【掌編】 とりあえず邪魔

 害虫や害鳥の駆除で有名なとある会社に、観光地としても有名な市の市長から直々に電話がかかってきた。

「ここ最近、上空を大量の鳥が飛んでいて非常に迷惑しているんです。なんとか追い払ってもらえませんかね?」
「なるほど。迷惑というのは、フンや鳴き声による害が大きいんでしょうか?」
「いや、フンの被害はほとんど報告が無いし、鳴き声なんて、夕暮れ時には寧ろ趣がある程度なんです。ただ、とりあえず邪魔なんですよ」
「邪魔、ですか……」
「ほら、うちの市は美しい街並みとかが評価を得ているわけで、観光客とかも割といるんですよ。そんな景色の中に、ありえんほどの数の鳥たちがやってくるのが、とりあえず邪魔なんですよ。そりゃまぁ、1,2羽くらいならいいんですよ?でも、多すぎるのは流石に……」

 そういうわけで、電話の数日後には、その市にいくつかの巨大な装置が付けられた。そこからは鳥が苦手とする一方、人間にはあまり害とならないような音波が出されていた。たしかに、設置してから数週間のうちは効果があった。ところが、1ヶ月もすれば、何羽かの鳥がだんだんその音に慣れ始め、気がつけばまた数えられないほどの鳥が上空に現れた。

「あのスピーカーみたいなの、全然効果ないじゃないですか!」
「いや、まぁたしかに一時的なものにはなりますので……」
「一時的じゃ困ります!うちには年中観光客が来るんです!収入が減ってしまったらどう責任とってくれるんですか!」

 市長がそう怒るので、今度は上空に数台のドローンを飛ばした。これらのドローンは、人間が操作せずとも自動で動き回ってくれ、鳥をビビらせる効果がある。たしかに、1ヶ月くらいは効果があった。しかし、鳥もそれなりに賢く、飛び回る物が無害であると気が付いてからは、そのドローンと一緒に飛び回るようになった。

「あの!また鳥が飛んできましたよ!?そろそろいい加減にしてくれませんか!?」
「そうは言っても、人も鳥も結構多いので、あまり大胆な真似はできないんですよ……」
「うるさい!鳥さえ追い払えればなんでもいいんです!」

 市長がそう騒ぎ立てるので、見兼ねた会社はとうとう、その街に1人のハンターを派遣した。定期的に飛んでいる鳥を撃ち落とすことで、見せしめにしてやろう、という単純な作戦だ。これには流石に鳥たちも耐えられず、少しした時には、鳥の姿はほとんど見えなくなっていた。

「いやー、本当にありがとうございます!お陰でほら、鳥の姿が見えないですよ!」
「それは良かったです。ただ、鳥がいなくなったとて、今の状態を保っておかないと、また鳥がやってくるかと思われます」
「それは分かってますよ。これからもよろしくお願いします!」

 巨大なスピーカーと、数台のドローン。あるときふと、ハンターによる銃の音が鳴り響く。鳥と共に観光客も、綺麗さっぱり居なくなってしまった。