【掌編】 イライラの昼時

どこにでもある、いわゆるチェーン店。私はワンコイン定食を頼んだ。届いた定食を一目見て、私はふとした違和感を覚えた。メニューに載っている写真では、確かに味噌汁がついているはず。ところが目の前にあるお盆の上にはそれが無いのだ。午前中から理不尽な上司に怒られ、少々イライラしていた私は、たかが味噌汁についカッとなってしまった。
「おい!」
横切る店員を荒い声で呼び止める。
「はい、いかがなさいましたでしょうか」
やけに高い声が鼻についた。
「これさ。無いんだけど」
「……えっと、無い、というのは?」
「味噌汁!味噌汁がついてないんだけど!?」
今思えば、どうして味噌汁にあそこまで執着していたのか、自分でもわからない。いや、仮に届いていないのが味噌汁じゃなくてお漬物だったとしても、あの時の私はおそらく同じことをしていただろう。ストレスの管理も上手に行え無いやつが飲んでいい味噌汁なんて果たしてあるのだろうか。
「あ、すみませんでした!!今からお持ちしてもよろしいでしょうか?」

一分も経たないうちに味噌汁はやってきた。結局、熱すぎる味噌汁に舌を攻撃され、ストレスが倍増する結果となった。しかし。
「本当にすみませんでした。あの、こちらもしよろしければ、お召し上がりください」
猫撫で声な店員はそう言って、味噌汁を飲み終えた私にバニラアイスを持ってきた。スプーンですくって、一口食べた時、私にもんもんと篭っていた熱がすっと冷めていくのを感じた。私は、一体どうしてこんなくだらないことでイライラしていたのだ。そしてそのイライラに身を任せて、どうして店員や周りの人に迷惑をかけてしまったのだろうか。これじゃあ上司と変わらないじゃないか。レジへ向かうと、担当してくれたのはあの甘い声の店員だった。
「さっきはすみません。なんか、大きい声を出しちゃって」
そうこっそり言ってみると、
「いえ、誰にでもイライラすることくらいありますから」
と返してくれた。なんと優しいのだろうか。なんだか温かい気持ちに包まれたとき、その店員は言った。
「それではお会計、700円になります」
その声が、アイスよりも冷たく感じたのだった。