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自分の幸せを追うことの難しさ 娘の友達

我が家には図書室がありまして、面白いと思った本がどんどん集まってきます。最近は新刊を読む余裕がなく、気づいたら終わっている漫画がいくつも。そんな積本の一つ、萩原あさ美による漫画作品、娘の友達についてかたります。

家庭では父親として、会社では係長として、“理想的な自分”を演じるように生きてきた主人公・晃介。だが、娘の友達である少女・古都との出会いにより、人生は180度変化する。 彼女の前では、本物の自分でいられた。すり減った心が、癒されていった。それが、“決して抱いてはいけない感情”だと知りながら――。 社会の中で自己を抑圧する現代人へ贈る、“ミドルエイジ・ミーツ・ガール”ストーリーが幕を開ける。

start

この作品から受け取ったメッセージを2つあげるとすると「自分の幸せを追うことの難しさ」「親と子だからこそ分かりづらい互いの心」である。

女子高生と中年男性のイケない恋愛モノと捉えられ、犯罪を助長していると物議をかもした本作だが、完結をみてみればその物議そのものが織り込み済みであったと思わされる。「社会的な正しさ」「父・娘としての役割」に忠実な二人は、正しくあろうと理想的であろうとすればするほど、抱える心の歪みを大きくしていく。真面目で優しく、大事な家族のために、自分が少しでもできることをしようと、心を砕き続けていた。そんな二人が、目の前に自分と同じ歪みをもつ存在をみつけとき「なにかしたい」とそう思わないはずがない。目の前の自分と同じ苦しさをもつ人を助けることは、それは即ち自分を助けることに他ならない。自分の心の苦しみに気づかないふりをしてまで、家族を助けてしまう、心優しく真面目で不器用な人間が、自分自身を救うことは、自分と似た自分ではない存在を救うことでしかなし得ない。他者しか救えないが故に、同じ苦しみを持つ他者を救うことが、彼らができる精一杯の自己救済である。彼と彼女が近い年齢であれば、なんの問題もなかった。例えばシングルマザーであれば、社会的にも祝福され、互いに支え合い、生きていく。この場合の物語はむしろ再婚後にあるだろう。本作のポイントはまさにこの点であり、彼と彼女の年の差が、社会的に許容されないレベルで、目の前の同じ苦しみをもつ存在を癒やす行為そのものが、不適切とされてしまうところである。何という不運か。真面目で優しく大事な家族のために、自分が少しでもできることをしようと、心を砕き続けて、壊れそうな二人が、その「社会的な正しさ」「父として娘としての役割」を全うしようとすればするほど、自分と同じ苦しみを抱える目の前の存在を、救えなくなってしまう。目の前の存在を本当は誰よりも救いたいのに、それと同じくらい大事で大切に思っている家族を、天秤にかけることを、社会は要請してくるのだ。心が張り裂けるとは、まさにこのことなのだろう。

本作の雰囲気として、一人親家庭であることを普通ではないととらえ、親が頑張ることで子供に不自由をかけさせまいと、普通に育ってほしいと願っているふしがある。そういうものなのだろう。どちらの家庭も親子関係は良好とは言えないが、一つ間違いないことは子供を愛しているということ。この点は共通している。ただし皆さんご承知の通り愛していれば、それだけで関係性がうまくいくなんてことはない。親子だからこそ伝わらない思いがあり、考えがる。親子のコミュニケーションを阻害するのはいつだって、親と子という関係性である。どうも人間は、親と子という役割を与えられると、互いのことを人間とは見れなくなるらしい。相手は人間ではなく、父であり母であり娘なのである。本作もこの現象の範疇であり、コミュニケーションを取ろうとすればするほど、こじれにこじれ、理解しようとすればするほど、父であるという事実、娘であるという事実に邪魔をされて、見当違いに着地してします。家族(他者)を思いやるばかりに、自分の幸せ追いきれない。娘・娘の父・娘の友だち・娘の母 すべての人物がそうであった。

心が張り裂ける寸前まで、いや、張り裂けてしまったか、そんな彼らの行き着く先は、物語のエンディングは、果たしてどうなるのか。物議をかもしたように、女子高生と中年男性のイケない恋愛モノで犯罪を助長している物語であるのかどうなのか、ぜひ自分の目で確かめてほしい。

 end

自分も、役割を押し付けるだけで何もしない社会の一員であることを自覚するわけで、そのようなプレッシャー規範意識がなければ、成り立たないのが今の社会であり、願わくば、そんなものがなくても成立する社会を、自分の周りだけでも作っていけたらなと思うのです。できる範囲で、やれるだけ、高望みせず、ゆっくりと、自分が死んで、そのあとくらいには、という気持ちで。いや社会は別にいいや。自分と大事な人の世界が、幸せになりやすい世界であれば。世界平和は神に祈って、僕は僕と大切な人たちの平和のために、日々生きていきますよ。そのくらいの距離感が多分一番いいよ。人間らしくてね。

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