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【15分習作】 緑

 図書館から出たところで振り向くと、緑色のダサいママチャリに乗ったあいつが見えた。あいつというのは、彼氏の幼馴染。同じクラスで、私と同様帰宅部。ああ、文化祭の準備をサボって図書館に篭っていたのがバレてしまった。何か言おうとしたあいつを遮って、私は言う。
「ねえ、宮っちの家で稲木君待ってもいい?」
 図書館の後で、彼氏の家に寄ることになっていた。どうせあいつの家の前を、彼氏は通るから。返事を待たずに、勝手に荷台に座る私。早く行ってよ。
 私を乗せて走り出したあいつは、明らかに苛立っていた。家の前で乱暴に自転車を止めると、中へ入り割り箸を持って現れ、植木鉢を指し示す。
「山椒にアゲハが卵産んでな、放っといたら幼虫こんな育つねん。これは殺さなあかん」
 あいつは、丸々と太った緑の幼虫を箸で摘んで地面に落とし、踏み潰した。「嫌!」私は態とらしく悲鳴を上げる。そこへ彼氏。
「お前なあ……」
 喧嘩になっちゃえ。

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