕は知らない。

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