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『佐藤優さん、神は本当に存在するのですか?』

なんといっても佐藤優さんの非常な低姿勢ぶりにコチラの頭が下がる思いでした。竹内久美子さんが全力で真っ直ぐに投げてくる槍を、佐藤さんは時に革盾で辛うじて防ぎつつ拡声器で説得を試み、時にベニヤ板に身代わりに受けさせて、時に既のところで白刃取りし、時にすらりと身を躱す。なんと柔軟で柔和なことか。こんな佐藤さんを初めて見(読み)ました、流石の宗教家です。おそらくは同じクリスチャンでもカソリック信者ではそうはいかないでしょう。プロテスタントしかも神学を極め古今東西の歴史と思想を学しありとあらゆる書物を読み解いてきた人であるが故の姿勢。

つまり神を信じ自らの芯とするのは自由意志であり、神の居場所を内的世界とすれば外の現象をありのままに受け取ることは翻意でもまた恐怖でも何でもないということです。科学とプロテスタントキリスト教とが相反するものではなく、神の存在を信じることは誰でも可能であり、換言すれば科学を信じることが神を排除するものでもない。ただクリスチャンであることは自らに芯を齎し、それが負荷となる場合もあると本音が迸る一面もあり面白い。旧く生じた一神教には、それを体系化するために尤もらしい嘘と創作とを塗り重ねてくる必要があった、だから相当の無理はある、矛盾だらけでもある、しかしその隙間だらけのいい加減さがキリスト教を二千年に渡って存続させてきたとの話にも納得です。

また竹内さんの動物行動学の、特に種の保存に纏わる生殖の話は具体的で面白い。生物としての男性の価値は免疫力である説に目から鱗。男性としての優秀さは男性ホルモンであるテストステロンの持ち量により、彫りが深く筋肉質の肉体美で声もよいこと(つまりいかにも男っぽくまた精力旺盛である)が表に現れるのだが、じつはテストステロンは免疫力を低下させるという一面を持っている。そこで女性の多くは一見して優男でありながらその実様々な能力に長けた部分を誇る男性に惹かれがちである、というところで佐藤さんがすかさず羽生結弦君のようなタイプですね!と(笑)そういう丁々発止なやり取りも読み進むうちに段々と出てきます。あっという間に読め、しかも動物行動学の先端とプロテスタント神学の概要を知ることができるお得な1冊でした。ヨシタケシンスケの絵も◎!

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