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インボイス制度「少額特例」と「少額な返還インボイスの交付義務免除」をざっくり解説(インボイス制度解説Part3)

令和5年10月1日から開始されるインボイスについて残り半年となりました(記事作成日は令和5年3月)。制度開始に伴う軽減措置がとられてはいますが、情報の浸透はまだまだという印象です。国税庁のホームページや動画を見ても、難しい用語が並んでいるだけで果たして何割の方が理解できたか疑問が残ります。
この記事ではインボイスの制度解説を3つのテーマに分けてお送りいたします。
Part1は消費税計算の基礎とインボイスとの関係
Part2はインボイス制度開始に伴う負担軽減措置である「2割特例と仕入税額控除80%の経過措置」
Part3は1万円未満の取引についてインボイス不要になる「少額特例」と「少額な返還インボイスの交付義務免除」
Part1~Part3は相互に関係するテーマになりますので是非御覧ください。

今回はPart3の1万円未満の取引についてインボイス不要になる「少額特例」と「少額な返還インボイスの交付義務免除」について解説します。
*前回のテーマはこちら

インボイス制度後の請求書・領収証はこう変わる

インボイス制度が始まると制度の要件に合わせるため請求書・領収証の記載事項に変更が入ります。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-09.pdf

参考 適格請求書の記載事項

国税庁ホームページ

通常の消費税率10%の売上と食料品等の8%の売上に分けて、消費税額を明記して、インボイスに登録している事業者名と登録番号の記載が必要です。しかも、消費税に関係する全ての取引に対して、この内容を記載した請求書や領収証を発行、買い手であれば受領し保管しなければなりません。この要件に有った請求書や領収証のことを適格請求書等と言います。

インボイス制度以前の領収証等の発行、受領と比べて手間が増えることは間違いなく、この手間を軽減するための施策が今回のテーマである「少額特例」と「少額な返還インボイスの交付義務の免除」です。

少額特例(軽減措置)を解説

少額特例は、消費税申告義務の有る中小事業者に限り、1万円未満の仕入や経費支払いについてインボイス対応の領収証が無くても、帳簿の記帳だけで仕入税額控除していいと認めてくれる制度です。
仕入税額控除とは、下記の式の様に「売上に含まれている消費税から経費に含まれる消費税を差し引く」ことです。

【計算例 売上(税込み)1100万円・経費(税込み)550万円として】
100万円(売上に含まれている消費税) ー 50万円(経費に含まれる消費税) =納税する消費税

消費税の計算上、売上に含まれている消費税から、経費に含まれる消費税を差し引き残った分を納税します。インボイスが始まると、この経費に含まれる消費税についてインボイスに合致した適格請求書等を発行してもらい保管しないと差し引けなくなるのが原則です。

しかし、今回の少額特例では、1回の取引で税込み1万円未満の場合は適格請求書が不要で帳簿の記帳だけでも良くなります。ちなみに1万円未満とは1万円ピッタリは含みません。つまり1万円ピッタリの取引はインボイスが必要になりますのでご注意ください。

少額特例の対象者

少額特例は全ての事業者が対象ではありません。特例の対象は「基準期間における課税売上高が1億円以下」又は「特定期間における課税売上高が5000万円以下」の事業者が対象です。具体的に例を上げてお話します。

消費税の申告義務の有る3月決算の会社を例にします。この会社にとって令和5年度とは令和5年4月1日から令和6年3月31日までです。

この会社の令和5年度における基準期間は2年度前である令和3年4月1日から令和4年3月31日までが該当します。この年度の課税売上高が8000万円の場合は「基準期間における課税売上高が1億円以下」に該当し少額特例の対象になります。

もう一つ、この会社の令和5年度における特定期間は1年度前の令和4年4月1日から9月30日までが該当します。この半年間の課税売上高が4000万円なら「特定期間における課税売上高が5000万円以下」に該当し少額特例の対象になります。

では、基準期間である令和3年4月1日から令和4年3月31日の課税売上高が1億1千万円で、特定期間である令和4年4月1日から9月30日までの課税売上高が4000万円の場合はどうでしょうか?この場合は少額特例の対象になります。

これは要件が、基準期間における課税売上高が1億円以下「又は」特定期間における課税売上高が5000万円以下とあります。又はとは「どちらか」という意味なので、令和3年から令和5年の課税売上高が1億円前後で推移していて、少額特例が利用できないか判断に迷う事業者の方は確認してみてください。

ここで、用語の解説です。課税売上高というのは消費税を計算する際に対象となる売上の事を言います。通常の商品の販売やサービス料金が対象です。例えば病院の公的保険が適用される診察代や薬代、土地の代金、賃貸住宅の賃料などは消費税が掛かりませんので課税売上高にはカウントされません。

少額特例はいつまでできる?

利便性の高い制度ではありますが、期限があります。期限は令和5年10月1日から令和11年9月30日までの期間が対象期間となります。そのため、令和11年10月1日以後は、少額特例の適用はありません。
*令和5年3月時点の情報です

仕入税額控除80%の経過措置と異なる点は?

仕入税額控除80%の経過措置は「適格請求書」の無い仕入れや経費の支払いでも、支払いに掛かる消費税の内80%は差し引いても良いという措置になります。取引金額は関係しません。よって、1万円未満の取引は少額特例、それ以外は経過措置が利用できます。ただし、80%である期間は令和5年10月から令和8年9月末までです。更にその後、令和8年10月から令和11年9月末まではこの80%が50%に減少となります。

少額な返還インボイスの交付義務免除

では最後に、少額な返還インボイスの交付義務免除について解説します。
本来は値引きや返品に対してもインボイス対応の領収証などを発行しなければなりません。これは返還インボイスと呼ばれています。今回の制度改正で、この返還インボイスについて1万円未満の取引については発行しなくても良くなりました。

例えば小売や卸売について通常の値引き・返品は、この少額な返還インボイスの交付義務免除の対象と出来ます。

更に、取引先に10万円の代金を請求をしたとして、振込手数料550円を引いて振り込まれた場合、経理処理で550円分の値引きをしたとすると、本来は550円について返還インボイスが必要ですがこれも免除されます。

この少額な返還インボイスの交付義務免除については、全ての事業者が対象となり、期限もありません。つまり恒久的な制度となります。

全3回で「消費税とインボイスの概要」「2割特例と仕入税額控除80%」「少額特例と少額な返還インボイスの交付義務免除」について解説しました。

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インボイスに関するご相談

本記事は税理士・社会保険労務士・行政書士など専門家の集まるグループ企業:みらい創研グループが作成しております。インボイス制度開始に伴い税理士のアドバイスやコンサルティングをお考えの方は是非お問い合わせください。*日本みらい税理士法人はグループ企業です。


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