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米長短金利逆転が加速 長期金利4%台、遠のく利下げ~

1.米長短金利逆転が加速 長期金利4%台、遠のく利下げ

米債券市場でインフレと金融引き締めの長期化を織り込む動きが加速している。市場が予測する利上げの到達点が一段と上がり、米長期金利は約4カ月ぶりに4%台に上昇。政策金利の動きに敏感な2年物国債の利回りは15年ぶりの高水準となった。景気後退のサインとされる、2年債利回りが10年債を上回る「逆イールド」は深まり、中長期の経済減速懸念も増す。

米国の長期金利の指標となる10年物国債の利回りは1日、2022年11月以来となる4%台に上昇した。直接のきっかけは米サプライマネジメント協会(ISM)が同日発表した2月の製造業景況感指数で、仕入れ価格の水準を示す指数が大きく上昇したことだ。

米国では1月以降、雇用統計や消費者物価指数(CPI)や小売売上高、個人消費支出(PCE)といった指標が市場予想を上回る強さをみせた。米連邦準備理事会(FRB)が利上げで景気を減速させインフレを抑え込もうとしているにもかかわらず、米経済は底堅さを保つ。

SMBC日興証券の野地慎チーフ為替・外債ストラテジストは「FRBが利上げを続けてもインフレが収まらない懸念が増す」と指摘する。

より急激な上昇を見せたのが、政策金利の影響を受けやすい2年物国債の利回りだ。米2年債利回りは1日、一時4.9%台をつけた。昨年のピークである4.8%を突破し、2007年7月以来およそ15年ぶりの高水準となった。

市場が予測するFRBのターミナルレート(利上げの到達点)も水準を切り上げている。市場参加者が予測する米国の政策金利を示すフェデラルファンド(FF)金利先物をみると、12月には政策金利が5.4%程度で推移すると織り込んでいる。22年末時点の予想より3回分の利上げ幅が上積みされるという見立てだ。

最近浮上していた早期の利下げ観測も後退している。米モルガン・スタンレーは2月27日付で、最初の利下げ予想を今年12月から来年3月に先送りした。市場参加者は22年末時点では今年6月に政策金利がピークを付け、その後は利下げに転じるとの見方を織り込んでいた。今は政策金利のピークが後ろにずれ、年内の利下げ観測はほとんど織り込まれなくなった。

政策金利が高い状況が長引けば、米国経済はその分だけ下押し圧力を受ける。中長期的な景気減速懸念を最も映すのが、2年債と10年債の利回り差だ。

金利は通常、返済リスクを織り込むため満期までの期間が長いほど高くなる。足元では2年債の上昇の勢いが強い一方で10年債の上昇は相対的に鈍く、2年債が10年債を上回る「逆イールド」が加速した。金融情報会社リフィニティブによると逆イールド幅は2000年以来およそ23年ぶりの大きさとなった。

10年債の利回りには政策金利の見通しも影響する。今回も政策金利見通しの上振れとともに10年債の利回りが上がった。1月末と比べた上昇幅は0.5%で、2年債(0.7%)を下回る。上昇幅が小さいのは、中長期的な景気減速と、それに伴う利下げを織り込んでいるためだ。「利下げペースの加速を織り込めば逆イールドがさらに深まる可能性がある」(米バンク・オブ・アメリカ)

早期利下げ観測の後退をもたらした足元の米景気の底堅さは一時的にとどまる可能性もある。みずほ証券の上家秀裕シニア債券ストラテジストは「1月の景気指標は天候要因などで上振れた可能性があり、市場が騒ぐほどFRB側の利上げ見通しは変わっていないだろう」と指摘する。来週にかけて重要な米経済指標が相次ぐ。市場が見込むほど米経済が強くなければ再び年内の利下げ観測が強まるとの見方もある。

(出典:日経新聞2023年3月3日

2.逆イールドはどうして注目されるのか。

米国で逆イールドが拡大しており、注目が集まっています。逆イールドとは、短期金利が長期金利の水準を上回る状態を指し、過去に逆イールドが発生した際には、その後11カ月~25か月後に景気後退が訪れることから、景気後退の兆候と捉えられています。その逆イールドが今、拡大しています。

(出典:IRバンク/米国長短金利差

では、なぜ逆イールドは景気後退の兆候と考えられるのでしょうか。答えは、市場による景気後退観測にあります。金利を決定する要因は複数ありますが、基本的には短期金利が中央銀行の決定する政策金利の影響を強く受けるのに対し、長期金利は市場参加者による将来の見通しに影響されます。

一般的に長期金利が短期金利と比較して高い金利水準となる傾向にあります。長期金利は金利変動に伴う債券変動リスクが高く、資金回収までの期間が長いので、そのリスクに見合った利回りが求められるためです。

しかし、市場が将来の景気後退を予測することで、短期金利よりも市場の影響を受けやすい長期金利が低下すると、逆イールドが発生します。つまり、逆イールドの発生は将来の景気後退観測が市場から発せられていることを意味し、それ故に景気後退の兆候とされているのです。

現在の逆イールドは、長期金利も上昇しているのですが、FRBの利上げによってより影響を受ける短期金利がそれ以上に上昇しているので、逆イールドが発生しています。

もちろん、逆イールドの発生自体が、必ずしも景気後退をもたらすわけではありません。しかし、多くの市場参加者が逆イールドを景気後退の兆候と考えているため、逆イールドの発生をもって投資家が投資資金の回収を行うなど、自己実現的に景気後退をもたらす可能性もあり、逆イールドの発生が注目されているのです。

3.逆イールドは続くのか

2022年は世界的なインフレが起き、米国でも9%を超えるインフレが起きました。このインフレを抑制するために、FRBは政策金利を引き上げました。これによって長短金利は上昇しましたが、特に短期金利は政策金利に敏感なため、15年ぶりの高さまで上がっています。

そして、高インフレが長期化する懸念も高まっています。FRBのウォラー理事は3月2日の講演で、「最近のデータは高インフレの鈍化が想定より進展していないことを示している」と話しています。

また、ウォラー理事は「フェデラルファンド(FF)金利誘導目標レンジを5.1%から5.4%の間の予想されるターミナルレート(金利の最終到達点)にまでさらに数回引き上げることを支持するだろう」と述べています。

2022年10~12月の個人消費支出(PCE)物価指数が上方修正されたことなどを指摘し、2%までの道のりが「1、2カ月前に多くの人が予想していたよりも遅く、長いものになる」とも発言しています。

インフレ率はピークアウトして、順調に下がっていくものと思われましたが、ここに来て、「インフレは手ごわい」という経済指標が出ています。

2月24日に米商務省が発表した個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比で5.4%上昇しました。伸びは2022年12月の5.3%から大きくなっています。エネルギーと食品を除くコア指数の上昇率は4.7%で、前月の4.6%から加速し、市場予想も上回りました。

前月比では総合指数もコア指数を0.6%上昇しました。いずれも22年12月から伸びが大きくなりました。コア指数の伸びは12月の0.4%から拡大し、市場予想の0.5%を上回りました。

(出典:日経新聞2023年2月24日

PCEは2%の物価目標を掲げるFRBが最も重視する指標として知られています。その理由は米労働省が公表する消費者物価指数(CPI)より調査対象が広いことが上げられます。

PCEは住居費等特定の品目に影響されにくいため、動きはCPIと比べて小さくなりがちです。前年同月比の上昇率はいずれも22年6月がピークですが、CPIの9.1%に対し、PCEは7.0%にとどまっていました。

FRBは家賃を除くサービス分野の価格上昇率が鈍化するかどうかに注目しています。今後、賃上げなどを背景に物価上昇率が想定を超えて高止まりした場合は、FRBは景気を冷やすための金融引き締めを強化する可能性があります。市場関係者は、利上げの回数が増えて政策金利の到達点が従来の予想より高くなったり、利下げ転換までの期間が長くなったりするシナリオを織り込み始めています。

FRBの引き締めの長期化が予想されれば、2年債はより敏感に上昇していきます。このまま、インフレが長引けば、逆イールドも続いていくと予想されます。

4.逆イールドの発生が観測されると、景気後退するか

1978年以降、米国の景気後退は①1980年7月~1982年11月、③1990年7月~1991年3月、④2001年3月~11月、⑤2007年12月~2009年6月、⑥2020年2月~4月の6回あります。

そして、逆イールドの観測期間は1)1978年8月~1980年5月、2)1980年9月~1982年7月、3)1998年12月~1990年3月、4)1998年5月~2000年12月、5)2005年12月~2007年6月、6)2019年8月の6回でした。この逆イールドと景気後退の関係を整理しておきます。

(筆者作成)

上記の図表のように比較してみると、一定期間を経て、景気後退に陥っていることが分かります。

今回、FRBの大幅連続利上げとQTの同時進行という行動は1978年以降では初めてです。果たして、景気後退はあるのでしょうか。

5.ポール・ボルカーFRB議長

1978年からの逆イールドが発生した際、米国は高インフレに苦しんでいました。その時にインフレ退治をしたのがポール・ボルカーFRB議長でした。

ポール・ボルカー議長はニューヨーク連銀総裁を務めていましたが、1978年8月にジミー・カーター大統領によってFRB議長に任命されました。

当時の米国は石油ショックによってインフレが激化していました。その時の消費者物価上昇率は79年11.3%、80年13.5%でした。ボルカー議長にはある確信があったようです。

「もし、インフレに起因する諸困難すべてに対しての対応があるとすれば、それは金融政策を通じて行わなければならない」

その背景には他の政策手段は一種の政治的麻痺状態に陥っていると思われただけでなく、金融抑制策が維持されることがハッキリと示されないことには他の政策もうまくいかないという考えがありました。

ボルカー議長は伝説となる利上げを実行していきました。FF金利は78年の7.94%から79年11.20%、80年13.35%へと上昇しました。1980年10月カーター大統領が遊説中に「FRBは高金利が経済全体に与える悪影響をもう少し考えるべきだ」と発信すると、独立した神聖な機関FRBの伝統に対する侮辱だという非難が噴出し、カーター大統領は沈黙するしかありませんでした。

実質GDPは1980年には-0.2%まで低下し、失業率は7%を超えました。

1979年10月6日、ボルカー議長はFRBの理事会室でFOMCのメンバーにマネーサプライに焦点を当てる新しい金融引き締め政策を説明しました。この「新政策運営方式」の採用が全会一致で採択されました。これがサタデーナイト・スペシャルと呼ばれるものです。フェデラル・ファンド金利の操作からマネーサプライの操作への転換でした。

議会でボルカー議長は「物価の安定と経済の持続的成長という最終目標を達成するためには、通貨供給量と貸し出しを長期にわたって、適切に抑制していくことが最終的に重要である」と発言しています。

インフレを鎮静化するには高金利が必要でした。マネーサプライをコントロールすることにすれば、金利を大幅に引き上げることができます。高金利に対する苦情が出ても「FRBの仕事はマネーサプライの管理であり、金利の管理ではない」という姿勢に転換したのです。

それまでFRBは金利を上げ下げすることで、金融政策を実施していました。引き締め時には金利を引き上げるのですが、当時のインフレの加速に追いつけませんでした。そこで、マネーの増加目標を定め、その範囲に資金の供給を絞ることで金融を引き締めることにしたのです。結果として、金利が急上昇することは容認するとしました。

FRB議長就任前から練っていたのは、このような引き締め策でした。大幅な利上げは通常、政治的反発を招きますが、マネーに関心を引きつけることで、少ない抵抗で金利を上げられるようにしたのです。

FRBのこのような通貨供給量の抑制によって米国経済は1980年には実質GDP成長率が-0.2%となりました。1977年7.1%、1978年6.1%、1979年5.8%と低下していた失業率が1980年には7.1%へと上昇しました。1980年7月が景気の谷となりましたが、後退期間は6カ月でした。景気は12カ月拡張し、1981年の第4四半期には、失業率が10.6%まで上昇するという深刻な事態に陥りました。

しかしながら、ボルカー議長の金融政策によってレーガン大統領時代には国民のインフレ予想が解消され、「インフレなき成長」のための条件が整えられました。

FRBは1982年7月にディスインフレ政策を放棄し、金融緩和策に転換しました。政策手段もマネーサプライの操作から、フェデラル・ファンドの金利の操作に戻しました。

6.パウエル議長はボルカー議長か否か

逆イールドが発生しているのは、景気後退のサインではあります。しかし、景気後退を避けるべく金利の引き上げを停止したり、利下げに踏み切る、あるいは市場がそう予想すれば、逆イールドは解消されるかもしれませんが、インフレが再加速します。

ということは、インフレを抑え込むには、逆イールドが発生し、市場が景気後退を懸念したとしても高金利を続けられるかどうかにかかっているとも言えます。

パウエル議長がボルカー議長のよように、多少強引な政策だとしても、断固としたインフレ退治を第一とするか否かにかかっています。

インフレが再加速すれば、さらに金利を上げなければなりません。そうなれば、経済の破壊度合いはさらに増すことになります。そうなると、やはりインフレを抑えることが第一ということになります。

ならば、パウエル議長はボルカー議長のように、何が何でもインフレを抑えるという姿勢が重要となります。そうならば、金利は今よりも高く、そして高金利はインフレの抑制がハッキリとするまで長くとなります。

パウエル議長がボルカー議長のようになれば、タカ派的な金利上昇が続きます。そうなれば、逆イールドはさらに拡大し、そして、景気後退、又は金融危機が来年には来るでしょう。

逆にパウエル議長がボルカー議長のような断固たる姿勢がなければ、インフレは再加速し、さらに経済の破壊度合いが増すことになるはずです。

いずれにしても、高金利がもたらす、逆イールドは、今回も景気の後退のサインだと考えます。そして、それは1978年型であり、経済のハードランディングは避けられず、後はその度合いだと考えています。

パウエル議長はボルカー議長か否か。今後のFRBの金融政策に注目です。

未来創造パートナー 宮野宏樹
【日経新聞から学ぶ】

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