不思議な話2

ある時は私は近所のレンタルビデオ屋にいた。
何か映画を借りようかと思っていたのだ。

もう12年ぐらい前の話だ。
ビデオコーナーをうろついてた私はふいに通りかかった男に
「裏切者！」
と罵倒された。
私は何のことかわからず無視していたら、男は何処かへ行ってしまった。

それはそれで終わったのだが、話はそこで終わらなかった。
それから一月後、私は母と二人で温泉にでも行こうと思い、
電車で群馬の水上（みなかみ）へと出かけた。

行ってみれば時期が冬だったので雪が降りだして、どこも温泉が休みになったのだ。
私は母と仕方ないね、と言いカメラを持っていたのでそこで雪や寒桜を撮っていた。

そして帰ろうと細い道に入り歩いたそのときだ。
前方からトラックがゆっくりと走ってきた。
そしてふいに運転手の顔を見たら、

その先日に鴻巣で私を罵倒したその男だったのだ。

顔の見間違いではない。
間違いなく私を「裏切者」と呼んだ男はトラックで私の前を通過したのだ。

鴻巣と水上では随分と遠い。
埼玉と群馬だ。それも当然だろう。
ふつうはあり得ないが、そんなあり得ない事が起こった。

私はしばし呆然と考え、これは何事かと思案した。
しかし答えは出ない。まさか埼玉の鴻巣からついてきたわけでもあるまいし。

その後無事に帰路についたが、未だに答えが出ない。
不思議な事もあるものだ、といまはまだそんなことしか言えないのだ。