紫陽花の睦ぶ

やっと神奈川県との境を越えた。
隣の運転席から
「晴れたのって始めてじゃない?」
と話しかけられる。雨男だから気を付けないとと笑って返した。


付き合いはじめてすぐの頃、そういうことに慣れなくてどこに行けばいいのかわからなかった。
そんな時に彼が見つけてきたのが、長谷寺のアジサイのポスターだった。

その日は曇り空だったけれど、晴れの空よりも濃くて鮮やかな青や、透明感を感じる青みを帯びた桃色の花たちが特に明るくみえた。
わたしはアジサイの向こうに海の見える景色が特に気に入って、ずっと眺めていたかった。
彼は何も言わずにわたしの気のすむまでそばにいた。
雲が厚みを増して、あたりが暗くなり、雨が降り出す。
彼が慌てて折り畳み傘を出したのを見て「傘忘れた」と嘘をついた。
二人傘に入って距離が縮まる。
雨音はうるさいけれど、彼の
「来年も、その次も、一緒に見に来られたらいいね」
と言った小さな声ははっきり聞こえた。

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