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北海道大学法学部2年次編入試験(小論文)の解説をします[第3回]


 前回は、令和4年度北海道大学法学部2年次編入の小論文問題の問1の解説をしました。今回は問2の解説をします。課題文(大意)は、第1回に紹介してますので、そちらをご覧ください。

■ 設問(問2)
 問2は、意見陳述問題(配点30点) で、
  「下線部②に関して、平等原則違反であるとあなたが考える例、あるい
   は、平等 原則違反のようにも見えるが、平等原則違反ではないとあな
   たが考える例を一つ挙げ(身近な例でもよい)、「ベースライン」 とい
   う言葉を用いながら、あなたが挙げた例がなぜ平等原則違反であると
   いうべきなのか、あるいは、なぜ平等原則違反ではないというべきな
   のかを、400字以内で論じなさい。」

という問題です。

 なお、下線部②とは、日本人の親と血統上のつながりのある子は日本国籍を取得できるという大原則があるから、国籍法の規定は平等原則に違反するという文の後に続く文で、
 
   「同じことは、平等原則違反が問題となる場面一般にあてはまる。」
 
という文です。このあとには男性の定年60歳、女性の定年55歳という具体例が続いています。本問に答えるうえで特に必要な文ではないので、単純に、平等原則違反の例、または平等原則違反のようだが平等原則違反ではない例を論じればOK。

■ 解説 
 解答の条件を整理すれば、次のとおり:
  ①平等原則違反である(または平等原則違反ではない)例を挙げる
  ②例は「身近な例」でもよい
  ③「ベースライン」 という言葉を使って平等原則違反である(または平
   等原則違反ではない)と考える理由を述べる
 
 まず、例を考えないといけない。憲法訴訟になるような問題ではなく「身近な例で」よいが、ここで例を思いつけなければ万事休す! 普段から法律や政治の問題に関心を持っていないと適切な例が出てこない。
 
 たとえば、かなり前になるが、浴槽で泳ぐ、石鹸を流さずに浴槽に入る、大声で騒ぐなどの外国人のひどいマナー違反が目についたため、北海道のある温泉施設が「Japanese only」という張り紙を出して、外国人の入場を拒否したことがあった。これは平等原則違反になるかということでもよい。
 
 憲法の問題として出題されていたら、そもそも外国人に日本の憲法が適用されるのかとか、温泉施設の利用は民間企業である温泉施設と個人(外国人)との間の契約にもとづいているが、このような民間の契約に憲法が適用されるのかなどが必須の論点になりますが、2年次編入ではこのような論点を論じる必要はありません。
 
 本問で求められているのは、設問の指示にある「ベースライン」という観点から論じること。つまり、憲法の知識があるかどうかではなく、課題文を読んで、「ベースライン」の意味を理解し、その概念を運用できるかどうかがキーポイント。
 
 現実には人それぞれいろいろな事情があるから、個別に異なる扱いを受けているが、みんな人間として平等なのだから、最初の出発点は全員一律に同じ扱いをする必要がある。この原則となる全員一律の扱いが「ベースライン」です。
 
 課題文では、この「ベースライン」がふたつ考えられ、どちらを取るかによって結論が異なると書かれています。
 
 たとえば、溺れかけている人に100万円で助けてあげると言った場合に、もし救助義務ありがベースラインなら、これは「脅迫」だが、救助義務なしがベースラインなら、単なる契約の申込みになるという例が挙げられています。また、日本人の血統をもった子はすべて日本国籍を取得できるのがベースラインなら国籍法の規定は平等原則違反で違憲だが、取得できないのがベースラインなら平等原則違反にならないという例も示されています。
 
 したがって、答案では、これらの例を参考に自分の挙げた例についてどのような「ベースライン」がありうるのか、どのベースラインをとると、どのように問題が解決されるかを記述しなければなりません。
 
 温泉施設の外国人拒否の例で言えば、ベースラインとしては、第1に、温泉施設は料金さえ払えば、国籍に関係なく利用できる施設であるというものと、第2に、温泉施設はだれを入場させるかを自由に決めることができるというもののふたつが考えられます。
 
 第1のベースラインをとれば、外国人拒否は原則として平等原則違反になるし、第2のベースラインをとれば、そうではないことになる。答案としては、一方を採用する理由と、その結果生じる結論を述べればOK。
 
 たとえば、第1のベースラインを採用した場合、その理由としては、たとえば、外国人入浴客のマナーが悪く他の利用客に迷惑がかかったとしても、その原因は入浴客の国籍ではなくマナー違反行為だから、マナー違反の防止策を検討するべきであり、国籍を利用条件にして外国人を排除する必要はない。このベースラインを採用すれば、外国人であれ日本人であれ、原則として料金を支払えば入場を認めるべきであり、外国人だから入場を拒否するというのは平等原則違反になる。マナー違反の人に対しては、外国人であろうとなかろうと、入浴マナーを説明して場合によっては退去させるなど個別に対応すれば十分であり、外国人一般を拒否する理由にはならない、というようなことを書けばいいでしょう。
 
 逆に第2のベースラインを採用する理由しては、一例をあげれば、契約の自由は資本主義社会の大原則だから、温泉施設側はだれと契約するか、つまりどの人を入場させるかを自由に決めることができる。この例では温泉施設に対する風評被害が重大なダメージになるおそれがあり、個別に対応できるほどの経営資源がないので、マナーの悪い外国人はごく一部だとしても外国人全般の利用を拒否することも理由がないわけではない。外国人嫌悪による利用拒否などの合理的な理由のない場合のように、よほどのことがない限り契約自由の大原則を曲げることはできない。したがって、第2のベースラインを採用するべきであり、外国人の入場拒否は、温泉施設側の自由裁量の範囲内であり、平等原則違反にはならない、というようなことを述べればいいでしょう。
 
■   採点基準
●  平等原則違反である(または平等原則違反ではない)例になっていない場
 合、0点
●「ベースライン」 という言葉を使っていない、または、その意味を理解し
 ていない場合、0点
● 平等原則違反である(または平等原則違反ではない)と考える理由を述
 べていない場合、0点。理由として不適切な場合、程度によりマイナス
 20~30点。
 
■   対策
 以上見てきたように、2年次編入の意見陳述問題は、専門的な知識はいりませんが、普段から法や政治について関心をもつのは当然として、それについて自分の考えを書く練習をする必要があります。しかし、考えたことを書こうとするとうまく書けないこともよくあるし、もし書けたとしても、それが適切かどうかを自分ひとりで判断するのはむずかしいでしょう(不可能とは言いませんが…)。

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