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金の国内小売価格、再び最高値 1カ月で4%上昇~金の資産価値を見直す時~【日経新聞をより深く】

1.金の国内小売価格、再び最高値 1カ月で4%上昇

金の国内価格が再び最高値を更新した。地金商最大手の田中貴金属工業が17日発表した小売価格は前日と比べ37円(0.4%)高い1グラム9115円だった。買い取り価格も37円(0.4%)高の8995円と最高値を更新した。海外の金価格の高止まりに加え、外国為替市場がやや円安・ドル高に振れて国内価格を押し上げた。

金は希少性が高く実物としての価値があるため「安全資産」とも呼ばれる。欧米の金融不安をきっかけに投資マネーが海外の金市場に集まり、国内価格にも波及した。店頭価格は16日を除き連日で最高値を更新。上昇率は1カ月で4%に達した。

田中貴金属の店頭では「過去に金を買って保有していた中高齢者層の売却が目立つ」。一方で今後の国内金価格に先高観を持つ投資家も多い。同社によると、来店客のうち、新たに金を買う比率は2〜4割で安定して推移している。インターネット上で純金積立の口座を開設する動きも増えているという。

日本貴金属マーケット協会の池水雄一代表理事は「今後も海外の金高を背景に、国内価格は上昇基調が続きそうだ」と指摘する。

日本取引所グループ(JPX)の大阪取引所に上場する金先物(中心限月)も17日、一時1グラム8241円と連日で最高値を更新した。

(出典:日経新聞2023年3月18日

2.通貨の価値の下落と景気サイクル

シリコンバレー銀行破綻をきっかけに、金(ゴールド)の価格が上がっています。しかし、金の価値自体が変わったわけではありません。通貨の価値が下落しているのです。

「通貨価値の下落」とはどのようなプロセスで起こるのでしょうか。この点を考えるために、歴史を振り返ってみたいと思います。今は200年のサイクルといえるくらいの大きなフレームの中での変化が起きようとしています。その中で、現在の景気サイクルがどの位置にあるのかを考え、その上で今後の通貨価値の推移について考えると、見えてくるものがあります。

景気や社会現象に周期的な法則があるとの指摘は昔からよく聞かれます。経済学者の中には景気循環を専門とする人もいるくらいです。短期的な景気や市場の変動について考える場合、景気サイクル論はあまり意味を持たないかもしれませんが、中長期的または超長期的なサイクルを分析する際には、過去のサイクルを振り返ることは有益です。

景気サイクルの中でもっとも期間の長いものは、一般的に「コンドラチェフの波(コンドラチェフ・サイクル)」と呼ばれています。これは、ロシアの経済学者であるコンドラチェフが提唱した、約50年を単位とする経済の長期サイクルです。

コンドラチェフは主要国の経済動向を調査し、物価、利子、貿易、生産などの指標について140年間に3つの山があることを発見しました。これらは、通貨、戦争、資源など多くの要因が複雑に関係していると考えられています。

第1サイクル
コンドラチェフの波の第1サイクルは1790年前後を起点とし、1820年前後にピークを迎え、1850年ごろに終了したと考えられています。

この時代は産業革命の全盛期で、オランダから英国に世界的な覇権が移り始めていたころです。当時、ブラジルで発見された金が英国に流入し、貨幣需要を支える役目を果たしたとされています。また、1830年代には英国で鉄道株ブームが起きています。

第2サイクル
第2サイクルは1875年前後をピークとし、英国が覇権国家として絶頂を極めた時代に重なります。

穀物法の廃止で自由貿易経済が始まり、新興国である米国が成長エンジンとなりました。また、この時代に経済のグローバル化が進展し、国際的な金融市場の連動性が強まり始めてきました。自由貿易よって穀物価格が下落し、これが消費を喚起し、各地で住宅バブルが発生しました。そして、1837年のバブル崩壊で長期デフレに突入し、第2サイクルは終了しました。

第3サイクル
第3サイクルは、当時の新興国である米国の急激な経済成長を背景とした景気サイクルです。第1次世界大戦で欧州は疲弊しましたが、米国には莫大な戦争特需が発生し、米国経済は大いに発展しました。また、石油の大量生産化に成功し、さらに自動車が発明され、歴史的な技術革新が進んだことも経済発展を後押ししました。

また、このサイクルのピークである1920年代後半には、世界的な株価高騰が見られました。とりわけバブル相場となり、株長者が続出しました。

当時のハイテク銘柄である米自動車メーカーのゼネラルモーターズ(GM)の株価は、約10年で200倍に上昇しました。しかし、空前のバブル相場は、1929年に発生したニューヨーク株式市場の大暴落(暗黒の木曜日)で終わりを告げ、世界恐慌へ突入することとなりました。この株価の大暴落で、第3サイクルが終了しました。

第4サイクル
第4サイクルは、第2次世界大戦前後を起点としています。世界恐慌後、米国のルーズベルト大統領は大規模な公共事業を実施し、米国経済を復活させることに成功しました。その後、第2次世界大戦が勃発し、英国は疲弊することになりました。世界大戦後は米国が完全に覇権を握り、圧倒的な経済力で世界をリードするようになりました。

その一方で、戦後の日本の発展がこの時代に起きました。高度成長時代に入り、これまでになかった需要が掘り起こされ、大きく成長したのです。

また、1971年には米国が金本位制の廃止を宣言し、これを契機に経済のグローバル化がさらに進展しました。金とドルの兌換を固定比率(1トロイオンス35ドル)で行うことを一時停止する「ニクソンショック」が起きたのです。ドルはその価値を大きく低下させ、それを利用して米国は覇権をさらに強固なものにしました。その一方で、日本は常に円高に悩まされることになりました。

これがコンドラチェフの波といわれる景気サイクルです。こうして見てきたように、それぞれの景気サイクルが約50年ごとに到来しているとすれば、第1サイクルが1820年ごろ、第2サイクルが1875年ごろ、第3サイクルが1920年ごろ、第4サイクルが1975年ごろとなるでしょう。

そして、現在のサイクルが第5サイクルであるとすれば、それは情報技術を中心として発展したサイクルと位置付けるのが妥当です。そのサイクルのピークは、第4サイクルから50年後のおおむね2020年ごろと位置付けることが可能です。つまり、第1サイクルのピークの200年後となります。このことから、2020年は経済の大きなピークが到来し、新しい時代に移行する重要な起点の年であるといえるのです。

3.覇権国家と新しい発明

英国がいわゆる「産業革命」で成長したことは誰もが知るところです。1760年代に入ると、英国は様々な製品の生産に乗り出し、生活水準の改善に向けて画期的な発明をしました。機械を使った工場での大量生産モデルを構築し、蒸気機関による大規模で効率的な輸送を実現したのです。

このような歴史的な発明は、当時も「機械化が進むと仕事がなくなる」と言われていましたが、これを現代に置き換えると「人口知能(AI)に仕事が奪われる」という考えになります。

覇権国家が台頭する際には、このような新しい発明があります。オランダは株式市場と船舶、英国は産業革命です。そして、米国は「IT革命」ということになるでしょう。インターネット技術は従来軍事用でしたが、それが民間に転用されたところから世界中に広がりました。これを利用して、米国は様々な発明を行いました。数多くのハイテク企業が誕生し、その技術を利用した企業群が今の米国株式市場を支えています。

18世紀以降の英国は、オランダのやり方を踏襲しながらも、独自の技術革新で覇権国にのし上がることができました。そして、それまでのアムステルダムに代わってロンドンが世界の金融センターになったのです。まさに歴史は繰り返されたわけです。第2次大戦を経て、世界の金融センターがロンドンの金融街であるシティから米国のニューヨークのウォール街に取って代わられたのも、またく同じ文脈です。

また、覇権国家が交代するときには、技術革新も同じように真似され、取って代わられます。英国の産業革命の後には第2次産業が起きてきましたが、これは米国が主導しました。つまり、英国が繁栄に酔っている間に、米国が追いついたわけです。そして、気が付くと覇権国家としての地位を後発国に奪われることになりました。

過去の歴史からすると、米国は覇権国家としての力を失いつつあるといえるでしょう。

覇権国家が交代する際には、戦争が起きるのが常です。大英帝国がオランダから覇権を奪った時もそうでした。一方で、英国は二度の世界大戦では戦勝国でした。しかし、気が付くと、覇権国家の地位が米国に奪われていました。その理由は、戦争に莫大なコストがかかったからです。通常は戦勝国は儲かるものです。しかし、この時の英国はそうはいきませんでした。

第1次世界大戦(1914-1918年)で英国は勝利したものの、その後のパリ講和会議(1919-1920)では米国が主導権を握っています。また、この間にドイツや日本も台頭し始めていました。一方で、多くの植民地を抱えていた英国は、それを支配する力を失いつつありました。覇権国家だったはずの英国は、この時点ですでに国力では米国に抜かれていたのです。しかし、英国の通貨ポンドは依然として通貨として使用されていました。

第2次世界大戦(1939-1945年)の終結とともに、米国は名実もとに覇権国家となりました。1944年のブレトン・ウッズ協定では、ドルを基軸通貨とした固定相場制が採択され、ポンドに代わってドルが正式に世界の基軸通貨となったのです。この時点では、ドルは金と一定の比率での兌換を保証する形式をとりました。この金本位制は1971年のニクソンショックで金・ドル交換が停止され、崩壊するまで続きました。

大英帝国の衰退の経緯を見ると、現在の米国がその道を歩んでいることが分かります。米国が主導したグローバル化は、中国の台頭によって米国の想定したものとは違ってきています。それまでは中国を含むあらゆる国からの留学生を受け入れ、米国流の考え方や技術を伝達し、それを世界標準にしようとしました。しかし、中国はこれらのノウハウをしっかりと自国に持ち帰らせ、マネをして成長し始めました。この動きが進展するスピードがあまりに速く、放置すれば覇権を奪われると焦りを感じた米国は、対中強硬策をとるようになりました。

そして、インドやインドネシア等グローバルサウスと呼ばれる存在が台頭し、中東は米国べったりの状況から中国との関係を深めていってもおり、世界は米国一強ではなくなってきました。

ウクライナでは、ロシアと米欧の代理戦争の様相を呈しております。その戦争では、必ずも世界は米欧を支持しているわけではなく、第二次世界大戦後の米国覇権は大きく変化しています。

覇権国家が移動すると、基軸通貨も動きます。しかし、過去の覇権国家の交代の際は、基軸通貨の衰退は国家の衰退に遅れるというパターンになっています。第2次世界大戦のあとも、ポンドがある程度使われ続けたのはその証左です。

4.米国民がドルを信用しなくなる日が間もなく来る

米国はドルを世界の準備通貨として位置付けたことで、通貨価値を下落させずに莫大な借金ができるようになりました。どんどん借金をしても、通貨の買い手が海外から現れれば、それで賄えるからです。このようにして米国は債務を徐々に拡大させ、経済成長を加速させてきました。

米国は海外にドルを買ってくれる国がいることで、債務を膨張させることができます。これこそが、米国のような基軸通貨の発行国の最大の特権です。しかし、債務を膨らませすぎると、いずれ債務超過に陥ることになります。現在の米国の債務膨張が、米国の終わりに発展する可能性はきわめて高くなっています。

米国の負債がさらに大きくなることは確定的ですが、経済成長を維持するために、負債は一層増加し続けることになります。米国は債務上限問題を抱えています。現在の債務の上限は31.4兆ドルとなっています。そして、その債務の上限に達しており、この債務上限を引き上げない限り、米国政府は破綻します。もちろん、そうならないように債務の上限を引きあげる、又は上限を撤廃するということになるでしょうが、債務が膨らむことは決定的です。

また、パンデミックの救済のため、FRBは史上空前の金融緩和を行いました。紙幣を印刷し、米国債、MBS(不動産担保証券)を買い続けました。それによって、FRBは大量の国債やMBSを保有することとなりました。

その結果、インフレが米国を襲うことになりました。インフレとは、モノの価値が上がっていくことですが、それはとりもなおさず、通貨の価値の下落を意味します。つまり、ドルの価値が下落したのです。そのため、FRBは金利を引き上げました。2022年は史上最速のペースで金利を引上げたのです。

結果として、金融緩和によって、米国債を大量保有したのはFRBだけではなく、民間銀行もでした。そこに史上最速のペースで金利が上がったため、保有国債、MBSに含み損が発生する事態となりました。それによって、米カリフォルニア州のシリコンバレー銀行が破綻。金融不安をもたらしました。

FRBはインフレを金融引き締め、つまり利上げによって抑え込もうとしましたが、金利引上げの副作用として、銀行の破綻が起きてしまいました。今後、FRBは金利を引き上げにくくなりました。インフレを抑え込むことが非常に難しくなったのです。それは、通貨の価値の下落を食い止めることがやりにくくなったことを意味します。ドルの価値の低下はやむを得ないことになりそうです。

そして、実際に長期的視点で見ると、ドルは金に対して「紙くず」になったと言っていいほど価値が低下しています。1971年の金に対するドルの価値を100とすると、ドルの価値は1.8程度しかありません。ニクソンショックからの約50年間で金に対するドルの価値が50分の1になっているという事実は衝撃的です。

(出典:TRADING ECONOMICS/金価格(ドル建て)

その昔、現金の価値が金を上回っていた時期もあります。1850年から1913年(第1次大戦まで)の期間では、預金など短期金利による収入を含む通貨を保有した場合の収益は、金を保有した場合よりも良かったとの見方があります。この期間は、多くの通貨は金か銀に為替レートが固定されていました。第2次産業革命と呼ばれる次期でもあり、資金の借り手はその資金で収益を上げ、それにより借金を返すことができていました。また、資金の貸し手は魅力的な金利を得ることができたのです。

しかし、このサイクルがいったん回らなくなると、借金を返すためにさらに借金を重ねることになります。その結果、経営は自転車操業に陥っていきます。

これがを行っているのが現代の米国であり、日本もそうです。国債を発行して借金をする際に、その国債を中央銀行に買ってもらえば、いくらでも借金ができることに気づいたのです。そうすれば、政府と中央銀行の間で資金がぐるぐると回るだけで、問題なく借金を返すためだけに借金をする政府が存在することになりました。

コロナパンデミックでは、各国政府は企業や国民を救済するために多額の支援を決めました。また、中央銀行も量的緩和により国債や社債を買い入れ、金利の上昇を抑制しようとしました。

史上稀に見る全世界の金融緩和は、資産バブルを引き起こしました。株価は上昇し、住宅価格が上昇していきました。そして、さらにインフレをもたらしたのです。FRBは今、そのインフレ抑制策による金利引上げが引き起こした金融不安に対処しなければならなくなっています。

5.通貨の下落を金でカバーする

今後、通貨の価値は下落していくことになるでしょう。債務不履行は政府・中銀が肩代わりすることで回避される可能性があるものの、その結果、通貨の価値が大きく棄損していきます。ドルの基軸通貨としての価値が低下し、これまでとは全く異なる枠組みが構築されていきます。

ドルに代わって人民元が基軸通貨になることも可能性としてはあるものの、相当先のことでしょう。しかし、中国が各国の経済に深く関与し、一部の国にきわめて深く入り込んでいることを考えると、このような考えが全く無いと廃除することはできないでしょう。

その中国が手元にため込んでいるのが「金」であることを、再確認しておく必要があります。

世界情勢が大きく変化し、米国の衰退が明らかになってくれば、今後の資産運用は株式を中心としながらも、債券の割合、特に米国債の割合は減り、少しずつ金に置き換えられていく考えられます。

しかし、日本の投資家は金に投資していないように見えます。現在の市場リスクを考慮すれば、株式投資を中心に据えるとしても、金を見直していくことが不可欠です。

シリコンバレー銀行の破綻を景気に米国に金融不安が広がり、金価格が上昇しています。金融不安が収まれば金価格もいったんは下落するでしょう。しかし、長期的視点に立ち、米国の覇権が衰退していくことを考えると、世界の中央銀行はますます外貨準備としてはドルではなく、金を選択していくことになります。中国だけでなく、世界の中央銀行が金を買っています。また、ロシアも金の保有を増やしています。

金の資産価値が再度見直される時代に入っていると考えます。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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