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透明なうつわ

【。。。休みが欲しい
ずっと寝ていたい
何ならもう目を閉じたまま、瞼が開くことがなくてもいい
深い水面の奥底に身を沈めていたい
何も目に入らず
耳に届かない場所に身を寄せていたい
それが現実逃避だと言われようと知ったこっちゃない
今の自分には必要な世界だ。。。】

年が明けてすぐ、体調不良で寝込んでいたある日。。。

仕事は勿論数日休みを貰った。だけどやすんだ気がしない。カラダは動かず、ずっとベッドに潜り込んだまんま。

今は何時だろう。。。まだまだ夜明けは来そうにはない。スマホを充電したままリビングに置いてきてしまったので時間は確認出来ないが、子供のいる隣の部屋が静かなので2時は過ぎているはず。

何も見えない暗闇の中で、なにかが蠢く。自分の中に潜んでいる、いつもは奥底に閉じこもっているモノ・・・?

カラダは動かないが頭ははっきりしてくる。目を開けても閉じても同じくらいの真っ暗闇で、私は蠢くものを探してみる。

水面が見える

海の底から上を見ている様な感覚だ

水は決して透明ではなく少し濁っていて、なお且ついい気持ちではない

『早くここから出たい・・・』

なにからそんなに出たいのだろう

自分の中に水が流れ込んでくる感じがして苦しくなった

子供の頃、風邪を引いた時に決まって観る夢があった

それも正月親戚の家に泊まりに行った先で風邪を引き寝込んでしまう時だ

みんなが隣の居間でワイワイ楽しそうにしてるのに、自分だけがその輪に入れず悔しい思いをした

そして一番嫌だったいつも必ず見る怖い夢

海で遊んでて大波に飲み込まれてしまう夢

どんなに必死で走っても大波に追いつかれ、いつも溺れていく

濁った水の中でもがき苦しむ中、水面に映る「のっぺらぼうな顔」がこっちを見てる

助けてくれるわけでもなく ただじっと様子を見てるだけ・・・

どうも久しぶりにその夢の断片が出てきたらしい

数年振りに味わう幼心に感じた恐怖を

この歳になっても思い出してしまうなんでよっぽどだな・・・

と自分の体調の悪さを痛感させられた

こうなるともう、どんどん深いところまで落ちてしまう

今目を閉じてそのまま朝が来なかったらどうだろう?

誰にも何も告げずひっそり居なくなったらどうだろう?

所詮人生なんて人という器の中で蠢く小さな微生物でしかないのだから

目も耳も閉じて

もう自分の中には何も入れなきゃいい

カラダという「器」を取っ払って

いっそのこと「透明な器」に戻ってしまおうか・・・

何故か暗闇の中にガラス張りの空間が現れ

私の四方を覆い始めた

カラダが軽くなり、スッと宙に浮いた感覚がした

足先から段々と透明になっていく

このまま消えてなくなるのもいいかな・・・

自分が心地よいものだけで出来てて

決して嫌なことが起こらない時間が流れる場所

そこならきっと

全てを受け入れて過ごせる気がする・・・

・・・

でも

・・・

誰にも何も言わずに言っちゃうのはダメかな

せめていろんな事を皆んなと一緒にやって楽しんでからでいいかな

今の器でだってやりたい事は何でも出来るもんな

そもそもまだ

遣り残しがあるし・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いつ寝たのか判らないが気がついたら夜が明けていた

あの風邪を引いた時に観る夢が増幅されたのか

リアルにカラダから抜けそうになったのかは定かではない

憶えているのは

深い水の底から見た

こっちを覗き見てる

真っ黒な

「のっぺらぼう」だけ・・・

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