【無秩序文】『よく言えば道化師、悪く言えば道化師』

○忌憚なき奇譚
一つ、昔話をしよう。
あれは、まだ貨幣が作られておらず、人がお金に頓着していない時代のことである。
とある集落には、こんな伝説が噂されていた。
『数十年に一度、月から何者かが舞い降りてきて、地上の人々に「私はだ〜れだ」と問いかけるそうだ。そしてその正体を見事言い当てた者は、生涯幸せに暮らせるという』
まぁ噂話だから仕方のないことかもしれないが、例えこれが本当の話だとしても、不明瞭な点が多すぎる。『数十年』とか『何者か』とか『幸せ』とか。実態の掴めない言葉を多用しているあたりが、どうにも胡散臭い。
そんなわけで、集落のみんなはその噂話を酒の肴にも肉にもしたのだが、信じていたわけではなかった。ある満月の晩、そんな集落が光に包まれた。まるで巨大なスポットライトが当てられたように。今であればUFOの存在を疑うが、当時の人々は、UFOはおろかカップヌードルも知らないのだから、人々はその理解不能なほど美しく悍ましい光景を前に、ただ穴を掘ることぐらいしかできなかった。犬かよ。そんな光の中、その女は降り立った。ゆっくりと、ゆっくりと、水中を沈む鉄製の小球よりもはるかにゆっくりと降りてくる。地上に足をつけたその女は、間髪入れずにこう言い放つ。
「私は月の妖精。たった今、月からこの惑星(ほし)へやってきた」
当時の人々がこの日本語を実際に理解できるのかどうかは分からないが、そこはまぁ、これも伝承されてきた話だし、ね、現代のわたしたちに配慮されてるんだなと思ってくださいよ。さて、集落にいる誰よりも肌が白いその妖精を前にして、声を上げる者は誰一人として居なかった。妖精は続ける。
「もし、私の質問に答えることができる人がいたら、私はその人に毎晩月から祈りを捧げ、生涯幸せに暮らせるようにしましょう。それでは問題。私はだ〜れだ」
散々馬鹿にしてきた噂話と同じ事が、目の前で起こっている。集落の人々は我こそはと正体を当てようとした。『うさぎ!』『かに!』『女神!』『卑弥呼様!』『いぬ!』当てることができる者はいない。その時、1人の男が住居から外へ顔を出す。
「うわっ眩しいな。なんの騒ぎだ…」
その声はまさに、この集落で1番の賢さを誇る、慈井尼 明日くんのものであった。
「おい!じいにあす!お前かしこいんだからさ!こいつの正体わかるよな!!」
大きな声で響く男の声に、明日くんは答える。
「え、月の妖精でしょ?一番初めに名乗ってたじゃん」
明日くんはその後、低脳な集落の人々を今まで以上に馬鹿にしながら、幸せに暮らしましたとさ。


○道にて化けたる師
道化かどうかあやふやな動作
銀貨か金貨求めているのか?
Q&Aに答える訳なく
URL晒しベルの音を待つ
愛こそが真価なんて邪心か
ないものねだってばっかは罪か
そりゃまぁ決して良くはないだろうが
消してなんてのは安易すぎるや
軒並みしきたり置き去り小刻みに
肩を震わせびびる夏の宵
気狂い場違い間違い行き違い
快楽の海、意味もなく沈み
溺れてなお惚れ手慣れた偶像崇拝
即少数派と詳細無くまた賞賛無く
ただ図体だけがしぼんでいく


○無題
『道化師』って、なんかいい。響きがいい。誰かのためにおどけているような感じがして、かっこいい。それでもやっぱり、誰かのためだと思っていた踊りが、誰かにとっては目障りな訳で。「あいつマジ嫌なんだけどー」って言わせてしまうのも、それはそれで道化師の役割なような気がして。
意味のある嘘と、意味のない本当について。