【童話】 うまいもんおじさん

 あるところに、食べることが大好きな、40代半ばのおじさんが居ました。そのおじさんは特にラーメンが好きで、1日に2杯は余裕でした。そんなおじさんの口癖は「まずいものを食べるくらいなら死んだ方がマシだ!」という言葉で、毎日お米とこの言葉を噛み締めているようでした。食事をするときは毎回言うほどなので
おじさんの飼っているインコも、いつの間にか同じことを言うようになりました。

 そんなおじさんが、ある日突然腹痛に苛まれました。たまらず医者に診てもらうと、「あー、これはもう結構やばいですよー」と、なんでもないように言いました。続けて、「ま、3か月くらい入院すれば、なんとかなるかなー」とまたも半笑いで言いました。

 しかし、おじさんは「そんな……入院したら、好きなものが食べられなくなるじゃないか!」と、子供のようにごねています。「病院食なんておいしくないんだろ!?」
 その言葉を聞いた医者は、満足そうにうなずき、銃を取り出しました。「じゃあ、死にましょうか」

 錆びれたアパートの端、空っぽの部屋の中、インコは「死んだ方がマシだ」と鳴きながら死んだ。音も光も無い空間に、吹き抜ける風は冷たかった。春はまだ遠い。