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わたしとキムくん #3 きっとね!
【前回までのあらすじ】
旅行を終え、日本に帰ってからもキムくんと連絡をとる毎日。頭の中で恋の歌が流れ始めているのを必死にかき消そうとするみるかく子。「楽しい!これは恋かもしれない」という気持ちと、「このまま進んではいけない」という思いがせめぎ合い、みるはある話を切り出した。
✳︎
「ところでさ、キムくんはいつ日本にくるの?」
「来週行こうと思ってるよ」
「祇園祭を見たいんだよね?博多の祇園祭は7月15日なんだけど、その日わたしは案内してあげられないんだよね。」
「お休みの日がわかったら教えてほしい。僕が行くから。」
なんと。
地元まできてくれるということだろうか。
「おやすみ。明日も退屈だったらカカオトークしてくれる?」
「退屈だったらね〜。」
「ミルとカカオトークするの、楽しみにしてるね。bye~」
…
…
…
なんか、わたしも毎日楽しみになってるかも。
日本についてからずっと、飽きずに連絡をとってるし、また新たな共通点も見つけた。
「飛行機は窓際より通路側に座りたい」とか、
「電話より文章の方が好き」とか、
「人が多い場所が好きじゃない」とか、
「写真を撮られるのが苦手」とか。
些細なことだけど、「それも?あ、それも?」と、嬉しくなった。
偶然会った人が、そんなに気の合う人だなんてこと、あるだろうか?
そして、わたしは韓国語に訳してカカオトークに送るのが流石にめんどくさくなってきた(おい)ので、日本語で送るようになった。
でも、キムくんは相変わらず日本語に訳して送ってきてくれる。
日本語で送られてきた文章を韓国語に訳して、韓国語の文章を日本語に訳して送る。
この男、なかなかマメな人間なのかもしれない。
普通、めんどくさくない??言葉の通じない人と、わざわざ翻訳アプリで会話して。
「キムくんはわたしと話していて飽きないの?」
「それ、僕が聞こうと思ったんだけど?ㅋㅋ
僕は、ミルと話すのが1日の中で一番楽しい時間!」
……なんて素直。
「でもさ、わたしたちが2人で向かい合って、ずっと無言でパパゴで話していたら、周りからみたらちょっと変かもしれないよね。」
「そう?僕は、2人だけの秘密の会話みたいで好きだけど?」
この男、言うことがいちいちロマンチック。
"韓国人はアジアのイタリア人"という言葉を聞いたことある気がするけど、なんかわかる。個人差はあるかもだけど、こんなににナチュラルにスイートな言葉が出てくるものだろうか?
好意を持ってるのを隠さない……よね。
でも、きっとこんな浮ついた気持ちは、災害の状況で出会った吊橋効果みたいなものかもしれないし、旅行ハイが続いてるのかもしれない。
そのうちお互い旅行の熱が覚めたら、気持ちも落ち着いて、冷静になるのかもしれない。
わたしの頭の中は、理性細胞や感性細胞たちが浮かれている中、不安細胞が遠くでその盛り上がりを眺めているような感じ。
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一時的な感情であまり踏み込みすぎないように。
ヌナ(姉)とドンセン(弟)の一線を超えてしまわないように。
という思いから、少し真剣なトーンで、ある嘘をついた。
その嘘は、公の場で書いててしまうと、ポリコレ(Political Correctness)に反してしまうことかもしれないから、深くは話さないことにする。
その条件で恋愛するにはちょっと難易度高いかも……と思ってしまうような嘘だった。
キムくんは、「冗談だよね?」と言いつついくつか質問をして、時間を置いて真剣なトーンで、「受け入れるよ」と言っていた。
そして、数日が過ぎ、相変わらずその間も連絡はとっていた。
「キムくんの、MBTIはIだよね?」
「うん。ミルは?INFP?」
「え……なんでわかるの?(図星)」
「ミルが言った言葉からそう思った。」
なんか分析されてる……
わたしの発言のどこでそう思ったんだろ?
「僕がなんでわかったか、知りたい?そしたら、秘密を交換しよう。」
「何が知りたいの?」
「当然、年齢を教えて。」
「それはダメ。」
「じゃあ、あの人はご主人だよね?」
「誰?」
「バスターミナルにいた人。」
「誰?タクシーの運転手さんのこと?」
「違う」
あの日、タクシーの運転手さんのほかに誰かいたっけ……?
あ。。
「もしかして、お兄ちゃんのこと???ㅋㅋㅋㅋㅋ」
キムくんは、わたしが既婚者で、兄を旦那だと疑っていたようだ。
笑った。
「妹の旅行のために、早朝にバスセンターまで送ってくれる優しいお兄ちゃんはいない、絶対夫婦だ。」というのがキムくんの理論だった。ちょっと謎だけど。
でも、それは考えすぎだよ、というと、キムくんは言った。
「いや、だって、僕は外国に1人だし、知らない人とタクシーに乗るんだよ。もしかしたら、連れ去られるかもしれないとまで考えた。『犯罪都市』みたいに。」
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まさか、そんなことまで考えていただなんて。
そうか、キムくんがタクシーの中で素っ気ないと感じたのは、こちらを警戒していたからなのか。
いや、でもちょっと待て。タクシーで空港に行くことを提案してきたのはキムくんだし、わたしは善良な一般市民だし。
ケータイを片手に腹を抱えて笑っているところに、またキムくんからのメッセージが来た。
「もう一つ秘密を教えて。この間のあの話、嘘だよね?」
わたしがついた嘘より何よりも、
キムくんがお兄ちゃんをわたしの旦那だと思っていたこと、
お兄ちゃんとわたしがグルになってキムくんを拉致して、ボコボコにして金を巻き上げるかもしれないと疑っていたことなど、
面白くて、おかしくて、なんか嘘をつき続けるのはどうでも良くなった。
「うん、嘘に決まってるじゃん。ㅋㅋㅋ」
「ㅋㅋㅋㅋ。なんで嘘をついたの?」
「なんでだったっけ。思い出せないけど、なんか冗談を言ってみたかっただけだよ。」
本当は、
このまま踏み込んでしまうと、またいつかと同じように、自分が拒絶されり落ち込んだりするんじゃないかと怖くて、関係が進まないように予防線を張りまくりたかったからなんだけど、素直じゃないわたしはすっとぼけた。
そしたら、キムくんが言った。
「なんだ、良かった。僕のことが嫌いになったかと思った😭」
…
…
…
ドキッとした。
うん、ドキッとした。
そして、思った。
わたしも、別に何の気もなかったら、歳が離れていることなんてサラッと言えているはずだ。
言えないのは、わたしもこの関係に期待しているのかもしれない。
今ある自分の気持ちを認めて、深いことを考えずに、ただ単純に楽しむのも良いかもしれない。
夏だし。
「来週の19日に日本に行くことにしたから。」
「うん、わかった!^^」
そうしてわたしたちは、ソウルでユッケを食べてコーヒーを飲んだ日から10日後、再び日本で会うことになった。
次回へ続く……
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【あとがき】
中村佳穂さんの"きっとね!" 歌詞の意味を深く考えたことはなかったのですが、明るい曲調なのにちょっと陰を感じて好きな歌です。
いろんな解釈ができると思うのですが、わたしは歌詞の中の"秘密"は、今まで生きてきた中で通り過ぎた"ほろ苦い経験や思い出したくない過去"で、そんな"秘密"が多いほど優しく、強くなれるでしょう?という意味なのかな?と感じました。
みんなそれぞれ"秘密"を抱えて生きている。これからも傷つくことはあるかもしれないけど、それも全部優しさや強さに変えながら生きていこう、というエールのようにも感じ、この曲を選びました。
中村佳穂さんの歌は、美しさの中にある狂気みたいなものを感じることが多くて、とても魅力的で、大好き。いつかライブで聴いてみたいアーティストの1人です。
▼中村佳穂 "きっとね!" MV
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