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【勉強会レポート 7】実践します!褥瘡ケア「いつもの方法を見直してみよう」

テーマ:実践します!褥瘡ケア 〜いつもの方法を見直してみよう〜
講師:エール在宅診療所 皮膚・排泄ケア認定看護師 石井佳子
開催日:2023年9月21日


そもそも褥瘡って何?

(2005年 日本褥瘡学会)

褥瘡の発生

床面からの圧迫力ずれ力が骨と床に挟まれた部分の組織に作用して虚血を起こし、壊死した状態が褥瘡です。


健康であれば動いて血流を改善できますが、自力で体位変換できなくなると褥瘡ができる危険性があります。もちろん早期に予防することが一番ですが、介護力や環境要因が大きく関わっているため防ぎきれないことも多く、

  1. いかに浅い段階で発見するか

  2. できてしまっても重症化しないようにする

ことが大事だと思っています。

これって褥瘡なの?

褥瘡と間違いやすい疾患に次のようなものがあります。

・末梢動脈疾患(PAD)
足の血管に起こった動脈硬化によって十分な血液が流れなくなることで発症し、悪化すると潰瘍ができたり壊死することもある

・殿裂粗造
高齢者の殿裂部に左右対称にみられるざらざら、ごわごわとした色素沈着を伴う皮膚の変化
被覆剤による密封処置や排泄物の汚染による湿潤、浸軟した皮膚に生じやすく、褥瘡の発生要因となるためスキンケアが重要

・静脈性潰瘍
下腿内側に多い病変で周辺皮膚に色素沈着を認め、肥厚、硬化する

・糖尿病性潰瘍
感染や糖尿病の合併症(神経障害・血行不良)などが原因で起こる潰瘍


・類天疱瘡
皮膚に対する自己抗体によって水ぶくれ(水疱)ができる

それぞれ病態や原因が異なるので、適切な治療を受けるために目の前の病変が本当に褥瘡なのか、褥瘡の治療を続けても良いのかをきちんと判断することが重要です。

どの時点で受診を薦めるか

〜状態別対処法と受診のタイミング〜

基本的に褥瘡が発生したらすべて医師に報告する必要がありますが、 
以下のどの過程に於いてもすぐに受診が必要な場合(創の感染がある場合等)もあるので、傷の状態を正確に医師に伝える記録が重要です。

1. 発赤

発赤が見られる場合、褥瘡の初期なのか一時的な発赤なのかを見極めることが必要です。

一時的な発赤(反応性充血) → 真皮深層の微小血管の拡張
持続的な発赤(褥瘡の初期) → 血管の破綻により赤血球が漏出している

ガイドラインではガラス板圧診法または指押し法を勧めています。

2. 水疱・表皮剥離

水疱、表皮剥離を起こしている場合は、滲出液の量や壊死組織の有無に着目しながら経過をみることが必要です。

3. 白い時

褥瘡の経過で傷が白くなっている時は、上皮化が進み肉芽が十分に形成されて創が縮小する時期と考えられます。
しかし「白色壊死」や「不良肉芽」の場合もあるので、肉芽が白い場合には治療方法を再検討しなければいけないので受診が必要です。

1)上皮化が進んでいる場合

傷が治ると白色に近づいてくる
瘢痕組織は脆弱で、傷の強度は1年経過しても80%程度しか回復しない

2)不良肉芽の場合

肉芽形成を阻害する要因を排除する

  • 滲出液を吸水する軟膏への変更

  • 殺菌剤軟膏の使用

  • 圧迫の除去

  • 栄養改善

4. 黒い時

黒い時は傷の状態により感染が疑われればすぐに受診・処置が必要です。

褥瘡の予防〜ポジショニングの基本

褥瘡を発生・悪化させることがないように、安全で安楽な体位や動きを管理することが必要です。

1. 体軸を整える

骨盤、腸骨棘を触って捻れていれば修正する
頭から骨盤の体軸をまっすぐにする

2. 重さの確認をする

介助グローブを体とマットの間にいれて重さを確認する

3. 支える場所を明確にする

関節可動部にはクッションをいれない

4. クッションに重さをかける

隙間を埋めただけでは意味がない
支える部位の重さをクッションにかける

創部の洗い方の演習

なかなか治らない傷

1)創面にぬめりがあり、滲出液が多い
2)浮腫性で脆弱な肉芽

なかなか治らない傷があり、上記の判断指標に当てはまる場合、

臨界的定着(Critical Colonization)が疑われます。

定着よりも細菌数が多くなり創感染に移行しそうな状態、あるいは炎症防御反応により創治癒が遅延した状態のことで、この状態を作り出しているのが「バイオフィルム」です。

バイオフィルムとは?

細菌や微生物が分泌する粘り気のある物質によって、抗菌剤や消毒剤から細菌が防御されている状態のことです。

そして、このバイオフィルムに介入する(除去する)ことが難治性創傷を克服するという衛生管理の概念を創傷衛生 (Wound Hygiene)と言い、以下の4つのステップを踏むことが推奨されています。

※ 今回の講習会ではこのWound Hygieneについて「洗浄」の実技を交えて解説しました。

Wound Hygieneの方法

1. 洗浄

たっぷりの泡で洗うが点状出血するほどしっかり洗う
目の粗いガーゼや口腔ケア用ブラシなどを利用

2. デブリードマン

はさみ、メス、目の粗いガーゼでこすり落とす

3. 創縁の新鮮化

バイオフィルムは創縁にたまりやすいので、創周囲の角質を取り除く

4. 創傷の被覆

カデキソマーヨウ素、ポピドンヨードシュガー、銀含有ハイドロファイバー(推奨度C)

床ずれ危険度チェック表

褥瘡を早期に予防するには、
とにかく「気付いてもらう」ことが重要です。

そのためには…

1)本人・家族・ヘルパーの協力を得る
利用者本人・家族にも褥瘡を普及させたり、ヘルパーへの教育を行い、看護師だけでは防げない部分をフォロー(協力)してもらう

2)床ずれ危険度チェック表の活用
ケアマネージャーを対象とした「リスクアセスメントスケール」として開発された「床ずれ危険度チェック表」を利用し、いつ、誰がリスクアセスメントを行うのかをケアプランに組み込む

これらの対策を取ることで、たとえ褥瘡ができても軽傷で発見することができるようになります。

おわりに

先日、褥瘡学会でこんな話を耳にしました。

3度以上の深い褥瘡で診察を受けにきた方がいたので、家族にわかるように画像を見せたところ「床ずれって聞いてたので皮膚がすれてむけたくらいかと思っていました」と、とてもびっくりされていたそうです。

それを聞いた医師が、一般の人は褥瘡についてあまりよく知らないということを改めて思い知ったということでした。
そして、もっと一般の人にも褥瘡について知ってもらう必要があると思ったそうです。

そもそも「褥瘡」という漢字が難しく普通読めないので、平仮名で「じょくそう」にしようか、平仮名だけではわかりづらいから「じょく創」にしようかという議論があり、現在検討中とのことです。

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