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ポカリ派? アクエリ派?

小学生のころ、仲が良かった友達がポカリ派だった。

スポーツドリンクなんてしょっちゅう飲むものじゃないのに、どうしてそういう話になったのか分からないけれど、好きなのはポカリスエットかアクエリアスかで話したことがある。

わたしは今でもスポーツドリンクを見ると、その他愛もないやりとりを思い出す。

彼女には、お姉さんがいるせいかいろいろなことを知っていて、漫画をたくさん持っていた。漫画をほとんど買ったことのないわたしは、今の今まで読んできた漫画の9割は友達から借りたものばかりだ。彼女もたくさん貸してくれた。そして、徒歩3分くらいしか離れていない自宅を行き来して何も喋らず漫画を読みふけった日もある。

毎日会うのにたくさん手紙を交換したり、放課後タンコをしたり(缶蹴りみたいな遊びをタンコと言った)、そしてポカリかアクエリかも彼女が「ポカリおいしいよね」みたいなことを言い出したところから会話がはじまったような気がする。その頃、わたしはポカリと言われてもなんのことかわからなくて、でも意地っ張りだから「そうだね~」とか答えたような気もする。

で、おそらく当時ポカリのCMは、ポルノグラフィティの『ザ・ミュージックアワー』が流れていた。海辺を女の子と男の子がターザンみたいにぶら下がってはしゃぐさわやかなCM。

その印象が先行しすぎて何のCMか後になって分かったわけだが彼女がポカリの話を持ち出してから、やっとこのCMがその飲み物のコマーシャルのものだということを知った。「ポカリってどういう飲み物なのかな」と若干8歳のわたしはイメージした。

そして対抗している立ち位置なのか分からないけれど、スポーツドリンクという括りの中でアクエリアスというものがあることも知った。アクエリアスは、どんなCMだったか覚えていないが、スポーツマンの男の人が、汗をだらだらかきながら飲み干すようなCM、だったかもしれない。とにかくポカリほどの爽やかさは、決して無かった。

また別の、たしか暑い夏の日、重たいランドセルを背負って下校している最中に、また「暑いー! ポカリ飲みたあい。」と彼女が言った。そのときはすでにポカリがなんたるかを心得ていたわたしは、「わたしはアクエリアスのほうが好きだな」とかかわいくないことを言った。
誰かと趣味嗜好がかぶること、自分と誰かが同じことをしていることは、とてもイヤだった、例えそれが一番仲良しの友達でも。というか、一番仲良しだからこそ、ちょっとずつ違っていたかった。わたしは漫画をまったく知らなかったから彼女にいろいろ教えてもらって嬉しかったし、その知識の広さに特に嫉妬もしなかった。

「アクエリアス?」と彼女は言った。そのあと、ポカリのほうが塩分濃度が高いんだよ、とかなんとか、そういう「ポカリのほうが優れているよ」的な情報をくれ、わたしのあまのじゃく精神はさらにかき立てられ「でもアクエリアスってスポーツマンのひとが飲む飲み物だよ!」みたいな謎のアピールをした。

「じゃあうちはポカリ派で、みさはアクエリ派ね」と彼女は言った。わたしは満足げに「そうだね」と返した。

他愛もない、こどものころの思い出。ほんとうにしょうもないことだけれど、なぜだか鮮明に覚えている。

そして、今日はひさしぶりにスポーツドリンクを飲んだ。アクエリアスとポカリスエットを一本ずつ買った。

どっちもおいしかったよ。

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