見出し画像

インボイス制度「2割特例」と「仕入税額控除80%の経過措置」をざっくり解説(インボイス制度解説Part2)

令和5年10月1日から開始されるインボイスについて残り半年となりました(記事作成日は令和5年3月)。制度開始に伴う軽減措置がとられてはいますが、情報の浸透はまだまだという印象です。国税庁のホームページや動画を見ても、難しい用語が並んでいるだけで果たして何割の方が理解できたか疑問が残ります。

この記事ではインボイスの制度解説を3つのテーマに分けてお送りいたします。
Part1は消費税計算の基礎とインボイスとの関係
Part2はインボイス制度開始に伴う負担軽減措置である「2割特例と仕入税額控除80%の経過措置」
Part3は1万円未満の取引についてインボイス不要になる「少額特例」と「少額な返還インボイスの交付義務免除」

Part1~Part3は相互に関係するテーマになりますので是非御覧ください。
今回はPart2の2割特例と仕入税額控除80%の経過措置について解説します。
*前回のテーマはこちら

インボイスの2割特例とは何か?

2割特例について解説致します。余談ですが、この2割特例は「激変緩和措置」とも呼ばれています。激変緩和措置と呼ばれている理由はおそらく、財務省のインボイス制度の改正案に関する資料の中に「納税額を売上税額の2割に軽減する激変緩和措置を3年間講ずることとする」という表記が有り、ここから来ているのではないでしょうか?ただ、経済産業省においても「電気・ガス価格激変緩和対策事業」として、高騰する光熱費への対応を行っており区別する意味も込めてインボイス制度ついては2割特例という言葉が使われ始めたのではないかと思われます。

消費税の納税額が2割に軽減されるとは一体どういう制度なのでしょうか?
分かりやすくするため、1年間の消費税込みの1年間の売上が1100万円だった場合を例に計算します。

売上1100万円の内100万円が納めるべき消費税の元手となります。納税額が2割になるとは、この100万円の内、2割を納めてくださいという制度です。

【2割特例の計算例】
売上代金と一緒に徴収した消費税100万円 ✕ 20% = 納めるべき消費税20万円

この2割特例の対象者は免税事業者だけど、インボイスが始まることで「消費税課税事業者」になり「適格請求書発行事業者」になった方が対象です。残念ながら令和5年度で課税事業者である方はこの2割特例を利用できません。

2割特例はいつまで利用できる?

この2割特例が受けられる期間について解説いたします。基本的な考え方として対象期間はインボイスが始まる「令和5年10月1日から令和8年9月30日の属する課税期間」が対象です。分かりにくいので例を交えて解説いたします。

【例1】個人事業者で、インボイスが無ければ、本来はずっと免税事業者だった方の場合

2割特例で消費税の計算をし始めるのが令和5年10月1日からです。よって、次の年の確定申告の際には所得税の他、消費税の申告書も提出して納めます。ただし、この年に限って消費税は令和5年10月1日から12月31日までの3ヶ月分のみが対象となります。そして、令和8年ですが、令和8年1月1日から12月31日までが2割特例の対象になります。

【例2】3月決算の法人でインボイスが無ければ、本来はずっと免税事業者だった会社の場合

令和5年4月1日から始まる事業年度における消費税の申告は、この年度に限り10月1日から令和6年3月31日まで6ヶ月間を2割特例の対象にします。そして、令和8年3月31日の決算の際も2割特例のままです。

次がポイントです。令和8年4月1日から令和9年3月31日の事業年度ですが、この期間も2割特例の対象です。

何故なら2割特例の対象期間は「令和5年10月1日から令和8年9月30日の【属する】課税期間」です。9月30日までとせず「属する」なので、令和8年9月30日が属する課税期間は、例に出てきた3月決算の法人にとって、令和8年4月1日から令和9年3月31日が当たるからです。

【例3】免税事業者でスタートしたけど、インボイス制度に関係なく途中で消費税の申告義務の有る課税事業者になった場合

消費税の申告義務が有るかどうかの判定は2年度前の課税売上高で判定します。個人事業者を例にしてお話します。例えば令和7年から消費税の課税事業者になる方は、令和5年度の売上が1000万円超の方が対象です。

これをインボイス制度と絡めてお話します。

令和3年の課税売上高が1,000万円以下の場合、本来は令和5年度も免税事業者です。しかし、10月1日のインボイス制度スタートと同時に「適格請求書発行事業者」となり消費税申告義務が発生しました。この時点では2割特例の対象です。そして、売上が順調に伸び、令和5年12月31日時点の売上が1500万円となりました。

令和4年の課税売上高が1,000万円以下であれば令和6年度も本来は免税事業者であり未だ2割特例の対象ですが、令和7年度からは2割特例の対象外となります。何故なら、2割特例はインボイスが無ければ本来ずっと免税事業者だった方が対象だからです。インボイスの有無に関係なく、これまで通りのルールで消費税の課税事業者になる方は対象になりません。

この例では令和5年度に売上が1500万円であれば、令和7年度はインボイスに関係無く消費税の申告義務が有ります。

2割特例に手続きは必要か?

2割特例を利用したい場合、改めて申請を出す必要は有りません。消費税の申告書に2割特例を利用するかどうかの選択欄が有りますので、そこに選択する旨の記載をすれば良いとされています。

仕入税額控除80%の経過措置とは何か?

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/01-15.pdf

参考 免税事業者からの仕入れに係る経過措置

 国税庁ホームページ 

ここまでは、インボイスが無ければ本来ずっと免税事業者だった方に対する緩和措置である2割特例のお話でした。
ここからは、消費税の申告義務の有る方…課税事業者の方を対象にしたインボイスに関連する制度であり、制度開始と同時にこれまでのルールが急に変わることへの緩和としての施策です。

仕入税額控除80%の経過措置の対象となる取引

80%控除の経過措置の対象となるのは「課税事業者」であることを前提として、仕入れや経費の支払い先が免税事業者の場合です。

1年間の消費税込みの1年間の売上が1100万円、消費税込みで支払った経費が550万円だった場合を例に計算します。
【計算例】
売上代金と一緒に徴収した消費税100万円 ー 経費の支払いの際に一緒に払った消費税50万円 = 納めるべき消費税50万円

インボイス制度が始まると、この経費の支払いの際に一緒に払った消費税50万円の部分は、経費の支払先がインボイス制度の対象とする「適格請求書」を発行しなければ本来は差し引くことができません。

仕入税額控除80%の経過措置は「適格請求書」の無い仕入れや経費の支払いでも、支払いに掛かる消費税の内80%は差し引いても良いという措置になります。

ただし、80%である期間は令和5年10月から令和8年9月末までです。更にその後、令和8年10月から令和11年9月末まではこの80%が50%に減少となります。対象期間について2割特例と異なるのは、「令和5年10月1日から令和8年9月30日まで」で完了するという点です。属するではなく、令和8年9月30日までの取引が経過措置の対象です。

経過措置を受けるための手続きは有る?

この経過措置を受けるために何か書類を提出する必要は有りません。従来どおり「区分記載請求書等保存方式」で求められる内容の請求書や領収証の保存で良いのですが、帳簿の記帳の際に免税事業者からの仕入れである旨を追加する必要が有ります。

区分記載請求書等とは、経費の支払いの際に一緒に払った消費税を差し引くには、この様な形式の請求書や領収書の保存をしなければ認められないとする制度です。食料品など消費税率8%のものと、通常の10%のもののそれぞれの合計を分けて記載されています。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/qa/02-06.pdf

参考 区分記載請求書等保存方式(帳簿及び請求書等の記載事項並びにこれらの保存)

 国税庁ホームページ 

次回のnoteでは「少額特例」と「少額な返還インボイスの交付義務免除」について解説します。是非この記事のスキとフォローをよろしくお願いします。

インボイスに関するご相談

本記事は税理士・社会保険労務士・行政書士など専門家の集まるグループ企業:みらい創研グループが作成しております。インボイス制度開始に伴い税理士のアドバイスやコンサルティングをお考えの方は是非お問い合わせください。*日本みらい税理士法人はグループ企業です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?