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「デジタル円」は良薬か劇薬か 銀行システム、二分化へ~CBDCがもたらすこと~【日経新聞をより深く】

1.「デジタル円」は良薬か劇薬か

CBDCが銀行預金を駆逐?
中銀のデジタル通貨はCBDC(Central Bank Digital Currency)と呼ばれる。中国は既にデジタル人民元の実証実験を進めており、スマートフォンにCBDCを取り込んで、買い物などに使えるようにしてある。日本のスマホ決済と使い方は変わらないが、小売店は手数料がかからず代金をデジタルで即座に受け取れる利点がある。

日本だけでなく、米連邦準備理事会(FRB)もデジタルドルの検討に入り、欧州中央銀行(ECB)は26年以降のCBDC発行を見据える。FRB元理事のケビン・ウォルシュ氏は「デジタル人民元の導入が、米ドルの支配的地位を脅かしている」と指摘し、中国に対抗してデジタルドルの早期導入を呼びかける。

日米欧が中国を警戒するのは、同国の投融資を受け入れる東南アジアやアフリカなどでも、デジタル人民元が広まる可能性があるからだ。デジタル人民元が企業間取引に広がれば「中国に進出するあらゆる企業が使わざるをえなくなり、新たな国際決済規格になってしまう」(日銀関係者)。デジタル人民元は世界通貨体制のゲームチェンジャーになりうる。

ただ、デジタル人民元の実験はスマホ決済の一部などにとどまっており、当初見込まれたほどのスピード感がない。中国人民銀行がCBDCの研究に着手したのは14年。8年たっても正式発行にこぎ着けられないのは、CBDCそのものが銀行システムを一変する劇薬になる懸念があるからだろう。

例えば、CBDCは銀行預金を駆逐してしまう可能性がある。マネーは大きく預金と現金にわけられる。CBDCは基本的に現金をデジタルに置き換えるものだ。預金は銀行が破綻してしまうと手元に戻ってこない可能性があるが、現金は基本的に手元に残る。CBDCはスマホの中にある現金のようなもので、預金と違って原則的に消失リスクはない。

そうなると、生活者はマネーを銀行預金から安全性の高いCBDCに置き換えていくだろう。みえてくるのは、デジタル円を使って決済・送金サービスに特化する「ナローバンク」の誕生だ。CBDCの最大の利点は、安全・安価にスピード決済できることにある。

一方で多くの商業銀行は預金を徐々に失い、経済成長を支えてきた預貸ビジネスも見直しが必要になる。商業銀行は預金を集めるのではなく、市場で資金を直接調達して、それを元手に融資するようなノンバンクに近い形態になっていく可能性もある。CBDCが銀行システムの劇薬になりうるのはそのためだ。

(出典:日経新聞2022年12月12日

ECB(欧州中央銀行)は26年以降にCBDC発行を見据えています。一つの目安として26年以降は順次CBDCになっていく可能性があるということです。すると、どんなことが起こるのか。

2.ドルの基軸通貨の役割が終わる

基軸通貨であるドルは日本から人民元を買うときも「円→ドル→人民元」となって、通貨交換の媒介通貨になっています。それは、世界の主要銀行がSWIFT(BISの国際送金網)に加盟し、外貨交換を行っているからです。

人民元を円に戻すときも、「人民元でのドル買い→ドルでの円買い」になります。円⇔ユーロでは直接の売買も多いですが、他の通貨交換ではドルが関与しています。

それが2026年からCBDC(中央銀行デジタル通貨)にかわっていく可能性があります。ECBが実際に26年に現実化するとなると、ドル、ユーロ、円、人民元も同時期に動き出す可能性が高くなります。すると、直接の外貨交換となり、「米ドルの基軸通貨としての役割」は順次終わっていきます。

そして、世界からの外貨準備としてのドル需要は減少していくでしょう。世界中の中央銀行からのドル売り(ドル下落)が起こってきます。

CBDCが始まるときがドル基軸通貨の役割の終わりの時ではないでしょうか。その終わりの始まりが2026年までの「今」といえます。

3.ドルが実力通りに評価されたなら

ドルは高金利であり、一見、強く見えますが、本質が構造的な赤字なので、実は基軸通貨としての役割が無ければ、弱い通貨のはずです。

ドル、ユーロ、円、人民元が2026年以降、CBDCになっていくと、ドル基軸通貨の役割は終わり向かい、ドルが大幅に下落するでしょう。それは、ある意味で日本にとっては第二のプラザ合意を意味します。

米国にとっては債務を減らすチャンスの時でもあります。

ブッシュ政権(2001-2009)の時の副大統領チェイニーは、記者から「増え続ける米国の対外債務」の質問を受けた時、「対外債務の何が問題か?」と逆に質問しました。

それは(1985年のプラザ合意のように)ドルを切り下げれば、米国は対外純債権国になれるからです。ドルを切り下げれば、米国の輸出も増え、米国の製造業にとってプラスとなります。海外でも売れにくいフォード製の車も半額になれば売れるわけです。売るよりも、買われることが多い基軸通貨であるドルは、世界から過大評価され続けており、そのため、米国の経常収支は構造的な赤字になっています。経常収支の赤字の累積が金融的な対外純債務になっています。

かつて、そのドルの切り下げが行われたのが、プラザ合意でした。プラザ合意のドルの切り下げで損をしたのは、貿易黒字(米国は貿易赤字)の代金として、ドルとドル債を持っていた日本と西ドイツでした。米軍に共産圏(ソ連)から守られている日本と西ドイツは、ドル切り下げを受け入れざるを得なかったのです。

西ドイツのコール首相は、この後10年かけてドル圏から逃れるために、19か国に呼び掛けて、統一通貨ユーロ圏を作ったのです。(1999年)

隣同士のフランスとドイツが、米ドルの決済、支払で貿易をするのは、いかにも非合理でした。

しかし、日本はドル圏から逃れる発想はありませんでした。

プラザ合意の為替差損と、円高での輸出不振からもドル圏にとどまった日本は、「円高不況」になって、日銀は利下げをし、1985年から1989年の地価と株価が3倍となる資産バブルになりました。

しかし、日銀の利上げから円高(1995年、1ドル79円)になったものの、資産バブルは約4年かけて崩壊し、1997年~1998年の金融危機に至り、その後の日本は、日銀がゼロ金利にしても成長しない経済になってしまったのです。

1985年のプラザ合意でのドル切り下げはこれほどに大きな出来事をもたらしたきっかけになったのです。

第二のプラザ合意となれば、最も大きな損をするのは、ドル建ての対外資産を1,329兆円もつ日本です。1,329兆円のドル建て対外債務のうち、証券(合計1,019兆円)は金融機関(日銀、銀行、生損保、年金基金、政府系金融機関)が持っています。

仮に1995年レベルに円高になったとすると、為替差損は1,019兆円×0.5=509.5兆円となります。

これが、CBDCの始まりがもたらす日本の金融機関への衝撃となる可能性があります。

政府および金融機関は、証券として持つ対外資産を減らしておかなければ、このCBDCがもたらす衝撃を吸収しきれなくなります。

個人としては、米国株を積立投資をしていれば、老後は安泰と考えている人は、為替差損を考慮に入れた投資にしておかなければ、衝撃に飲み込まれてしまう可能性があります。

CBDCは時代の必然であり、逆もどりはないでしょう。想定無しに、この時代を迎えると、金融機関も、個人も大変です。時代の進化に伴う痛みを回避する方策は考えておいた方が良さそうです。

個人的には、金(ゴールド)を持つことは防衛の一つかと考えます。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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