見出し画像

[小説]雨

「なんで、雨なんだろ」
「え?なんて?」

ミサキが傘の向こうをにらみながらつぶやくと、意外にも反応があった。一番聞こえてほしい言葉は聞こえなかったくせにと思いながら、少し大きな声で言い直す。

「雨ってさ、何のために降るんだと思う?」
「雨ねえ……」
雨の向こうでタカノリが空を見上げながらやはり少し大きめの声で答えた。
「世界で最初に降った雨って知ってる?」
「……ノアの方舟」
「そういうのじゃなくて」
「全然わからん」
「人間なんか生まれるもっとずっと前の、海を作った大雨だよ」
「あーなるほど。……いや『世界で』って聞き方がずるい。『地球で』くらいにしてよ」
「でもあってるでしょ」
「まあ……。それで?」
「それでって?」
「なんのために降るか聞いたんだけど?」
「雨が降って、海ができて、生物が生まれたんだから……人間が生まれるため?」
「なんで疑問?」
「大げさすぎたかと思って」
「たしかに」
また、言葉が途切れた。

少し遅い時間の駅のホームには他に誰もいない。
ミサキは、部活の後の居残り練習を終えたタカノリと、駅のホームで鉢合わせた。そしてとっさに「補修がなかなか終わらなかった」と嘘をついた。本当は、今日こそは言わないといけないと思って、タカノリが駅までくるのを近くのコンビニで待っていたのだ。最近部活の後遅くまで自主練していたことも、同じ部活に所属するクラスメイトから聞き出していた。

「あとさ」
かなりの間をあけてタカノリが先ほどの話の続きを始める。ミサキはまだ終わっていなかったのかと耳をタカノリの方に向ける。
「雨降って、地固まる……?」
「どういうこと?」
ミサキがタカノリを見上げると、タカノリが半歩ミサキの方に歩み寄った。
「俺も悪かったと思って」
タカノリの声は少し小さくなったし視線は空を向いたままだったが、距離が近くなった分、ミサキの耳にしっかり届いた。
「俺も、悪かった。間違ったことは言ってないって思ってるけど、でも、ミサキがどう思うかとか考えてなかった。無神経だった」
ミサキの方を向いて、しっかり見て続けた。
「ごめん」
ミサキは大きくため息をついた。
「ずるい」
「なんで?」
「わたしが先に謝ったのに」
「うん。だから。『俺も』悪かった」
「え、聞こえてた?」
「聞こえるように大きい声で言ってくれたでしょ。そういうこと俺は気づけないんだよ」
「……ずるい」
「また?なんで?え?なんで泣くの?」
「ずるいから」
戸惑うタカノリを見ながら、ミサキは、安どして、少し嬉しくて涙が出てきたということを言わないでおこうと決めた。


-------------------------

こちらの企画、間もなく締め切ります。
このあと、コメントしていないところにコメント参りに行きます。


自分で考えた企画なんだから一個真面目に小説とか書こう!と思っていたのに、気づいたら締切日でした(今日が締切日と気づいたのは3時間前です)
体感ではあと一週間くらい10月が続く感じだったのに……

友人:今日で10月終わりだねー
わたし:そうだねー。……あっ!
友人:どうしたの?
わたし:ワタシ明日、朝、ハヤインダー
友人:そうなんだ。じゃあもう電話切った方がいいよね
わたし:うん!ごめんね!
友人:ううん。またね。

友人、本当にごめん。
次は時間無制限で話聞きますごめんなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?