脚本公開でもしよう


劇団ちゃうかちゃわん第133回オムニバス公演 C脚本『用もなしでは怖いし』の脚本を公開します。一部修正を加えています(音照映のきっかけについて簡略化または省略)が、セリフはそのままです。これであなたも立派な用なしです。


『用もなしでは怖いし』

【登場人物】
A
B
C
足立先生
掃除のおばちゃん
後輩ちゃん



【本編】
ブリッジ
使用曲:地球の裏 / いよわ
(CはAとB2人の間に立っていて、なにやら審判みたいな立ち位置)
(明転してからしばらくの間、じゃんけんの前のウォーミングアップ。体を動かしているAとB)

チャイムの音。
きーんこーんかーんこーん、きーんこーんかーん
(3人、チャイム音と共に一時停止する)
こーん
(3人、再度動き出す)

A:ちょっと声出してもいいですか?

C:許可します

(AとB、体を動かすのに加えて、発声練習もし始める)

A:sssss(s音)

B:zzzzz(z音)

A:んー(ハミング)

B:はっ!はっ!はっ!はっ!じゃん!けん!ぽん!(ハウリング)よぉし......

C:それではまいります。いざ尋常に、勝負!!

B:......さい、っしょーげん(最小限)のグータッチ(さい、しょは、グーと思わせるような言い方)

C:勝負あり!

A:待って待って待って

C:タイムアウト!!
(右手は手のひらを広げて水平、左手は人差し指を立てて垂直にして、バスケのタイムアウトのジェスチャー)

A:いやそういうのじゃなくてさ。え、何今の?

B:僕の得意技、最小限のグータッチだよ

A:何それ?

B:だから、今最小限のグータッチで、僕が勝ったから、君が1番最初に怖い話することになったんじゃん

(後ろに置かれた箱を一つ持ってきて、椅子代わりに)

A:え、これ分かってないの俺が悪い?

C:大丈夫大丈夫、体が覚えてくから

A:バイト初日じゃねぇんだぞ俺

雑談中BG FI

B:ってことで、じゃあ早速怖い話でもしよう!君からね

A:いや、別に怖い話するのはいいんだよ。そういう約束で来たわけだし。でも、やっぱりこういうとこに勝手に入るのって、良くないんじゃないかな?

B:何で。僕たち去年までは毎日通ってたんだよ?

A:去年まではね!?今はもうただの部外者だから

B:じゃあ逆に訊くけどさ、もし君がある家を引っ越して、で、一年後にその家に戻ってきて勝手に入ったら、それは君が不法侵入してるってことになるのかい?

A:......なるよ!

C:それは用も無く入るから不法侵入になるんだよ

A:誰だよお前!

C:お前が呼んだんやろがい!!

A:あ、そうか呼んだわ!!!ごめん!!!!

B:用も無く入るから不法侵入になるって、どういうこと?

C:例えばコンビニなんかは、商品を買うって目的があるから許可なく入っても不法侵入にならないんだよ。でも別に何かを買うでも無く入れば、(段上げに片足をかける)これは建造物侵入罪。それは高校も一緒ってこと

B:なるほど。確かに、急に入ってきた3人組が何の用も無しでは怖いし、この高校に何かをしに来たってことにすればいいのか

A:じゃあ、何しに来た、ってことにするんだよ!?まさか、「校舎裏のじめじめした暗がりで怖い話をするためだけに来た」だなんて馬鹿正直に言うわけじゃないだろ?

C:まぁ、そんな理由じゃ追い返されるだろうね

A:だったらどうするんだよ!!

B:なら、こうしよう。「卒業するときに埋めた、タイムカプセルを掘り出しに来ました!」ってね

C:おー
A:あー。......いや早いだろ

B:え?

A:埋めたの去年だよね?掘り出すの早くない??

B:いいじゃん別に。待てなかったんですって言えば

A:タイムカプセル1年しか待てないのかよ!?向いてないよタイムカプセル!?

B:でもほら、タイムイズ待てねーって言葉あるじゃん

A:ねぇよ。タイムイズマネーみたいに言うなよ

B:まぁでも、実際今掘り出してみてもいいけどね、腐っちゃうし

A:......え、腐っちゃうって何!?お前何埋めたの?

B:柿の種

A:なんでだよ

B:柿の木生えるかなと思って

A:バカお前そんなこと他の人に言ってみろ、笑われるぞ?

B:おいおい、木が生える代わりに草生えて、柿の種が話の種になっちゃったってわけか

A:ちょっと上手いこと言ってんじゃねぇよ

B:やっぱ腐ってるかな、柿の種

C:いや?土の中に埋めたものって、案外腐らないもんだよ

A:あんま真面目に話すことじゃねぇだろ

B:でもさ、タイムカプセルを掘りに来た、って口実を使う割には、僕たちシャベル持ってないよね

A:まぁ確かに

C:あー、私のシャベルで良かったら貸すけど?

B:えー助かるー!ありがとう!

(C、下手にハケる。セリフはしばらく幕裏から。体育倉庫の位置は、客席横の辺り)
(この間、Bは3人分の箱を並べる)

A:え、なんで会長シャベルなんて持ってんの?

C:持ってるっていうか、そこの体育倉庫にこっそり仕舞いっぱなしにしてたの

A:いや、だからそもそも何で私物のシャベルがあるのかって訊いてんだよ!

C:ほら、私高校んとき「シャベル飯部」だったじゃん

B:あれ、会長、テニス部じゃなかったっけ

C:あー兼部してたんだよ。テニス部と、「シャベル飯部」

A:「シャベル飯部」ってなんだよ!!

C:え?ほら、綺麗に洗ったシャベルをフライパン代わりにして、いろんな料理作る部活ってあるじゃん?

A:ない

C:あるの

A:じゃあ、ある

C:そう。で、その部活で使ってたシャベルがあるわけよ

(C、シャベルだけが舞台上に見えるように出す)

C:コンニチハ!

A:あぁ喋るシャベルだ......

雑談BG FO

B:......え、今のなに?ダジャレ?

A:いや、今のはほら、まぐれだから。ダジャレちゃっただけだから

B:あああ喋るシャベルだっ!!!

A:掘り返すなお前!

B:掘り返すな?シャベルだけに?

A:もうやめろ!言うな、恥ずかしいから!

(C、歩いてきてシャベルをAに手渡す)

C:はい

A:......いや、そりゃ穴があったら入りたいけどさ、自分で掘るほどじゃないから

C:あ、そう?(シャベルを引っ込めようとする)
雑談中BG FI

B:でもすごいね、これ!結構ちゃんとしたシャベルじゃん!

(B、Cから半ば奪い取るようにシャベルを受け取る。)

A:ってか、フライパン代わりにしては、だいぶ汚れてない?

C:これはほら、クロマグロ捌いたときの血がとれなくてさ

A:シャベルでマグロ捌いてんの!?

C:......だめなの?

A:いや、俺まだその善悪がつくほど大人じゃないけどさ

B:でも、マグロ捌くにしてはずいぶん重たくない?

C:まぁ、そのおかげで筋肉ついたからね

B:会長、そんなに筋肉ついてるっけ?

(言いながら、Cにシャベルを返す)

C:ほら、私って着痩せするタイプだからさ

A:それ意味合ってるの?

B:......あれ?

A:ん?どうした?

B:それってさ、そもそもシャベルなの?スコップじゃないの?

A:いや、この大きさならシャベルだろ

B:いやいや、シャベルってもっと小っちゃいやつだろ?

A:え、どっちなの?これ

C:これは、シャベルでもあり、同時にスコップでもあるんだよ

B:......どういうこと?

C:はいこっちちゅうもーく

(C、下手奥のパネルを黒板、シャベルを指示棒に見立てて、先生みたいに説明を始める)

C:はい実は、シャベルもスコップも、これどっちも同じものを指しているんですねぇ。ただまぁ、日本国内では地域的な差がございまして、例えば東日本では片手で使える小さいタイプが「シャベル」で、大きいタイプは「スコップ」と呼ぶことが多いんですねぇ

B:さすが会長、賢いな

C:ところがどすこい

A:おっと重量級

C:西日本の地域では反対に、小さいタイプを「スコップ」、で、これみたいな大きいタイプを「シャベル」って呼ぶんですねぇ

A:よく知ってるな。じゃあ、このシャベル使って......

C:ちなみにJIS規格に基づくと......

A:もういいよ!

(C、段上げおりる)
雑談BG FO

B:なんか、そうやってずっと雑談してる感じ、足立先生みたいだよね

A:あー

C:足立先生?

A:ほら、いたじゃん。授業中の話とかめちゃくちゃ長い先生

C:いたっけ

B:いたよ!特に会長(C)はさ、生徒会長だったせいで休み時間にもやたらと絡まれてたし、可哀想だったわ

C:あー、はは......

(足立先生下手奥イリ)
足立:おやおや、そこに見えるは2023年度卒業生仲良し3人組!!生徒会長とその取り巻き!!

A:あ、そういう風に見てたんだ

足立BG FI

B:あ!足立先生!まだいたんすね

足立:悪かったな、まだいて。いやー私もできることならこんな田舎の学校さっさと抜け出してさ、もっと都会の学校行きたいんだけどねー。いや、そもそもここって田舎なのか?ゆーて人はいるし店はあるし、いやまぁ虫もいるし夜は暗いけどさ。そもそも田舎と都会ってどこで区別してんだろうな

A:相変わらずうるさいな

足立:ところで、こんなとこで何してんの?

B:あ、あのー、あれっす。タイムカプセル掘りにきたんすよ

足立:早いだろ

A:ですよね

足立:しかも、対タイムカプセルにしてはそのシャベルデカすぎないか?もっとちっちゃいスコップとかでいいだろ

B:あ!西日本側の人間!

足立:なんの話だ?

A:あー気にしないでください

足立:大体タイムカプセルなんてどこに埋めたんだ

B:いや、それはその、この木の下ですよ

(B、奥ハケ口の方へ行く)

C:ちげぇよ!!!(爆発力)

(C、シャベルの先を地面に突きつける)

足立BG CO

C:あっちの木の下だろ!?

(C、上手のツラハケ口付近を指差す)

足立:お!生徒会長流石の威厳だなぁ

C:もう私生徒会長じゃないんですけどね

足立:なぁに言ってんだよ!少なくとも私の中ではずっと生徒会長だぞ?スピーチも上手いし仕事も早いし、それでいて気配りもできるしな。職員室の中でもな、みんな生徒会長はすごいって話ばっかりしててよぉ。君を超える生徒会長なんてもう出てこないだろうなって言われてるよ

A:また絡まれてる......

B:可哀想に......

足立:ま、生徒会長がいるなら、別に問題ないか。20時には門閉めちゃうからな?それまでにでてけよ〜

(足立ハケ)

B:行っちゃった

A:まぁ、なんか会長のおかげで許可もらえたしいいんじゃない?

B:そうか。じゃあ改めまして、怖い話でもしよう!......誰からだったっけ?

A:だから、さっき最小限のグータッチして、お前が勝ったから、俺からだよ

B:......何言ってんの?

(A、Cが持っているシャベルを奪い取りBに襲い掛かろうとする)

A:お前このやろう!!

(B、逃げる。A、追いかける)

B:ぎゃー待って!ストップ!ちょっと会長!!暴力はダメだよね!?

C:時と場合によるね

B:よらねぇだろ!ちょ、とりあえず一旦こいつ止めて!!

(C、Aの肩なり腕なりを掴む。Aはものすごい力で掴まれたような感じで、動きを止められ、倒れる)

B:めちゃくちゃ力強ぇじゃん......

C:言ったでしょ、着痩せするタイプって

(C、言いながらAが持つシャベルを取り返す。)
(C、シャベルで片目を隠す)

C:視力検査

B:え?

C:はい

(C、シャベルをBに差し出す)

B:え???

(B、困惑しながらも、シャベルを跨ぐように持つ。浮いているような仕草)

B:魔女の料理人

C:からの?

B:からの!?

(B、歌いながら、クロマグロをシャベルでさばく)

B:く、ク〜ロマ〜グロ開い〜て〜

C:お、ちゃんと料理してる

B:真っ赤〜な血飛沫〜と〜 生臭さに〜包ま〜れ〜たな〜ら

(ここら辺でシャベルは手放し、箱に置いておく)

C:最悪なエンドロールだな

B:きっと〜 手に〜つく〜 全てのものは〜 メッセージ

C:それってダイイングメッセージってこと?

B:しらねぇよ!!なんの時間だったんだよ今の!!

(A、この間にゆっくり起き上がっている)

A:はぁ......はぁ......

B:お、落ち着いた?

T婆BG FI

A:これは......はぁ......俺が......高校2年だったときの......話なんだけど......

B:あ、怖い話始まってるの?これ

A:掃除の、おばちゃんっていたじゃん

C:いたっけ

B:あーあの、校舎の中も外も全部T字の箒で掃いてたおばちゃんね

A:そうそう。それでついたあだ名が

A・B:T婆(ティーバー)!

C:見逃し配信かよ

A:で、ある日友達と「好きな人いる?」って話をしてたときにさ、友達のうちの1人が、「俺はT婆だな」って言い出したんだよ

B:それはねぇよな

C:おばさんだもんね

(掃除のおばちゃん、こっそりイリ。Tぼうきを杖のように持っている)

A:そう。でもうみんなで「T婆はねぇわー」みたいな話をしてたその瞬間。後ろから声が聞こえてきたんだよ

T婆BG CO

おばちゃん:......私が、なんだって?

B:こわぁ
C:うわぁ、それは怖いね

(B、怖がるついでに後ろを見ると、T婆がいることに気づく。なんとかして2人に伝えようとする)

A:怖いでしょ?背後にいるってのも怖いし、話を聞いてたってのも怖いけど、なによりこっそり呼んでたあだ名を本人が知ってたってことが怖いよね。もういつから!?みたいな

C:自分たちが話してることって、結構いろんな人の耳に届いてて、覚えられてたりするんだよね

A:あー怖いわぁ

B:ちょい、ちょい

C:何、今いいところなのに

B:いる、いるって

A:いる?

(ABC、3人でゆっくりと後ろを見て、T婆を視界に入れる。ゆっくりと元に戻る)

A:いたね

C:どうする?

B:僕たちは、何も見ていない。いいね?

A、C:うん

おばちゃん:3人まとめて、掃除用具入れに閉じ込めてあげようか?

B:あ、無理だわこれ

A:死んだな

C:いや、まだ死ぬかはわからん。掃除用具入れに閉じ込められるだけだから

A:いや掃除用具入れに3人詰め込まれたら、死ぬのもどのみち時間の問題だろ

(T婆、ゆっくりとハケ)

T婆BG FI

B:でも掃除用具入れの広さによるか

C:確かに掃除用具入れも大小さまざまだからね

A:いやなんで掃除用具入れに詰め込まれる前提で話してんだ。争(あらが)おうぜもっと

B:武器はあるか?

C:シャベルならあそこに

B:だめだ、あんなシャベルじゃ。リーチが短すぎる。相手はTぼうきだぞ

A:暴力とかじゃなくて、もっと平和的にいこうよ

B:さっきシャベル振り回してた奴が何言ってんだよ!

A:それだシャベルだ!よし会長、今から落とし穴掘ろう!

C:私そういうの得意だよ

B:バカお前落とし穴にお年寄り落としたらあぶねぇだろ!

A:行け会長!T婆にバレずに穴を掘るんだ!!

C:やるか......

(C、シャベルを取りに行き、下奥ハケ手前で穴を掘り始める)

B:いや、大体目の前で掘ってる穴に落ちる人とかいないから!って、あれ?

(AとBは、上ツラハケに背を向ける感じで、Cのいる方向をきょろきょろ)

A:T婆は?

(T婆、上ツラハケ、AとBの背後から出てくる)

T婆BG CO

おばちゃん:呼んだかい?

A、B:だああああああ!!

(C、ここら辺で上奥にハケる)

A:いやあのすみませんでした!あの、ほんとに俺たちただ過去の思い出を話してただけで、全然そんな悪意とか何もなくて!!

おばちゃん:あぁ、大丈夫だよ。分かっとる。掃除用具入れに閉じ込めることもせん

A:……ありがとうございます

おばちゃん:あのー、よくできた生徒会長の子を閉じ込めちゃうのも、気が引けるからねぇ

B:めちゃくちゃ人気じゃん会長!ってあれ?

A:会長は?

おばちゃん:あの子は毎日花壇に水をあげてくれていたし、今でも、たまにここへ来て、雑草をとってくれているのよ

B:あ、そうなんですか?

おばちゃん:今日は、あんたら2人もあの子の手伝いで来たんだろ?

B:え?

A:あー!そ、そうなんですよー。草むしりの手伝いをねー!ねぇ?

B:あ、そうそう!そうなんですよー!だから別にこれは不法侵入でもなんでもないんですよー!

おばちゃん:ありがとねぇ。じゃあ、そんなあんたらには、これをあげようかねぇ

(おばちゃん、TぼうきをAに渡す)

A:え、いいんですか?

おばちゃん:いいんじゃよぉ。じゃあ、よろしくねぇ

(おばちゃん、ハケはじめる)

おばちゃん:あぁそれと、もう二度と余計なことは言わないように。もう見逃し配信はしないよぉ

 (おばちゃんハケ)

C:あの人あんなに怖かったっけ?

A:あ、会長。ねぇどうしよう、余計なものもらっちゃったよ。これでどうやって雑草抜けっていうんだよ……

B:......ねぇ(神妙な面持ち)

A:ん?どうしたの?

B:閉じ込められるならさ、掃除用具入れよりも、体育倉庫の方がよくない?

A:......なんの話だよ!!

B:だってさ!体育倉庫に好きな人と閉じ込められるとか、ラブコメの王道じゃん!

A:まぁ、そうかもしれないけどさ

C:でも、この学校の体育倉庫、間取り図が変なんだよ

B:え、どこが変なの?

A:体育倉庫に間取り図もクソも無いだろ!!

C:窓が無くてさ

A:別に変じゃないよ!体育倉庫に窓なくても!

B:じゃあ、一応知り合いの設計士に見てもらうか

A:いねぇだろ!設計士の知り合いなんか!

C:しかも、ここからは私の推理なんだけど、この部屋にはおそらく

A:倉庫のこと「部屋」って呼ぶなよ!?

C:クソデカいシャベルが住んでいる

A:それは別にいいだろ!!

B:それは別にいいか。じゃあ、正解は体育倉庫ってことでいいね?

A:待って正解って何?

C:「た」で始まる、閉じ込められたい場所。正解は、体育倉庫

A:勝手に朝までそれ正解しないで??

B:じゃあ冗談はさておき、次は僕が怖い話をする番ね

A:あぁ、そういえばそんなことしてたね

C:そのために来たんじゃん

不穏BG FI

B:あれは、今からだいたい5分前のこと......

A:......さっきじゃん!

B:足立先生と話してた時のことなんだけどさ。僕が、あっち(奥側)の木の下を掘ろうとしたとき、会長がめちゃくちゃでかい声出したじゃん

A:うん

B:あれさ......怖かったねぇ

不穏BG FO

A:......終わりかい!!

B:うん

A:ええなんかもっとこうさ、あの木の下に実は何か隠してて、みたいな話かと思ったわ!!

B:いやいや、あの会長に限ってまさか

C:もうやめない!?......この話

B:......なんか、今日の会長変だよ

A:もしかして、ほんとに何か隠してる......?

C:......

B:そんなさ、今更、俺らに隠し事なんてするなよ!ねぇ!

A:そ、そうだよ!水臭いなー!

C:じゃあ!

(C、シャベルを無言でBに手渡す)

C:......私の、怖い話でも聞いてくれる?

(B、Cの話を聞いている途中で、L字付近を掘りに行く)

C:私のことを知らない人は、この学校にはいなかった。ある人は、生徒会長の私を褒めて、ある人は、勉強ができる私を褒めて、また別のある人は、運動のできる私を褒めた

A:......え、何これ自慢話?

C:テニス部の後輩も、例外じゃなかった。

(後輩ちゃん下ツライリ 後輩ちゃんは、髪に大きめの赤いリボンをつけている)
(後輩の立つ場所サス追加でCI)

C:周りの人はみんな、テニスが強い私を慕ってくれた。特に後輩は、いつも私のところに来てくれた

後輩:せぇ〜んぱい!

(Bが土を掘る動作に合わせて、土を掘るSE)

C:初めこそ愛おしかった。でも時が経つにつれ、人が増えるにつれ、そういう関係がめんどくさくなってきた

後輩:せぇ〜んぱい!

(Bが土を掘る動作に合わせて、土を掘るSE)

C:ある夏の日のこと。その日はテニス部の大会だった

後輩:先輩遅いね〜

(Bが土を掘る動作に合わせて、土を掘るSE)

C:私はその日、人生で初めて寝坊した。特別理由なんてなかった。遅刻なんて、人間生きてりゃ誰でもするもんだよでも!当時の私には、それが許されていなかった

後輩:もう先輩の試合始まっちゃうよ〜

(Bが土を掘る動作に合わせて、土を掘るSE)

C:結局試合には間に合わず、私は戦わないまま負けたことになった。走ってきたのに間に合わなかった私を見て、後輩は、こう言ったんだ

後輩:せぇ〜んぱい!ふせぇ〜んぱい!(不戦敗)

(Bが土を掘る動作に合わせて、土を掘るSE)

C:その日から、(ここからとても早口)テニス部の人は私の顔を見るたびに試合に遅刻した人だぁーと言わんばかりの顔を見せるようになったいやテニス部の人だけじゃない私の不戦敗はどんどんどんどん人伝てにどんどんどんどん拡がっていって私のクラスいや私の学年いや私の学校そう学校の人みんなが知っている揺るがぬ事実になってしまったちょっと待てだっておかしいじゃないか毎日のように遅刻している人はときたまちゃんと時間通りに来るだけで褒められているのになんでいつも褒められている私は一回遅刻しただけで大切な試合に遅刻する阿呆というレッテルを貼られなければならないのだおかしいおかしいのだけれど周りが私を見る目はどんどんどんどん冷えていって私という存在もどんどんどんどんみじめになってこんなのもう嫌だ嫌だ嫌だってなった。......私のことを知らない人は、この学校にはいなかった。だから

(Bが土を掘る動作に合わせて、ぐちょとぐちゃの中間みたいなSE)
(後輩ちゃんを照らす照明がCO 後輩ちゃんはハケ)

C:私を知っている人を、消していこうと思った

不穏BG FI
(B、シャベルで腕を掘り出す。腕はヘリにのる。シャベルを段下へ投げ捨て、大きく後退り)

(C、すっと立ち上がる。シャベルを手に取り、AとBに躙り寄る。三歩歩いたところで立ち止まり、くるっと回る)
(全体地明かりとパネル、元に戻る  BGもCO)

C:なーんてね!あははははは

A:......え?

C:いや、今日怖い話するって聞いてたから、ちょっとだけ仕込んじゃったの

A:いやいやいやいや、この腕は!?

C:それはほら、「レプリカ」だよ

使用曲:レプリカ / 騒音のない世界
全体地明かり、フェードアウトしてそのまま暗転すると見せかける

B:な、なぁんだ......

C:どう?怖かった?

A:うん......

C:ほんと?良かった!

B:会長、そういう才能あるんじゃないn……

C:でもさ

音CO

(腕がヘリから落ちて、ドンという音がする)

C:人が生きてるか死んでるかってさ、実は結構曖昧だと思うんだよね

(足立先生の声は、幕裏から聞こえてくる。舞台上に存在は見えないが、AとBには見えている体)

足立:おぉ、お前らまだいたのか

B:あ、足立先生

足立:あ、そうだお前!思い出した!俺さ、お前が部活でよくやってたあれ実は好きだったんだよ!

B:あれ?

足立:あの、じゃんけんみたいなやつ!俺にもやってよ

B:あー!いいですよもちろん!

足立:よっしゃ!じゃあ、頼むぜ

B:行きますよー?さいっしょーげんのグータッチ......

(グータッチの直前、Cがシャベルを高くあげて振り下ろす。目の前にいたはずの足立はいなくなり、Bは手応えがなくスルッと抜ける)

B:あれ?

C:他人っていうのは、いると思っているからいるだけで、本当はもういないのかもしれない

(おばちゃんの声は、幕裏から聞こえてくる。舞台上に存在は見えないが、AとBには見えている体)

おばちゃん:どうだい、草むしりは順調かい?

A:あ、T……、掃除のおばちゃん!あの、これ(Tぼうき)草むしりには使わないんで返しますね。大事な箒なんでしょ?

(手渡す直前、Cがシャベルを高くあげて振り下ろす。目の前にいたはずのおばちゃんはいなくなり、Aは渡したはずの箒が力なく地面に倒れていくのを見て唖然とする)

A:え?

C:他人っていうのは、いると思っているからいるだけで、本当はもういないのかもしれない

B:どういうことだよ

C:あの2人のことも、君たちが勝手に生かしてるだけかもしれないってことだよ。それぐらい、私たちの存在と意義って、曖昧なんだ

B:......い、いやー会長頭良すぎるから、話全然わかんないやー

C:結局!!私たちは意識の上で生きてるの。毎日毎日誰かが誰かを勝手に生かして殺してる。それだけのことなの。だから私も勝手に自分じゃない誰かをあの木の下(下手側)に閉じ込めてるってだけだよ。アイツらの意識から私を消してるってだけだよ。

A:......なんで、そんなことするの

C:なんで?だって、みんな私のこと知ってるんだもん。みんな私のこと知ってて、みんなが勝手に私の人格とか存在意義とかを決めちゃうんだもん。勝手に私のこと考えて、勝手に私を生かしてるんだもん。やだよ。もっと忘れて欲しいのにさ。こんな特別でもなんでもない、普通の私のことなんて。ねぇ、こんなこと願ってもいいでしょ?

A:......いや、俺まだその善悪がつくほど大人じゃないけど

C:で、君たちも今、私のことを普通じゃないって思ったでしょ?だから、忘れて欲しいんだよね

B:......

C:......体育倉庫で良かったんだよね?閉じ込められたい場所。

(AとB、この世で一番絶望している顔)

タイトルコール
使用曲:クラスで一番人気のあの子は校舎の裏で人を殺した / 笹川真生