振り込め詐欺案件を防いだ話


あれはまだ、今ほど日本の夏が暑くなかった頃のお話。と言っても数年前です。2年か3年。
銀行にお金を下ろしに行くと、普段では見ないような行列が出来ていた。
列に並ぶこと10分くらい。店内が見えるところまで移動すると、1人のお爺さまがATMを悪戦苦闘しているのが見えた。その人がずっと店内に残っているらしく、携帯電話を片手に興奮した様子で操作を続けていた。
何か変だな……しかしあと少しでお金を下ろせる、時間もあまりないからな……。と少し思い悩んだ後に、思い切ってATMのドアを潜った。
中にはガラの悪そうなドレッドヘアの若い男性が居て、機械を弄るわけでもなくお爺さまをジロジロと見ていた。

「えっと、すみません。大丈夫ですかね?詐欺に遭ってませんか?」
振り返って分かる凶悪なストレート球っぷり。他に言い方あったよなあ…次に活かそう。




なんでもない大丈夫だ、と口にするので、引き上げて列の最後尾に並ぶ。
待つこと1分くらいして、お爺さまが外に出る。
私の方に近づいてきて、とても興奮した様子で何かを喋る。しかし良く分からなかった。列の外に誘導し、ゆっくりと話を聞くと、

「知らない人から電話がかかってきて、お金を振り込むように指示された」

勇気を振り絞って声をかけてよかったー!
すぐ近くに交番があったため、話を聞きながらそこまで連れて行くことにした。
道すがら詳しい事情を尋ね、警察官に伝えるべきことを頭の中でまとめた。

ところが。
いざ交番につき「そこのATMで振り込め詐欺があったみたいで、この人が被害者です…」と話を切り出した途端。

「ああはいはいありがとう。もういいですよ」

と言った消極的なリアクションにより、思考が一時停止した。
えっ!?詳しい事情とか、俺の名前や電話番号さえ聞かないの!?
と考えている間に、交番のガラス戸が閉まった。
まあ…お巡りさんの手に引き渡したのだから良いか!と思い直して再度ATMに向かいお金を下ろす。
中途、店内に居たガラの悪い男性を思い出した。
御老体の慌てぶりを見て呆気に取られていただけかもしれない。しかし、そうではなかったのかもしれない。

重要な情報だと思い、再び交番を訪ねると、もう1人の警察官が応対をしてくれて、詳しい事情を伝えることに成功したのだった。後日、刑事さんが伺うかも知れないのでお願いしますとのことで話が終わった。
事情聴取されているお爺さまがこちらに気づき、頭を何度も下げていた。



それ以後、ローカルニュースをチェックしていたが、事件化をしなかったのだろう。続報を聞くことは叶わなかった。

お巡りさん、仕事しなかったの!?












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