早朝の妙

 自宅の扉を開けたら目の前に。
と勢いよく言いたいところではあるが、なんとまぁ人生そうも都合のいいものではなくて、どういうわけか私の住処はアパートの3階にある。それ故に自宅の扉を開けた先に広がるのは虚空。いや正確にいえば電線と屋根だけが見える割と虚空。たとえそこに一羽のカラスが飛んで入ってきたとてやはり虚空。
 人間往々にして何もないというのが不安なものである。お金がなけりゃ不安。友達が居なけりゃ不安。挙げ句の果てには休日に予定が一つもなければ不安だなどと言い出す始末。何でもかんでもないよりある方がいいという考えは捨てた方がいい。そして私の生き方はそんな思考を体現するかのごとくミニマムである。その小ささたるや、確かにひとえに風の前の塵に同じかもしれないが、例え自分が塵だろうがなんだろうが、誇りを持たねばしょうがない。
 ここまで自分を鼓舞しておいて、悲しい矛盾に気がつく。ミニマムな生活を自負するわりに、どうもこの得体の知れない誇りなるものを、私はやけに大きく肥えた状態で飼育しているようなのである。ただ体積が大きくなっているだけで、密度でいったらすっからかんで。毛が生えた表面をかき分けてかき分けて切り裂いた先にあるのは、虚空だ。それでも、そうと分かっていても、殺して食べてしまうことなんて、私にはできなくて。
 はーあ。私って何してるんだろ。何してたんだっけ。なんだ。まだ自宅の扉を開けただけじゃないか。