黒騎士再び

こちらは電脳戦機バーチャロンのファンノベルです。
以前にTwitterにて公開した「カナリア隊」の後日談。とても短いお話ですがよろしければどうぞ。

 おいおいおいおい、マジかよ!
 木星の遺跡探査を引き受けて、大当たりもいいところだ。
 断続的に閃光と爆炎が上がる。
あのシャドウに出会えたら今度こそ、決着をと思っていたけれど、それ以上の成果だ。
周囲を見回せば、瓦礫と瓦礫の一部になった研究員の駆るVR。今度は皆無事に退避できたようだが、まあ俺はそうもいかないわけがある。
というより逃げられない。そういうシステムになっちまったんだよなあ。
そして愛機カナリアは今日もまたぴいぴい戦場で泣いているわけだ。
巨大な柱の陰に隠れてなんとかやり過ごしているが、あいつ滅多やたらと撃ちまくりやがってどういうジェネレータしているんだか。
そしてまた巨大な閃光。ライデンなんて比ではない、数秒間は空間を焼き続けるレーザー。
ヤガランデに出会うなんて幸運すぎやしないか。
あいつは見た目よりずっと早く、そして攻撃可能範囲も広い。下手に背中なんて見せたら骨も残らない。
今できることは遮蔽物(多少の被弾で砕けない丈夫なものに限る)を伝って撤退するだけだ。
攻撃の隙を伺って移動……これだって綱渡りだ。今はまだあいつを出し抜いていられているが、どうにもその照準は正確になっていっている。
時間との勝負だ。
もうすぐ出口のはずだ。
炸裂弾がすり抜けていく。
いまだ!
柱から飛び出す。
「マジかよ!」
本日二度目のマジかよだ。
遺跡の出口が閉じていた。そうか、ヤガランデは警備VRってそういうことね。。
「うそだろ」
 続いてなんの感慨もない声が出た。次の炸裂弾が迫っていたのだ。あいつわかっていて出力下げたやつを先に放ってやがったな。
 俺が認識した後からなりだすアラートに、天使のラッパを聞いた。
 機体が揺れて、コックピット赤く染まる
「俺死んだ?」
 死んではいなかった。被弾は、していなかった。炸裂弾は目の前で爆発し、余波で軽く装甲が傷ついた程度だった。
「対物信管がなにかに反応したのか。いやあ、俺ってラッキー……い。おいおい、宝くじどころの幸運じゃねえぞ」

シャドウナイト

 俺を庇うように、シャドウナイトが立っていた。
 炸裂弾を止めたのは噂に聞いていた防盾レディオ・スプライト。だがさしもの盾も原型をとどめておらず、そのままパージした。
  助けたのか、俺を。
 キイイン!
 俺はレバーを引いて柱に再び隠れた。
 シャドウナイトとヤガランデの戦闘をレーダーで確認しているが、さしものやつも決定打を得られないらしい。
 シャドウナイトは諦めたのか、俺と同じ柱に隠れてきた。
「ば、ばっかやろう! 狙われるじゃねえか! ……ん? ああ、そういうことか」
 物言わないシャドウナイトの意志がわかってしまった気がした。
「ああ、はいはい。やりますよ、やらせていただきますよ。お前はあいつを倒さなきゃならん義務がある。そして俺は逃げられないときた。くそ、マジでクソだわ。これはお前に会った時のとっておきだったんだぜ」
 ぶちぶちと愚痴を呟きながら、コントロールパネルを操作していく。画面に「本当によろしいですか」とエクスキューズが表示された。
「はいはい、いいですよ。よくないけどいいですよ」
 もう死ぬか生きるか。かっこつけてもしょうがないだろう? 愚痴くらい言わせてくれよ。

コンバータのリミッターを解除し外装をイジェクトする。最後のシークエンスとして、ジェネレータゲインをゼロにした。
これまで聞こえていた駆動音がモニタの明かりが消えて、機体はかたんと糸の切れた人形となった。しかし、すぐにモニターやコンソールに明かりがともり、VR表面に真紅のマージナルラインが奔り、エネルギーがこれまでの幾倍も跳ね上がった。勿論機体はもう数分も持たないエネルギー容量だ。これは、
「ミラージュシステム。シャドウクリスタルと共振させて同等のエネルギーを得ようって、お前とのとっておきだったんだがな」
フイイン、とシャドウナイトのアイバイザーが小さく明滅した。
笑った、のか?
「さて、とりあえずヤガランデ様をぶっ潰して、それからだ。いくぞ!」
 ぶっちゃけ、それから、なんてない。一回の戦闘マニューバでもう動けなくなる。一か八か、それより低い賭けなんだよ。
 シャドウナイトが動く。
キンッ
刹那の金属音を残して、シャドウナイトが飛び出した。俺が知る中でもっとも早い機動だった。
「まあ、ったくはしゃぎすぎだぜ。だが、俺もちょっとぞくぞくしてきたわ」
 柱から飛び出すと、シャドウナイトはすでにヤガランデの背後をとり、信じられない速度で移動、ラジカルザッパーを放ち続けている。赤いラインがいくつも残像と残り、何機のVRがいるのか、目視はおろか、センサーも残留熱量に判断を誤るほどだった。
ゆるりとヤガランデが旋回し、シャドウナイトへと目標を定めた。
今しかねえな!
カナリアはひと啼きすると地面を蹴り、飛び上がる。コックピットは絶賛アラート中。目も耳もうるさい。
元より限界のジェネレータをさらに振動させ、エネルギーを加速させた想定より遥かに大きなエネルギーに、システムのモニタリングがすべてバグっている。だが、こんなんマニュアルでやるっきゃねえ。最近のオートメーションに甘えた新参兵と一緒にされちゃあ困るね。俺はもうVRがソロバンで動いているころから乗ってんだからよ。
ああ、少し嘘ついたわ。
バーニアとCGSブレードに全エネルギーを送り込み、ヤガランデに向かい空を切り開いていく。
「カナリアラムバーストおおおお!」
今思いついた技名。
シャドウナイトを狙うヤガランデの表面に4つの熱源収束が見えた。
「おいやべえ! クソデカレーザーくるぞおい!」
 即死ってこたあないが、まっすぐ進むシャドウナイトと正面衝突だ。
「なっ!」
 小さく跳躍し、あいつは展開したスライプナーに飛び乗る。スライプナーにまとうエネルギーとレーザーを干渉させ、ウェイブルースライダーを決めて魅せた。
「んじゃあ、とどめといくかあああ!」
 ヤガランデを貫く二条の閃光。
 すれ違う、俺とシャドウナイト。
 一瞬……一瞬だけあいつと目が合った。

また、会おう

そう聞こえた気がした。
背後で爆散するヤガランデ。そしてシャドウの気配が消えるとともにテンエイティ「カナリア」はINACTIVE(活動停止)となった。
勿論機体を静止させることはかなわず、地面にめり込み勢いがなくなるまで床を転がり続けた。幾度も瓦礫に身をぶつけ跳ね上がり、平地では高速回転し、足が柱にぶつかれば回転方向が変わる。生きた心地がしなかった。高速軌道訓練でもこんな経験はしなかった。
それから、やっと完全停止しため息をついた。一応、は今回も生き延びた。俺は物音ひとつしない遺跡の最奥で、あいつのことを思いながら遺跡管理局の救援を待った。
逆さまの視界の中で。