3つの奇跡で誕生【「ミライスピーカー・ホーム」開発ストーリー】
ミライスピーカーの進化を支える匠、株式会社サウンドファン 研究開発生産本部 部長 田中さんに「ミライスピーカー・ホーム」発売までの道のりをインタビュー。こだわりポイントから、コロナ禍での生みの苦しみまで、語ってもらいました。
質問)
ミライスピーカー の小型化・省コスト化を実現できた、新開発ハイブリッド方式曲面振動板スピーカーユニット、これは田中さんの発案でしたね。発想のヒントはどこからきたのですか?(そのユニットとはコレ↓です)
田中さん)
思いついたきっかけは、すでに発売されている「ミライスピーカー・ボクシー2」や「ミライスピーカー・カービィー」の曲面振動板を駆動する専用のアクチュエーターが非常に高額な部品であり、製品化するための構造が複雑であったこと。そこで、なんとか省コスト化でき、量産時にも負担が少ない構造にできないか、と考えていました。
もともと「ミライスピーカー」は、聴こえにお困りの方と健聴者、いづれの方にも「聴こえやすい音」を実現するため、曲面振動板スピーカーと普通のコーン型スピーカー、2ユニット搭載し、それぞれに振動板を駆動させるアクチュエーターを搭載しています。その2つのユニットを一体化し、コーン型スピーカー自体をアクチュエーターとして使えばいいじゃん!とひらめきました。
質問)
そのひらめきから「ミライスピーカー・ホーム」を製品化するまで、たくさん試行錯誤がありましたね。一番苦労したポイントは?
田中さん)
「ミライスピーカー」を多くのご家庭で活用してもらうためには「小さい、壊れない、使いやすい、音が良い、そして作りやすい」事を目指しました。
そこで、まずこだわったのが、小型化しても、聴こえにお困りの方が「聴こえやすい」音であることと、健聴者でも「聴こえやすい」音質であること、両方をバランスよく実現する曲面振動板の材料選定です。
質問)
「ミライスピーカー・ホーム」の曲面振動板の材料選定までの道のり、教えてください。
↑ ボツになった振動板材料。いくつもの材料をこのように振動板として試しました。
田中さん)
まず、初めに検討したのは、過去の試聴テストでも安定の結果を出していた「ケント紙」。しかし、「ミライスピーカー・ホーム」サイズに振動板を小さくすると”きつい音”がするんです。(音の説明は難しいですね、キンキンした音とでもいいましょうか・・・)また、紙なので耐久性に懸念が残ります。
ここから、振動板の材料選びの旅が始まりました。しかしこの旅、意外にも驚くほど短期間で終わったのです。そこにはいくつかの奇跡がおきたのです。
1つ目の奇跡が、ミライスピーカーの曲面振動板について研究していただいている東京都立大学の大久保先生との出会いです。大久保先生には、カーボン素材の曲面振動板の振動解析と曲面の発音原理を研究していただいています。そのとき見せてもらった様々な測定結果などから、もしかして小さい振動板では、今までよりも柔らかい物の方が良いのではとひらめきました。(なんでひらめいたか、ということは語るの長いので、割愛させてもらいますね)
2つめの奇跡は、タイミングよく出会った、ポリエチレンの薄い発泡シートです。ポリエチレンのシートは、厚みと発泡率の組み合わせで、色々な特性が作れるんですね。いくつかサンプルを使って試作機をつくり、モニターとなってくださったお客様に比較試聴していただきました。その結果から、厚みや発泡率など素材の比重バランスで最適なものを選定。それが「ミライスピーカー・ホーム」で採用されました。
3つめの奇跡は、機構設計者の鈴木さんの入社です。試作機を次々と3Dプリンターですぐに形にしてくれるので、スピーディーに試聴テストを重ねることができ、早めに最適な振動板素材を選定できたのです。
このような奇跡的巡り合わせで、「ミライスピーカー・ホーム」は生まれてくることができました。
↑3Dプリンターマスターの鈴木さん。ミニュチュアスピーカーオブジェを作ってカラーバリュエーションを検討したりも…
質問)
製造工程に入ってからも、色々ありましたよね・・・
田中さん)
そうなんです。いざ、製造するぞ!ということになってから、一部の部品の成型不具合(思った通りの形に部品ができていないこと)が発覚し、そこからの軌道修正は納期との戦いで大変な対応となりました。
さらに、さらに、最後の最後、想定外で苦労したのが、新型コロナウイルス感染拡大による部品供給一時ストップという難題です。これは、待つしかない!のですが、日々製造現場とやりとりをしながら、1日でも早く発売できるように頑張りました。
質問)
なかなか苦労の多いミライスピーカーの開発は楽しいですか?
田中さん)
楽しいけど苦しいです(笑)
ミライスピーカーを試聴されたお客様が笑顔になって「よく聴こえた」と言ってもらえた時、製品を作る楽しさを実感しますね。それは、入社してから現在に至るまで、いつもそれが私たちの原動力になっています。ただ、そこに至るまでの道のりは、先ほど語ったように、結構険しかったです・・・
質問)
田中さんは、今までの大手音響メーカーで長年スピーカー開発に携わってきたと思いますが、今までの音作りの「険しさ」と、ミライスピーカーの音作りの「険しさ」って違いってがあるんですか?
田中さん)
聴こえにお困りの方の「聴こえやすい音」が、私には判断できないことです。また、「聴こえやすさ」を定量的に測定できる機器も、指標もありません。よって、ユーザーとなる方に、実際に聴いていただきながら開発は進められます。もちろん、ミライスピーカーの曲面振動板から出る音が、聴こえにお困りの方をサポートできることは、これまでの実績・経験から、確証を掴んでいますので、そこを外さずに、健聴者の方でも違和感のない音づくりをする・・・これがミライスピーカーの音作りの「険しさ」です。
(参考)↑67-S語表による語音聴力検査などで、聴こえづらい方の聴こえの具合を調べながら開発を進めています。
質問)
もう、次の開発を考えているのではないでしょうか?田中さん!
田中さん)
はい、もっともっと”よい音”を創っていきたい!
最近、数々の試聴テストの結果から感じていることとしては、オーディオ的な音質の良し悪しの判断は、聴こえにお困りの方と健聴者、それほど変わらないのではないか、ということです。これからは「聴こえやすく」「オーディオ的によい音」両方を追求していきたいと思います。オーディオ的なよい音って・・・という話は、オーディオマニアの私が音質の話をしだすと止まらないのでまた、次回に。
多くの方が聴こえやすく「よい音だね!」って言ってもらえる製品を開発し、長くお客様に愛され使い続けてもらえるミライスピーカーづくりをしていきたいと思っています。
田中さん、ありがとうございました!
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