【掌編】産みくじ

 現在駅前のデパートでは、年末恒例の大くじ引き大会が行われている。この大会では一度に2回のくじを引く。そのくじによって『何に生まれ変わるか』と『どうして生まれ変わるか』が決められることとなる。つまり、自身の生まれ変わり方を決めるくじである。ちなみに、なぜこの時期にくじを引くのかというと、人間界では年末、特に12月の25日あたりで出産の手続きが始まることが多いかららしい。

 長い長い列に並び、かれこれ一時間ほど経ったとき、ようやく自分の番が来た。目の前の画面をタッチすると、簡単なアニメーションが流れたのちに、画面いっぱいに『人間』と表示された。
「おめでとうございま〜す!人間出ました〜!」
 耳障りな鐘の音が頭を刺激した。後ろに並ぶ人の視線が痛かった。『人間』は、3.8%の確率でしか出ない、割とレアな生物なのだ。
「は〜いじゃあ人間の方はこちらへどうぞ〜」
 促されるまま進むと、再び画面があった。アニメーションの後に表示されたのは『産まれるため』という文字だった。
「ふはっwww」
 係員が吹き出したのを、私は聞き逃さなかった。顔をジロリと見ると、係員は慌てた様子で口を覆った。
「『産まれるため』って、どういうことですか?」
 堪らず尋ねてみると、係員は肩を小刻みに振るわせながら説明を始めた。
「これはね、あのー、まぁその名の通り産まれるために産まれるっていうことですよ。だからまぁ、子供欲しいねーとか、子供産みたいねーとか言って、産んでみるけど、なんか思ってたのと違ったからって理由で、放置したり殺したりする人間の元に産まれるってことですね。ふはっ。いやー、まだこんな人間居たんですね。あはは」
 何かの糸が切れたかのように笑い続ける係員。何が可笑しいのか、わたしにはさっぱり分からない。
「いやー、ほんとに。馬鹿な人間もいるもんですね。ははは。子供は『欲しい』とか『産みたい』とかじゃなくて、『育てたい』ですよね、普通。あー変なの。ま、生きて3年くらいだと思いますけど、それなりに生きてきてくださいね。あはっ」
 そう言って送り出された。背中越しに、まだ笑っている係員の声が聞こえる。
 「食べられるために産まれる豚の方がまだマシですよね。産まれるために産まれるだなんて、2人の一瞬を満たす娯楽にすぎないみたいな?ふふっ。ふははははっ」