わたしとキムくん #3 きっとね!
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なんと。
地元まできてくれるということだろうか。
…
…
…
なんか、わたしも毎日楽しみになってるかも。
日本についてからずっと、飽きずに連絡をとってるし、また新たな共通点も見つけた。
「飛行機は窓際より通路側に座りたい」とか、
「電話より文章の方が好き」とか、
「人が多い場所が好きじゃない」とか、
「写真を撮られるのが苦手」とか。
些細なことだけど、「それも?あ、それも?」と、嬉しくなった。
偶然会った人が、そんなに気の合う人だなんてこと、あるだろうか?
そして、わたしは韓国語に訳してカカオトークに送るのが流石にめんどくさくなってきた(おい)ので、日本語で送るようになった。
でも、キムくんは相変わらず日本語に訳して送ってきてくれる。
日本語で送られてきた文章を韓国語に訳して、韓国語の文章を日本語に訳して送る。
この男、なかなかマメな人間なのかもしれない。
普通、めんどくさくない??言葉の通じない人と、わざわざ翻訳アプリで会話して。
……なんて素直。
この男、言うことがいちいちロマンチック。
"韓国人はアジアのイタリア人"という言葉を聞いたことある気がするけど、なんかわかる。個人差はあるかもだけど、こんなににナチュラルにスイートな言葉が出てくるものだろうか?
好意を持ってるのを隠さない……よね。
でも、きっとこんな浮ついた気持ちは、災害の状況で出会った吊橋効果みたいなものかもしれないし、旅行ハイが続いてるのかもしれない。
そのうちお互い旅行の熱が覚めたら、気持ちも落ち着いて、冷静になるのかもしれない。
わたしの頭の中は、理性細胞や感性細胞たちが浮かれている中、不安細胞が遠くでその盛り上がりを眺めているような感じ。
一時的な感情であまり踏み込みすぎないように。
ヌナ(姉)とドンセン(弟)の一線を超えてしまわないように。
という思いから、少し真剣なトーンで、ある嘘をついた。
その嘘は、公の場で書いててしまうと、ポリコレ(Political Correctness)に反してしまうことかもしれないから、深くは話さないことにする。
その条件で恋愛するにはちょっと難易度高いかも……と思ってしまうような嘘だった。
キムくんは、「冗談だよね?」と言いつついくつか質問をして、時間を置いて真剣なトーンで、「受け入れるよ」と言っていた。
そして、数日が過ぎ、相変わらずその間も連絡はとっていた。
なんか分析されてる……
わたしの発言のどこでそう思ったんだろ?
あの日、タクシーの運転手さんのほかに誰かいたっけ……?
あ。。
キムくんは、わたしが既婚者で、兄を旦那だと疑っていたようだ。
笑った。
「妹の旅行のために、早朝にバスセンターまで送ってくれる優しいお兄ちゃんはいない、絶対夫婦だ。」というのがキムくんの理論だった。ちょっと謎だけど。
でも、それは考えすぎだよ、というと、キムくんは言った。
まさか、そんなことまで考えていただなんて。
そうか、キムくんがタクシーの中で素っ気ないと感じたのは、こちらを警戒していたからなのか。
いや、でもちょっと待て。タクシーで空港に行くことを提案してきたのはキムくんだし、わたしは善良な一般市民だし。
ケータイを片手に腹を抱えて笑っているところに、またキムくんからのメッセージが来た。
わたしがついた嘘より何よりも、
キムくんがお兄ちゃんをわたしの旦那だと思っていたこと、
お兄ちゃんとわたしがグルになってキムくんを拉致して、ボコボコにして金を巻き上げるかもしれないと疑っていたことなど、
面白くて、おかしくて、なんか嘘をつき続けるのはどうでも良くなった。
本当は、
このまま踏み込んでしまうと、またいつかと同じように、自分が拒絶されり落ち込んだりするんじゃないかと怖くて、関係が進まないように予防線を張りまくりたかったからなんだけど、素直じゃないわたしはすっとぼけた。
そしたら、キムくんが言った。
…
…
…
ドキッとした。
うん、ドキッとした。
そして、思った。
わたしも、別に何の気もなかったら、歳が離れていることなんてサラッと言えているはずだ。
言えないのは、わたしもこの関係に期待しているのかもしれない。
今ある自分の気持ちを認めて、深いことを考えずに、ただ単純に楽しむのも良いかもしれない。
夏だし。
そうしてわたしたちは、ソウルでユッケを食べてコーヒーを飲んだ日から10日後、再び日本で会うことになった。
次回へ続く……
▼中村佳穂 "きっとね!" MV
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