これからの農業を皆で考えましょう


このページでは映画「君の根は。」で描かれているリジェネラティブ(大地再生)農業「(環境保全型農業や不耕起栽培(ふこうきさいばい)」について考えていきたいと思います。まず、今使われている農法の現状や、今後普及していくかの見通しなどを出来るだけ客観的な情報を元に整理しました。ぜひ、これを見た皆さん一人一人が考えるきっかけになって頂ければ幸いです。また、この記事はわたしく池見淳(いけみじゅん)個人の見解であり、参政党とは関係ないことをご理解願います。

環境保全型農業または不耕起栽培とは

『君の根は。』にはアメリカの比較的小規模な家族経営の農場や牧場の人びとが登場して、いかにして彼らが、化学肥料・農薬・G M O(遺伝子組み換え)が当たり前の慣行農業から、大地の再生を最優先にする農業へと転換を遂げたかという、プロセスが描かれている。登場する家族経営の農場では、不耕起栽培(ふこうきさいばい)はしているが、農薬を使用しているかは描かれていない。また肥料については栽培した植物を刈り取って畑に残しており、これが微生物に分解され肥料になるので自然な肥料(緑肥)を使っていると言える。また、その他、肥料を使用しているかは描かれていない。

まず、農業における一般的な各農法について簡単に分類します。
また、書籍やサイトにより⚪︎⚪︎農業、⚪︎⚪︎農法、⚪︎⚪︎栽培など言い方が様々ですが、ここではよくある呼び方を記載します。

慣行栽培・慣行農業
実は、慣行栽培の意味とは何かを明確にする基準や規定はありません。「慣行」という言葉は、「以前からの慣わし(ならわし)として行っていること」や「普段から習慣として行っていること」を表します。農薬や肥料をどの程度使うかという慣行レベル(地域慣行栽培基準)は、農林水産省の「特別栽培農作物に係る表示ガイドライン」により、都道府県ごとに地域の気候や特性を考慮して地方自治体が定めます。

特別栽培・環境保全型農業・エコファーマー
特別栽培はその言葉自体の定義はないものの「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」(以下、特栽ガイドライン)で定められた農産物を生産する栽培方法と定義づけできます。特別栽培農産物の表示をするためには、その農産物の栽培過程で使った節減対象農薬の使用回数や化学肥料の窒素成分量を、その地域の「慣行レベル」の50%以下とする必要があります。環境保全型農業とは「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」ですが、特別栽培からの流れから地球温暖化対策、環境配慮などの考慮も入れたものと言えます。エコファーマーは「持続性の高い農業生産方式の導入に関する計画」を都道府県知事に提出して認められた農業者の愛称で、環境保全型農業に近いものです。

有機栽培・有機農法
有機農業推進法によって定義されている栽培方法です。要約すると、化学合成肥料や農薬、遺伝子組換え技術を利用せず、環境への負荷をできるかぎり低減した方法で行われる農業のことです。「科学的な」ものが使われないだけで、肥料や農薬は使用します。
この定義とは別に、有機農産物の日本農林規格(有機JAS)があります。農産物に「有機農産物」や「有機○○」と表示するには、有機JASの基準に従って生産された農産物であることが必要です。自然由来の肥料は使用し、指定された自然由来の農薬は使用可能です。

自然栽培・自然農法・自然農
自然栽培とは、化学農薬や肥料を使用せず、本来作物がもっている能力を引き出す農法のことです。自然栽培においては、肥料がなくても作物にあった土壌づくりや、虫が大量発生しない環境づくりが重要となっています。
ポイントとなるのは自然栽培に明確な定義は特にないことです。実践する人たちの間には「自然の力を生かす」ことが共通認識としてありますが、細かな作業(除草・土の耕し・堆肥(牛糞、鶏糞、樹皮))においては、それぞれの考え方や土地条件によって多少異なります。

以上4つが、農業・栽培方法を大きく分けたものとなります。
不耕起栽培というのはこの粒度で語られるものではありません。ただ、カテゴリとしては自然栽培や環境保全型農業の部類に入ってくる場合が多いと思われますが、明確な定義はありません。環境保全型農業には、映画でも紹介しているカバークロップや不耕起栽培も範疇にありますが、無農薬、無肥料ではなく減農薬、減肥料です。自然栽培は不耕起が基本です。

以上を簡単に整理すると、不耕起栽培は耕さない分だけ作業の効率化・コストダウンが図れる、CO2を土中に貯留できるという反面、慣行農業では発生しなかった収穫量が少なくなったり、成長スピードが慣行栽培に比べて遅いと言うデメリットがあり、結局何のメリットを受け取りたくて、何のデメリットを許容できないかという生産者の価値観に大きく影響されるように思う。また、全ての農地や農作物に適さないため、全面的に不耕起栽培にすることは現実的ではない。さらに、勘違いしやすいが、いわゆる無肥料・無農薬=不耕起栽培ではないという点にも注意したい。要は不耕起栽培とは、「とにかく耕さないことで田畑を自然に近い形にする」という農業をやる上での一つの手段であり、環境に配慮した場合に選択されるということが言える。ただし、おそらくこの映画を観てくれた方は一つの農法を知りたかったというよりも、無肥料・無農薬・不耕起の身体に優しい、出来るだけ自然に近い農業の可能性を感じたかったのではないかと想像します。環境に良いか、身体に良いか、その他の観点で見ていきたいと思います。まず、以下の表を見てください。

ここで言う肥料とは、人為的に行うもの全てとなるため、栽培した農産物の残さをそのまま畑に放置すると微生物が分解して肥料になっているとは言えますが、あくまで自然の形にごく近いので肥料は与えていないとします。

健康への影響

農薬、肥料は健康に影響があります。ただし、健康への影響については、昔はともかく今の農薬はほぼ健康に影響ないと言う意見もあり、かなり確りとした根拠もあります。また、健康への影響という意味ではどちらかと言うと消費者より生産者の方が大きいです。これは、考えてみれば当たり前で生産者は農薬を散布する時に直接肌に触れたり、マスクなどしても微量には吸い込んだりしているでしょうから。「奇跡のリンゴ」で有名な木村秋則さんは、1970年代当時、農薬の影響から家族を守ために無農薬に取り組んだと著書に書かれています。
木村秋則 著「リンゴが教えてくれたこと」

また、欧米を中心に旧モンサント社が発売したラウンドアップという農薬による健康被害で総額1兆円超の損害賠償を支払ったと言われていますが、以下の記事では「裁判で負けたのだから、やっぱりラウンドアップは発ガン性があるんでしょ」と理解する人が多いのだが、コトはそう単純ではないとあります。要約すると以下となる。

Yahooブログ
「アメリカの裁判で莫大な賠償金支払いを命じられた農薬「ラウンドアップ」の発ガン性検証」
https://news.yahoo.co.jp/byline/satotatsuo/20191024-00148027

IARC(国際がん研究機関)の「発ガン性に関する分類」
IARCはラウンドアップの主要成分であるグリホサートを「2A」に分類した。

https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/risk_analysis/priority/hazard_chem/iarc.html


・「グループ2A:おそらく発ガン性がある」で、熱い飲み物・赤肉・紫外線・美容業・理容業など(約80種)が含まれている。
・この分類はあくまでガンと関係があるという論文の多さから導き出しており、実際にグループ分け通りに発がん性が高いかは不明。
・なお、関係があるとされているグループ1には飲酒・加工肉・ピロリ菌・放射線・太陽光・喫煙・塗装業など(約120種)が含まれている。
実際に発ガン性があるかは分からないが、ラウンドアップの健康に対する危険性は飲酒以下、日焼けや熱い飲み物と同等だと言える。お酒を毎日飲むのは身体に悪いだろうし、年中日焼けするのも良くなさそうだが、適度なら誰も危険視はしないだろう。つまり、ラウンドアップで危険に晒される可能性があるのは毎日使う可能性のある農業従事者、園芸関係者ということになろう。裁判の原告には校庭の植栽にラウンドアップを使用してガンになったと訴える方もいます。どれだけ農産物に農薬が残っているかわからないが、消費者は農業従事者よりは格段に危険性は低いと言える。できるだけ無農薬、無肥料の農産物を食べるようにし、時々食べる慣行農業で作られた農産物、飲食チェーン店舗で食べる外食などは過敏に敬遠するほどではないと推測される。むしろ、あたかも毒物かのように敬遠する方が精神的に良くないように思われる。
また、時代により農薬の毒性はかなり下がっており、「毒物」「劇物」「普通物」と言う農薬の分類の中、現在は約80%が普通物となっている。また。農薬の毒性は一日摂取許容量(ADI)のさらに100分の1(ADIは毎日摂取しても健康に影響がない許容量のこと。さらに、慎重に考えてこの許容量の100分の1が上限)と言う量が上限とされている。

味の素株式会社
「農薬の役割って?安全なの?」

https://www.ajinomoto.co.jp/products/anzen/know/chemicals_01.html

ただし、現在でも化学物質過敏症など、使用量の上限を超えていないものに過敏に反応する人が多くいるので、全く影響がないとは言えないと思われる。実際に化学物質過敏症で必要に迫られて「自然栽培」をやっていたと言う方もいます。

IF YOU MARK
「化学物質過敏症で農薬が使えず、気がついたら自然栽培になっていた 当たり前に自然と共に生きてきた私が伝えたいこと」
https://inyoumarket.com/shops/voice-of-vendors/sensitivetochemicalsubstances/

https://inyoumarket.com/shops/voice-of-vendors/sensitivetochemicalsubstances/

次に肥料ですが、これも健康に影響する可能性があります。河名秀郎著「野菜の裏側」と言う書籍で慣行栽培、JAS有機栽培、自然栽培の大根やきゅうりを瓶に入れてどうなるか観察するという実験をしたところ、なんと化学肥料を使っていないJAS有機栽培が一番に腐り、次に慣行栽培が腐りました。自然栽培は腐らずに発酵して漬物のようになりましたと書かれています。肥料というのは植物を成長させる栄養素です。すべての動植物は細菌により分解されいずれ土に帰ります。人間が好む方向に分解することを「発酵」と言い、人間が好まない方向に分解することを「腐敗」と言います。自然栽培の場合、微生物が有機物を分解して作ってくれた限られた無機物をせっせと吸収します。しかし、人間に肥料を与えられた植物は自分で吸収しようとしなくてもいくらでも栄養素があるため生物としての生き抜く力が弱まっていると想像できます。過保護に育ってしまったとでも言いましょうか。生きる力の弱い農産物は虫に食べられます。植物も生物ですから食べられたくないわけです。よって、ファイトケミカルと言う抵抗性物質を作ったり、植物自らが農薬のようなものを生成したりします。これを虫が嫌って、あまり食べられないようです。もちろん、虫も生きるために必死ですから、全く食べられないと言うことはありません。でも、自然栽培と慣行栽培の植物の両方があれば、食べやすい慣行栽培のものから先に食べるでしょう。「野菜の裏側」では、余分な窒素肥料が硝酸態窒素となり、それを虫が好むと書かれています。硝酸態窒素は非常に危険で、アメリカでは硝酸態窒素が多く含まれた葉物野菜をすり潰したものを食べたり、硝酸態窒素が含まれた水をミルクに使って赤ちゃんが酸欠で青くなって亡くなるという「ブルーベリー症候群」と言う事故が起きています。
肥料で育った農産物はファイトケミカルが少なく、食べた人の免疫アップにあまり貢献しないと思われます。肥料のやり過ぎは硝酸態窒素を増やして、人体に害が出る可能性があります。硝酸態窒素には注意する必要がありますが、植物の生命力やファイトケミカルが健康に貢献するかは研究や論文もあるので効果はあると思われるが、個人差があるだろうし、劇的に変わると言うものではないと思われます。慣行栽培と有機栽培の栄養成分を比較した論文なども出ており、明確な差は見られなかったと結論づけています。
ただし、官能特性(美味しいと感じるかどうか)は有機栽培に若干有意なデータも示されている。1958年〜2008年までの有機栽培における報告を調査し、有機栽培と慣行栽培の比較による栄養的品質の違いを証明する科学的根拠はないと結論づけている。論文でも、栽培方法の違いというより、土壌や環境、品種による違いの方が栄養素や官能特性に影響する可能性があるとも言っている。以上のことからも、健康的な影響としては、線引きするならば自然栽培とそれ以外で分けられると言える。

女子栄養大学
栽 培 条 件 (有 機 栽 培 と 慣 行 栽 培 )の 違 い に よ る 野菜栄養成分の 比較 https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/79/10/79_KJ00004407273/_pdf
栽 培 条 件 (有 機 栽 培 と 慣 行 栽 培 )の 違 い に よ る葉物野菜の栄養成分と官能特性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh/24/2/24_68/_pdf

健康への影響をまとめると以下のようになります。
・農薬の人体への影響は昔は大きかったが、近年では改善されてきている
・農薬の影響が大きいのは農産物の生産者、消費者への影響はより少ない。結局、自分のことを一番わかっているのは自分なので、生産者や園芸関係の方などは、誰しも同じ影響があるものではないので、農薬を使った時の自分の体調を気にしながら、適切に使うのが良いと思われる。
・欧米で旧モンサント社がラウンドアップという農薬の健康被害で1兆円を超える損害賠償に応じており、原告は主にラウンドアップを長期に使い続けてきた生産者や校庭等の整備師など。
・化学物質過敏症の方などもおり、科学農薬、化学肥料が影響している可能性もある。個人差があるので、体調思わしくなければ自然栽培の野菜などで自分の身を守った方が良い。
・肥料のやり過ぎも、健康に影響する可能性がある。やり過ぎかどうかはわからないので、信頼できるところから買うか、できるだけ人為的に肥料を与えない自然栽培の方がより安全とは言える。
・病気の多くは体内で起こる炎症であると言われている。一部の食べ物に農薬や化学肥料がどの程度使われているかを気にするより、全体的な食事のバランスを抗炎症の食べ物を中心にし、炎症系の食べ物を減らす方が、より健康に貢献できると思われる。そういう意味で、抗酸化物質が多く、抗炎症系として自然栽培の農産物を積極的に取るのは、炎症を抑えると言う意味があると言える。農薬や化学肥料は炎症を起こすと言われているが、微量に摂取しただけで急激な体調不良にはあまりならない可能性は高いが、慢性的な炎症は長期的には心筋梗塞、ガン、アルツハイマー病などの習慣病と言われる病気になる懸念があることは頭に入れておいた方が良いだろう。
ELLE
炎症を予防するために食べるべき食品、避けるべき食品19

https://www.elle.com/jp/gourmet/gourmet-healthyfood/g42732673/food-for-inflammation-23-0224/


環境への影響


高橋英一著「肥料になった鉱物の物語 ーグアノ、チリ硝石、カリ鉱石、リン鉱石の光と影ー」
には化学肥料の発祥やその功罪が書かれています。

レイチェル・カーソン著「沈黙の春」
には農薬や化学薬品の恐ろしさが書かれています。

農薬や肥料は、健康的影響よりむしろ環境的影響が大きい。

亜酸化窒素(あさんかちっそ、英語: nitrous oxide、N2O)は紫外線により分解されオゾン層の破壊物質である一酸化窒素になるとされ、さらに温室効果は二酸化炭素の約300倍あると言われている(温室効果が大きいと言われるメタンで二酸化炭素の28倍程度と言われている。数字は諸説あり)。化学肥料、有機肥料にしろ人為的な肥料のうち農産物が吸収できるのは10%程度と言われており、残りは微生物が分解し亜酸化窒素(あさんかちっそ)として空気中に排出される。人間が排出する亜酸化窒素のうち、農耕地からの排出量は日本で約25%、世界では約60%を占めており、世界人口の急増や途上国の食生活向上に伴う食料増産によって今後さらにN2O排出量が増加すると予測されている。記事では、亜酸化窒素を削減する土壌生物の実験がされているが、研究段階であり、そもそもの肥料を抑制する方が急務ではないかと思われる(研究自体は並行して実施した方が良い)

東京大学大学院農学生命科学研究所
農地からの温室効果ガスN2Oの排出を土壌動物(ダニ)が削減する

https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210305-2.html

・人間サイズの生き物には大きな影響はなくても小動物、虫、魚、ましてや土壌にいる微生物などは甚大な影響が出ても何らおかしくない。
・科学肥料や農薬で微生物を住めなくし、雑草を根こそぎ取り除草剤を撒き、人間が作ってしまった偏った環境が特定の虫を増やし、それを人間が害虫と呼び駆除するために殺虫剤を撒く。環境はより偏った状態になり、人為的に作られた土壌は人間が放置すれば砂漠化することもある。
・化学肥料の功績により世界人口は爆発的に延びたが、環境への負荷と言う意味では、影響が大きかった。化学肥料の役割は徐々に狭くなって然るべきと思われる。
・不耕起栽培(ふこうきさいばい)は土を掘り起こさないためCO2を土中に貯蔵できると言われている。逆に耕す農法はどんなものでもCO2削減という意味ではマイナスと言える。農産物を栽培している土地は元々草木が多い茂っていた植生地であると言えるが、元々植物が豊富にあり、耕したりしないためCO2を貯蔵できていた。光合成により二酸化炭素を吸収し、酸素を供給できていたので、環境面においては自然のままよりデメリットが大きいと言える。また、不耕起栽培も実は炭素を永久に閉じ込めるものではないどころか、一時的なものという風にも言われている。以下、抜粋。
「表層土壌への土壌有機物の蓄積が増加するが、長期的 にはやがて1年間に投入した炭素や窒素がすべて無機態となって放出されるよう になって平衡状態に達する。したがって、不耕起栽培は、短期的には炭素の土壌へ の蓄積を増加させるが、その蓄積効果は無限に持続するものではないことに留意す る必要がある。

農林水産省
「今後の環境保全型農業に関する検討会」 報告書(案)
https://www.maff.go.jp/j/study/kankyo_hozen/08/pdf/data1.pdf
化学肥料の使用は依然として高いかというと実はそうではありません。以下の農林水産省の資料にある通り、ここ30年で半減しています。

また、映画でも登場するカバークロップや緑肥などを使う環境保全型農業は、30年前くらいから使われ始めており、農地として平成23年の約17,000ヘクタールから平成28年には約80,000ヘクタールまで広がっている。生産者はずいぶん以前から環境への影響を考えて取り組んで来たと思われる。ある意味では、これだけ改善してきているのに環境の影響という意味で取り組みが不足しているように感じるのは、それだけ人間が今の生活を維持するだけでも環境に影響を与えずにはいられない存在だと言える。
農林水産省
環境保全型農業の推進
https://www.env.go.jp/content/900501545.pdf

収穫量

収穫量については自然栽培でも慣行栽培に劣らないと言われたり、発展途上国では慣行栽培を上回っているなどの報告もあるが、同じ労力で農薬や肥料も要らず、健康にも良い自然栽培の農産物が作られるならば、誰もがこぞってやるだろう。一部の人、一部の場所では自然栽培が慣行栽培と遜色ない実績を出せているものもあると思うが、農業生産者全員が同じようにできると言うほど簡単ではなように思える。奇跡のリンゴの木村秋則さんは、無農薬で作ることは奇跡と言われるほど難しいリンゴを自然栽培で作ったが、米や野菜などの自然栽培は簡単だと言ってのけている。しかし、それを他の人に教えたりする描写も書籍に書かれているが、教えられた人も自然栽培を続けるかどうかと悩み、木村さんもあとは、この人が続けられるかどうか見守るしかないと言う状況となっているように、自分では簡単にできる人が教えても、誰もが同じようにできるものではないと言うことを物語っているように思える。

農林水産省
「有機農業をめぐる事情」
https://koaa.or.jp/wp-content/themes/koaa/downloads/index-68.pdf
自然栽培ではないが、農林水産省生産局農業環境対策課がまとめた上記には様々な視点から有機農業について語られているが、有機栽培や特別栽培等を行っている者が取組面積を縮小する際の理由は、「労力がかかる」が最大で、販売価格や 販路開拓の課題よりも割合が高い。自然栽培は基本は自然に任せるので、労力は減ると思われるが、土壌が自然栽培に適するまでに数年かかることで敷居が高くなるのと、収量は自然に任せるわけだから、改善して収量を大幅に上げていくと言うことは難しいというか、そもそも収量をあげるということが一番の目的では無いだろう。

FOOCOM
「有機農業と慣行農業 収穫量を比較する」https://foocom.net/column/shirai/6555/
科学的根拠に基づく食提供する消費者団体であるFOOCOMに上記の記事があるが、有機農業と慣行農業で栽培したときの収穫量を比較した研究事例を大量に集め、包括的に分析(メタ分析)した論文でも、収量は2割減、3割減になると書かれている。ここで紹介されている論文はメタ分析と言われるもので、様々な研究報告や論文を分析して結論を導き出す方法で、2つの論文でそれぞれ362と66の研究報告を分析しているので、併せて428の論文の総論ということが言えます。

成長スピードや価格

成長スピードは追肥ができる化学肥料が断然有利だろう。成長スピードが遅いと言うことは、それだけ一つ一つの農産物に対して長く手間がかかると言うことなので、労力がかかると言うことで考えても良いと思う。また、自然栽培は自然の成長スピードに任せるしかないため、このことが収量に影響している可能性は大いにある。

価格についても、希少ニーズがあるし、市場のことなので割と明確に自然栽培や有機栽培の方が慣行栽培に比べて高くなると言うのは間違い無いだろう。ただし、当然ながら自然栽培や有機栽培が一般化してくれば市場競争原理も働き、徐々に平均的な価格は下がってくるだろう(ブランドイメージで品質の高い農産物を売っている生産者は別)から、永遠に高価格で安泰というわけではない。

リジェネラティブ(大地再生)と今後どこへ向かうべきか

健康への貢献・影響、環境への影響、収量、などを見ていくと、個人や環境面を考えた場合には自然栽培、もしくはより環境負荷の低い有機栽培を推進した方が良いのは間違いないと思う。色々な意見はあるが全体的に見て収量が落ちるのは間違いないと思われるため、社会的、政治的に見れば、日本における食料自給率の低さなどを考えると、全て自然栽培にすれば良いという単純なものではないと思われる。また、日本の環境保全型農業は映画の中で扱われているカバークロップや緑肥なども環境保全型農業の割合は慣行農業と比べて著しく低いものではなく、日本では30年近く年数をかけて、環境保全型農業が着実に推進されていることも事実として知っておく必要があると思われる。

そして、ここからもっと問題を俯瞰(ふかん)してみることにより社会的な問題点を考えていきたいと思います。

実は現在の世界人口を支えるために農業は地球の資源をかなり使っており、地球規模で考えて、植生可能(植物が生えることができる)な土地の50%を農地として使い、人間が使用する水の70%を農業用水として使い、温室効果物質の25%を排出していると言われています。
農林水産省
世界の水資源と 農業用水を巡る 課題の解決に向けて
https://www.maff.go.jp/j/nousin/keityo/mizu_sigen/pdf/panf02_j.pdf

1900年には16億人だった世界人口はわずか120年で80億人に達します。爆発的な人口増加の要因のひとつとして肥料革命と言われるような農業の飛躍的な生産性向上が挙げられますが、その結果人間は化学肥料や農薬が環境に及ぼす影響を引き起こしてしまいます。また、人間の都合に合わせて家畜を増やしてきたため、地球上の哺乳類の実に60%が家畜となっており、野生動物はたったの4%しかいない。他は人間が36%。ちなみに、この割合は哺乳類だが、鳥は家畜として214億羽もいる。哺乳類で人間の次に多いのが牛で、14.7億頭もいる。牛のゲップはメタンが含まれており、メタンの温室効果はCO2の28倍と言われている。しかも、牛は体が大きくほぼ一日中草を食べ、反芻(はんすう)しながらゲップを出し続けている。世界の食料は人口をちょうど賄う分生産されているが、先進国による廃棄が約30%と言われ、かつロシアーウクライナ紛争による世界情勢不安などにより食物価格は高騰しており、貧困国を中心に約8億2800万人の人が飢餓状態にあると言われている。よって、食糧生産は今後も向上していく必要があるだろう。メタンが問題だと牛などの家畜を大量に殺処分することも、道義上相当問題が大きいし、人間の都合で増やしておいて、あまりに無責任と言える。つまり、人間はすでに自然にできるだけ負荷をかけずに大人しくしているだけで、農業・畜産業を拡大しなくても単に維持するだけで、環境破壊を続けてしまうという状況にあり、化学肥料や農薬を使うより以前へ原点回帰すれば良いというような単純な状態にはない。自然栽培などは現在の農業から考えると最も健康にも環境にも良い選択だと言えるが、土壌が適切になるのに数年かかったり、収量が2〜3割下がるなどから急拡大は難しいし、極論を言うと全てが自然栽培で賄えるようにしたところで、人口が増える分自然に環境破壊を続けていくことになるため、根本的な問題解決にはならない。

読売新聞オンライン
世界人口、ピークはいつか…2064年?2100年?覇権争いや経済パワーに直結

https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20201117-OYT1I50038/

フードマイレージ資料室
【豆知識】世界の飢餓人口の推移

https://food-mileage.jp/2022/09/06/mame-249/

日本経済新聞
「人新世」区切る基準地層の選定始まる 別府湾も候補

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD27BK20X20C22A6000000/


OPRI海洋政策研究所
別府湾の海底堆積物に記録された人新世境界

https://www.spf.org/opri/newsletter/546_2.html


別府湾の海底には人新世(じんしんせい)と言われる人間が作り出した地層ができており、核実験由来の放射能汚染(ピークは1960年〜70年代)と化学肥料などによる環境汚染があり、1950年以降明らかにそれまでとは地層の成分が変わっている。


では、私たちはどうすれば良いのでしょうか?
我々、「未来へつなぐ神奈川」の中でも簡単に答えが出せるものではありませんが、いくつか考えるきっかけを提供してみたいと思います。

①人間の科学技術を最優先で人間以外のために活かす


これまで人類は科学技術を人間の利益追求のために使ってきました。産業革命に始まる工業化により地球上のあらゆる資源を採掘し、農業革命(肥料革命)により森林を伐採、自然を破壊し、航空機や自動車などによりを作りより早くより遠くを実現し、殺虫剤や農薬などで自然をコントロールしようとしたり、畜産ではより工業的な家畜の管理により家畜を生き物とも思わない扱いをしてきました。人為的な原因での地球温暖化と言えるようなものがあるかは分かりませんが、少なくとも地球環境を破壊し、地球史上6回目の大量絶滅期をまさに人間が起こしている最中と言えるのです。それは、見方を変えれば、これだけ地球環境を悪い方向に変えることができるなら、当然劇的に良い方向にも変えていけるはずだと思います。
ひとつの例としては、サンゴの遺伝子組み換えによる復活です。サンゴの白化(はくか)は世界的に問題となっていますが、海水温の上昇だけにとどまらず、環境の変化などによってもサンゴは白化します。サンゴは動かないので植物のように見えますが、動物です。そして、元々白化した状態が本来のサンゴの姿で、カラフルな色に見えるのは褐虫藻(かっちゅうそう)という藻類を自分の中に住まわせて、藻類の光合成のエネルギーをもらっているのです。

白化現象は、温暖化などで水温が上昇し、褐虫藻の光合成回路が破壊されたことで発生した活性酸素がサンゴの細胞を破壊するため、サンゴの免疫システムが働いて褐虫藻を放出するために起こります。光合成をしている褐虫藻がいなくなると、そこからエネルギーを得て生活しているサンゴはエネルギーを受け取ることができず、その結果死滅してしまいます。
日本自然保護協会
サンゴ「白化」のメカニズムと台風との関係

https://www.nacsj.or.jp/2020/08/21200/

これを、遺伝子組み換えにより、海水温の上昇に強いサンゴを生み出し、さらに記事にはありませんが、ある研究ではその遺伝子組み換えをしたサンゴを海に放つと、そのサンゴだけが増えてしまう可能性があるので、遺伝子組み換えしたサンゴとそうでないサンゴを色々なパターンで繁殖させ、予め多様性をもった状態で自然に返すことなどをしていました。
サンゴの白化は海水温の上昇だけが原因ではなく、環境の変化によるものだと言われますが、以下の写真のように化学肥料が海に流れ込むことにより、藻類の大繁殖が起きたりしています。

中国東部、山東省青島の藻で埋め尽くされた海を泳ぐ少年(2011年撮影)。現在、世界各地で藻類の大発生が深刻な問題となっている。現在の世界人口は約70億人。拡大の一途を辿る食糧需要に、多くの生産者は化学肥料や高収量品種で対応している。しかし、世界中で必要以上に収穫が増え続けることで、マイナスの影響もある。植物に似た微細藻類は、リンや窒素を摂取して繁殖する。窒素やリンを含む化学肥料が流れ込み、富栄養化した水に藻類が大発生。宇宙空間から確認できるほど拡大することもある。

ナショナルジオグラフィック
中国青島、各地で藻が大繁殖

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7886/


サンゴの白化が人間の手によるものなのか特定することは難しいですが、人間の生活スピードで見ても劇的に変わっているので、人間の環境破壊による影響が強いと言えるでしょう。人間の手により白化が進むなら、人間の科学技術、この場合だと遺伝子組み換えの技術などにより、白化を食い止めることはできると思います。そして、このような取り組みは既にされていますが、最優先になっていないというのが実情です。
AFPBB News
遺伝子操作はサンゴを気候変動から救えるか 米研究

https://www.afpbb.com/articles/-/3376522

人間による環境破壊は世界的に注目度を集めているので、環境を改善するための取り組みを世界中の国で評価するシステムがあると良い。地球温暖化などと言われCO2削減が、その改善につながるように言われており、CO2排出量が各国の環境改善の取り組みのように言われているが、現在の化学では人為的なCO2が地球温暖化の原因だと特定するのはほぼ無理だとも言えるので、評価軸を確実に環境改善に貢献する取り組みに変えた方が良いように思えます。

CO2が地球温暖化の原因や、このままでは温暖化で人類が住めなくなるなどの話は科学者が言っているというより、それを誇張して伝えるマスコミなどにより、我々の認識が作られているということが大きい。CO2削減という何も効果が得られないかも知れないことに力を注ぐよりも、目に見えて環境が改善することに取り組むこと、その冷静な視点が必要なのではないでしょうか。「日経BOOKプラス『気候変動の真実』私はこう読む」では、科学者、大学教授、ジャーナリストなど複数の方がそれぞれの立場から冷静に記事を投稿しています。

日経BOOKプラス
『気候変動の真実』私はこう読む

https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/060900083/


②できるだけ自然環境を使わずに農産物を生産する


人口の増加は2064年の100億がピークといわれたり、2100年の109億がピークといわれていますが、少なくとも今後数十年は人口が増加していくことは確実のようです。そのため、食糧生産を増やしていこうとすると、当然ながら自然環境を使うことになり、それは例え自然栽培であったとしても環境破壊には繋がります(慣行栽培より自然栽培の方が環境に良いのは間違いないでしょう)。一つは水耕栽培(すいこうさいばい)というものです。これは、土を使わずに主に室内などで水と肥料により植物を育てるものです。現在はものすごく大規模なものはないですが、日本などは人口減少により使われなくなる建物など増えているし、今後もさらに増えてくると思いますが、これらを活用して室内水耕栽培を推進する取り組みなども考えられます。


リビングファーム
水耕栽培とは

https://www.living-farm.com/category/1522845.html

また、都市の中に農園を作るという取り組みもあります。これであれば、新たに農地を広げなくても農作物の収量を上げることができます。また、都市の自給率はものすごく低く、地方から農作物を移動してくるので、移動にかかる環境汚染も確実にあります。地産地消は地球環境改善に大きく貢献します。都市部で地産地消を目指していくことは、完全に都市部だけで賄うことは不可能だと思いますが、環境に対する取り組みが可視化できて、都市部に住む多くの人々に環境を改善するという意識を芽生えさせるという効果が期待できると思われます。

ANTIQ
未活用のままの"都市の屋上"をルーフトップ・ファームへ

https://www.attique-inc.com/blog/resource/rooftopfarming_20210112/

まとめ

如何だったでしょうか?
映画「君の根は。」で語られている自然栽培や不耕起栽培など、現在の農業から考えるとメリットが大きいと言え、これを推進していくことが健康や環境に取って良い影響があることは間違いではないでしょう。ただし、収量が減る可能性が高い、土壌が自然栽培に適するようになるまで数年かかるなどの課題もあり、生産者にとっては死活問題であり、その問題はあなたが消費者であるならば実感として理解するのは困難だと思います。だから、生産者に「なぜ日本人の健康や地球環境のために自然栽培にしないんですか」と言うようなことはできません。では、消費者である我々は何もできないのでしょうか。そんなことはありません。
ひとつには、小さな社会貢献をするという意識で行動することです。できるだけ自然栽培や有機栽培など野菜や果物を購入したり、抗生物質やホルモン剤を投与されていない家畜の肉や平飼いされている健康的な鳥の肉や卵、天然の魚などを積極的に買うことは、それを推進することと同じ効果があります。これらが健康にどれほど影響するかという意味では、おそらく値段が倍だから、効果も倍というようにはいかないでしょう。健康や環境への影響はただ自然栽培というだけで全て同じではないため、自分で効果があると信じていればよく、社会貢献として行うという意識でいれば良いのだと思います。また、政府としてもオーガニックビレッジなどの有機農業を推進するための取り組みであったり、オーガニックライフスタイルエキスポ(2023年で8年目を迎える)などのオーガニックを推進する動きは確実にありますので、その取り組みやイベントに参加することも後押しすることにつながると思います。
オーガニックビレッジ(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/organic_village.html

オーガニックライフスタイルEXPO2023
https://ole.ofj.or.jp/

二つめはより良い教育という意味での貢献です。化学肥料や農薬を使う農業より自然栽培という自然が循環していることを教えられる農業の方が子供の教育に適しているというのは異論のないところでしょう。例えば、全ての学校給食を自然栽培や有機栽培の地場農産物を使って提供するなどは十分現実的ですし、そういう取り組みに積極的に参加するなども、それら教育活動に貢献していると思います。

千葉県いすみ市では、学校給食における100%地元有機米使用を達成。
自治体問題研究所
【論文】年間を通じて学校給食において100%地元産有機米使用を達成

https://www.jichiken.jp/article/0322/

そして、そのようにして育った子供は今の大人たちよりはるかに環境への影響を考えた生活を意識してくれるのではないでしょうか。我々の団体名にもある「未来へつなぐ」とは、今子供たちに何を教えられるか、どういう背中を見せられるかだと考え、それが未来へつながり、未来を作っていくと思います。より良い未来を作るとは、子育ても含めて今できることを精一杯やるということだと考えています。
国として考えるならば、自然栽培などで給食の食材を提供してくれる生産者は公務員化すれば、収量不足や土壌改善に期間を要する問題も政府の決定=国民が保証することでなくなりますし、そういう政策を推進する政党を応援したり、行政へ陳情するなどであれば十分可能です。こういう風に考えると、自分の生き方と社会や政治との関わり方も明確になってくるのではないでしょうか。
この世に正解や完璧な答えというものは存在しないのですが、我々はとかくそういうものを求めがちだと思います。完璧なものを求めると、全てを客観的に見れなくなってしまったり、意見の衝突があったりするかも知れません。しかし、目的を明確にすることで自分自身としては解決することができます。何事もメリットがあれば、デメリットもあるでしょうが、そのデメリットは違う視点で見た場合のことで、素直に受け入れれば良いだけなのだと思います。正しいかどうかではなく、自分の生き方に親和性が高いか、気持ちが良いか、ワクワクするかという面で活動していくことが、自分らしい生き方ということに「つながる」のではではないでしょうか。また、人の意見で新たな発見があったときは素直に考え方を見直すことが、より良い生き方につながるのだと考えます。

次に社会課題をどう考えるかについて。日本や地球全体の環境への影響を考えるならば、既存の農業に比べて自然栽培はより良いと言えますが、課題を解決する魔法の杖ではないということです。そこで登場するのは、遺伝子組み換えなどの科学技術です。この映画を見に来て頂いた大半の方は、おそらく遺伝子組み換えについて悪いイメージをお持ちなのではないかと思います。しかし、前述の通り、遺伝子組み換え作物が健康に与える影響は、現実として出ていないのです。訴訟大国の欧米でも、農薬の訴訟で賠償金が1兆円という栽培が行われているにも関わらず、遺伝子組み換え作物でガンになったという裁判は1件もないのです。

小島正美著「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」
では、当初遺伝子組み換え反対派であった著者が、真実を知り、推進派に変わり、色々な人と実際に関わることで、遺伝子組み換えとどう向き合ってきたかが書かれています。

また、映画では描かれていませんが、自然栽培に適した遺伝子組み換え作物を使っている自然農を実践している生産者も確実にいます。遺伝子組み換え作物を使う理由は、人体に害がなく、農薬や化学肥料の使用量を減らし、効率的に収穫できるため収入も安定し、人手も少なくて済むというように、良いことづくめのような印象さえ持ちます。ラウンドアップのような農薬とセットになっているものは農薬を使うことになるため、当然悪い面もあります。しかし、総合的に見るとメリットの方が大きいと言えます。まず、これが現実としてあるということを認識する必要があります。私自身も直感的にはあまり気持ちの良いものではないと思っていますし、神の領域に踏み込んでいる、人間は自然もコントロールできないのだから、遺伝子もコントロールできないという考えは、あって然るべきだと思います。だから、どんどん使えというわけではありません。常に健康や環境への影響を観察しながら適切に使用していく必要があるということだと思います。
科学技術で環境を破壊してきた人間が、科学技術を捨て自然により近い生活をすることで環境破壊を無かったことにするというのは本当に現実的なのでしょうか。科学技術で環境を破壊したならば、科学技術を使って元の地球環境に戻していくというのが人間としての責任なのではないでしょうか。これは、化学で自然をコントロールするということではなく、自然はコントロールできない、ただし、人間がやってきたことは取り返すことができるという考え方です。しかも、環境を破壊してきた年代より科学技術はかなり進んでいます。この150年で人類はずっと環境破壊をしてきたとしても、環境を正常化することに特化していけば、数十年で元に戻すことも可能かも知れません。当然ながら、そんな簡単な話ではないですし、新たな問題も起きるでしょうが、何をやっても良いことも悪いことも50%の確率で起きるものだと思います。人間のやってきたことは褒められたものではないかも知れませんが、現実に科学の力で、感染症で亡くなる人、自然災害で亡くなる人は年代が進むごとに確実に減少しています。これら、科学の功績を考えるなら、人間のやってきた愚かなことを帳消しにすることなら、あるいはできるかも知れないと思えてこないでしょうか。
さらに、人間はこれまで環境に影響があるかわからないけど使ってみて影響があったら見直すということをしてきましたが、AIの発展により、どういう化学技術を環境に使ったら、どういう地域で、どういう影響が出るのかなどという予測がある程度は立てられるようになる可能性が高いように思います。それでも、実際に使うと環境に影響がでる場合はあると思います。それは、薬の治験のように、一部の地域環境で実験して数年の観察期間を経てから問題がなければ社会的に使用していくというものなど。当然ながらどの地域にも実際に生活している人がいるので、実験場のように地域環境をいくつも作ることはできませんが、国民の理解が得られればそういう地域を一箇所だけでも作り、そういう実験に身を置くことを了承した人が住むとし、治験のように経済的な援助などを受けられるようにするなども考えられるでしょう。これは、人道的でないように感じるかも知れませんが、ダムの開発により湖の底に沈んでいった地域の人は同じような理由で故郷を離れざるを得なかったのだと思います。私は個人的にそういう地域を作るなら、そこに住んでみたいと思います。あえて、その地域に住む人たちは社会や科学技術の影響などに関心がある人たちで、活発な議論が生まれる町になり得ると思うからです。

自分たちの周りのことを自分ごととして考えることが、正解を探すよりも大事で、それこそがまさに政治と生活が密着しているということになると思います。

また、議論するときには確証(かくしょう)バイアスに注意しましょう。支持する情報に特に注目し、反証となる情報を無視しようとするバイアスを、行動経済学では確証バイアスと呼びます。「人は他人のバイアスには気づけるが、自分のバイアスには気づきにくく、たいていの場合、自分のバイアスは克服できない」と言われます。これを、解決する手段が自分と考え方の違う人の意見を聞くということだと思います。つまり、社会課題のような100%の人が納得することは不可能な問題は、一人で考えていても良い答えには辿りつかないものだと考えます。

長文にお付き合い頂きまして、誠にありがとうございました。

ー 池見 淳 ー





「奇跡のリンゴ」の木村秋則さんの事例

木村秋則さんがリンゴの無農薬栽培を始めたのは、当時は農薬の散布でやけどのような症状が出たり、強い漆を塗ったような状態になると書かれています。農薬を散布していた奥様に至っては、一度農薬を散布すると具合が悪くなり、しばらく農薬を散布できない身体になったと書かれています。つまり、健康に良いからと無農薬栽培に取り組んだのではなく、当時は農薬から家族の健康を守るため必要に迫られて無農薬栽培に取り組んだのです。

・リンゴの無農薬栽培には9年かかった
・無収穫時代が長く農業だけでは食べていけないのでキャバレーなどでバイトした(かなりの覚悟が必要)
・リンゴの無農薬栽培は奇跡と言われるほど難しく、その取組から稲作の無農薬栽培は容易に実現しており、誰でもできると言っている
・ただし、肥料や農薬が田畑から抜けるのに最低2〜3年かかる(ほぼ収穫できない期間が2〜3年ある)と言っている

「肥料になった鉱物の物語」を読んで

化学肥料がこれだけ一般化したのはいつからなのだろう、どこかの企業が大儲けしたのだろうかと思っていたが、有機肥料に比べて数倍の効果を発揮し、グアノラッシュから始まる肥料革命ともいうべき農業の躍進が発端だということ、そして、農業生産性の飛躍的な向上により、そこから爆発的に世界人口が増えたということがよく分かる。そして、メリットの裏には必ずデメリットがあり、化学肥料の大量消費による環境破壊へとつながるわけだが、このブームと言えるような状況の中、「待った」をかけられる人が果たしているのだろうかと思った。

・植物は有機物を栄養としているのではなく、微生物が有機物を分解してできた無機物(窒素、リン、カリウムなど)を吸収し成長していると19世紀半ばにドイツのリービッヒなどにより証明された
・鉱物肥料の歴史はグアノという海鳥の糞の化石(糞の化石に植物の栄養素となる無機物が豊富に含まれている)からスタートし、その効果は絶大で、ゴールドラッシュならぬグアノラッシュと言われ、一時期農業の肥料革命を起こした
・化学肥料が完全に人工的なものというわけではなく、鉱物という無機物から人間が化学処理により植物の栄養素を効率的に抽出したもの
・鉱物肥料の光としては①土地生産性を向上させ、20世紀の100年間に世界人口は16億から63億と4倍近く増加したこと②農業の労働生産性を飛躍的に向上させたため、農業就業人口を大幅に減少させ、農業以外の新しい産業が発展したことなどがある
・鉱物肥料の影としては、あまりに人口が急増したため、資源の枯渇、環境汚染を助長した。鉱物肥料による養分の供給が容易になり、雑草や病害虫の防除に力を入れるようになり、殺虫剤、除草剤などが開発され、多用されるようになった
・特に肥料過多となっている現代では、吸収されなかった窒素肥料が土中の硝酸態窒素濃度(赤子などでは硝酸態窒素の濃度が高い野菜で死亡したなどの事故もある)をあげるなどの被害も出ている
・有機肥料はいわゆる自然の植物を肥料にするため、有機肥料確保のために森林伐採が進行したり、微生物による分解が必要なため時間がかかる=手間がかかるという面がある

・鉱物肥料は鉱物という有限なものを使うが、田畑まわりの自然に対する環境負荷は少なく、全く別な場所から調達でき、即効性があるため、農家への負担は相当軽減される。ただし、肥料を多量に使う、雑草を根こそぎ取るなどの慣行農業を続けると土の生態系が崩れるため特定の虫が大量に発生したり、微生物が土に住まなくなり、自然循環的な状態ではなくなる傾向にある。

「沈黙の春」を読んで

「沈黙の春」を読んでつくづく感じることは、人間は自然をコントロールすることはできないということ。これに尽きる。

・レイチェル・カーソンはアメリカの生物学者で作家。
・害虫を殺す目的で散布された農薬であるDDTが虫だけでなく、その虫を食べた小鳥も殺したという事実から、食物連鎖を続けているうちに、農薬の毒性は高まっていくことにより人間を含んだ生態系の食物連鎖のなかで多くの生物を死に追いやるということを著書で警告した
・このままでは化学薬品の毒で地球全体が汚染されてしまう。春が来ても、小鳥は鳴かず、世界は沈黙に包まれるだろうという未来を憂いた思いを「沈黙の春」という本のタイトルに込めた
・全編に渡って人間が作った殺虫剤などの化学薬品が一時期劇的な効果を生んでも、虫のライフサイクルではすぐに化学薬品に耐性を持つ子供が生まれ、役に立たなくなるばかりか、耐性を持ったもの持たなかったものの間で生態系のバランスを崩し、環境破壊の悪循環を生むことを警告した。人間は誰も自然をコントロールできないということを何度も強調している。
・1962年、「沈黙の春」が雑誌「ニューヨーカー」に連載されると、アメリカ中が大騒ぎになりました。本が出版されるとたちまちベストセラーになり、出版社には手紙や電話が殺到しました。この状況を深刻に考えたアメリカ政府は調査を進め、農薬や化学物質の使用に関して制限をもうける法律を制定した。レイチェル・カーソンはガンでわずかその2年後に56歳の若さで亡くなる。
・マラリアという三大感染症の一つに安価で絶大な効果を発揮したDDTの使用に制限ができたため、DDTを使えば助かったはずの5,000万人を死に追いやったという批判もある。これが、5,000万人を犠牲にして世界を救ったと言われる所以である。

「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」を読んで

遺伝子組み換え作物が安全かどうかは分からないというのが正直なところではありますが、これも書籍やマスコミなどによりネガティブなイメージを植え付けられている可能性は大いにあります。「誤解だらけの遺伝子組み換え作物」を見ると、それがよく分かります。また、この著者自体が元々遺伝子組み換え作物反対派であったが、実際に遺伝子組み換え作物を作る生産者の人や研究者と会話を重ねることにより、遺伝子組み換えは健康上の問題はなく、旧モンサントの奴隷のようなイメージでいた生産者たちも、口々に遺伝子組み換え作物に助けられたとという話からも、適切に活用していくことに問題はない、むしろ効果の方が大きいというように意見を変えて行ったことが興味深い。下記は、遺伝子組み換え作物の効果を列挙したもの。

  1. 作物バイオテクノロジーは、これまでのところ、農業史上、最も急速に普及したイノベーションである。栽培面積は、1996年の170万ヘクタールから、2012年には1億7000万ヘクタールに増加した。

  2. 2012年の世界の遺伝子組み換え種子市場の規模は、148億4000万ドルである。

  3. バイオテクノロジーによって改良された作物の採用によって、化学

  4. 殺虫剤の使用量が37%減少するとともに、農業生産者の利益が68%増加する。

  5. 遺伝子組み換え作物の経済的利益は、1ヘクタール当たり平均117
    ドルであり、その大半が発展途上国の農業生産者のものになる。

  6. 農業生産者は、遺伝子組み換え種子への投資1ドルに対し、平均で3.33ドルの収益をあげる。

  7. 少なくとも、遺伝子組み換え成分を含む食事3兆食が既に消費された。

  8. 作物バイオテクノロジーに害がないことを明らかにした査読付き
    科学研究は650件に及ぶ。そのうち3分の1は、独立的に資金を調達している(該当する科学研究の全リストは、ウェブサイトbiofortified.org を参照)。

  9. 遺伝子組み換え作物は、従来型農業と比べ、収量が平均7~22%高い。ちなみに、従来型農業は、有機農業と比べ、収量が平均20〜35%高い。

また、健康・医学情報などの信頼性を図る場合、できるだけ多くの論文を解析し客観的に結論を出すことが重要だと思われます。そうすると、必然的に300の論文を見たら300全く同じ結論が出ているということはほぼ起こらなくて、それぞれ差異が出ることになる。そうすると、70〜80%こういう傾向になるというような話になり、インパクトとしては薄れる。逆に下記の表の症例報告や経験談になると、様々な症例や経験談を掲載するというよりも、同じような症例や一部の人の経験談をもとに、何かの話をすることになる。そうすると、それは無味乾燥な統計的数字ではなく、実際に生きている個人の症例や経験談、そしてその前後の結果となるから、そのストーリーに感情移入し、心が動かされることになる。そして、その症例や経験談を覆すような話を信じることは、心を動かされた話をした人を貶めているような気持ちになる。これが、根拠が薄いのに強くその説を信じる人の心理ではないでしょうか。一方、統計的な多くの論文については、個々の研究者の顔は見えてこないので、例えば研究費を支援してもらうため企業の希望する通りの研究結果を作るなどの話に確かめもせず、そういう人達が多いのだと思い込みやすくなります。しかし、顔の見えない研究者達も我々と同じ人間であり、家族がいる人も多くいるでしょう。そういう人たちが収入を得るためだけに、一生をかけて納得のいかない研究結果を作り続けるでしょうか。おそらく、前者の症例や経験談も、後者の研究報告の研究者や論文作成者で言われるがままに納得のいかない研究をする人も一部の限られた人なのではないでしょうか。だから、そこだけを見て黒か白かを決めようとすると大半の情報を見ないことになるので、正確な推測というのは難しくなるのだろうと思われます。

Come on HOUSE
赤いお肉と白いお肉の健康度、科学的に分析してみると?

https://comeon-house.jp/fromhouse/08/index.html

出典(書籍)

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