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『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社、聞き手:水内茂幸、豊田真由美)序章 政治不信にどう向き合うか

一片冰心 谷垣禎一回顧録 | 谷垣 禎一, 水内 茂幸, 豊田 真由美 |本 | 通販 | Amazon

 一気に読んだ。
 貪るように、という言葉がぴったりなくらい。

 ブックレビューを書き始めるにあたり、最初に取り上げるのはこの本だと決めていた。
 だが、読み返すと、取り上げたいことがあまりに多すぎたので、やむなく、章別にレビューを書き進めていくことにした。

 この本は、2022年4月に産経新聞朝刊で連載された谷垣氏のインタビュー「話の肖像画」を大幅に加筆したものである。
 さらに、書き下ろしとして、清話会をはじめとする自民党の派閥の政治資金不記載問題に関する思いや、派閥解体の動き、現下の自民党へのメッセージ、ロシアのウクライナ侵略を中心とした直近の国際情勢などをテーマに、改めて行ったインタビューを追加している。

 今回取り上げる部分は、この、書き下ろし部分に当たる。

 ぺーじをひらくと、のっけからこの言葉が目に飛び込んでくる。

『野党時代を思い出せ』

 ここで気づかされる。
 ああ、自民党が野党だった時代から、10年以上も経っているのだな、と。

 下野時代にやった議論も、忘れられつつある感じがします。政権奪還から十二年もたつと、気が緩んでくるのでしょう。『選挙に負けて政権を失うかもしれない」という緊張感があれば引き締まるのでしょうが、野党もぴしっとしない。そういう中では、自民党におごりも生じやすい。気を付けなければならない時期だと思います。

『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社)16ページ


 野党時代のふるさと対話のように、有権者の中にもう一回、徹底的に入って行って、少人数で議論をしてみてはどうかと思っていました。有権者を大勢集めて大演説を打つ(ぶつ)のではなくね。有権者と話すこと自体、政治家の通常の仕事の一つですから、これまでやってこなかったとは思いませんが、もう一度初心に帰って謙虚に取り組んでみるといいのではないでしょうか。

『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社)16ページから17ページ

 谷垣さんの言葉が、いちいち重い……。

 いや、岸田総理はやってますよ岸田総理はね! 視察に行くと大体少人数で車座で話を聞く会らしきものがついてくる。
 でも、確かに、自民党のほかの組織がそこまでやってるかって言うと……確かにちょっと思い出せないんですよねえ……。どなたかご存知の方いらっしゃいますか?

 そして、派閥解消について。

 派閥解消については、自民党が二〇一二年に政権復帰したときにも、ある程度遠慮しようという動きが党内にありました。しかし、野党が分裂して「一強多弱」のような状態になり、自民党に緊張感を持たせるほどの対抗勢力は見当たらなくなってしまった。こうなったら、自民党の各派でそれぞれ領袖(りょうしゅう)を作って切磋琢磨(せっさたくま)させるより仕方がないと思いました。それから十数年たち、ちょっと姿勢が高くなり過ぎたということなのかもしれません。今度は政治資金の問題をきっかけに、やっぱり派閥はやめようということになったわけですね。
 派閥をなくすといっても、どういうふうにやるのかわからないけど、解体するというのであれば、従来の派閥が果たしてきた機能を他のどんな仕組みで働かせるのか、考えなければならないでしょう。党内にガバナンスを効かせる、若手議員を教育する、希望のポストに就けるよう働きかける……。次の総裁選で誰を推すかということも、必ず起きてきます。
 その新しい仕組みを、党がうまくつくれるのか。党所属国会議員が五十人くらいの政党ならともかく、自民党には衆参両院で四百人近い議員がいるわけですから、党だけで全員と意思疎通するのは大変ですよね。党の責任者は幹事長ですが、幹事長には他の仕事もあり、全部責任を持たせるというわけにもいかないだろうと思います。人事部門の責任者も肩の荷が相当重くなるでしょう。
 そう言ったことを考えると、従来の派閥に代わる新しい仕組みをつくるのは、そう簡単ではない。これは主として現役が考えることですがね。

『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社)19ページから20ページ

 ですよね……。
 確かに簡単なことじゃないのは、素人でもわかります……。

 そして、谷垣さんの派閥にまつわる昔話へ。

 私はもともと宏池会で育った人間ですから、宏池会の先輩にはいろいろと指導してもらいました。例えば、若手のころ、派の先輩だった加藤紘一元幹事長に教えられたことの一つは、自分よりも当選回数が一回多いぐらいの、見どころのある先輩の行動を注視することでした。加藤さんにとっては藤波孝生(たかお)元官房長官がそういう存在で、私にも「藤波さんがやっている勉強会には行っておけ」と言っていました。
「いいか、谷垣。首相になるような大先輩に憧れるのもいいが、自分より少し当選回数が上の、立派だなと尊敬できる先輩を探すことも大事だ。政界では海千山千が出会って厳しい事も起こる。さあ、どう行動しようかと迷ったときに、その少し上の先輩がどう行動するのか、よく見ておくんだ。そういうのはすごく役に立つんだぞ」

『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社)20ページから21ページ

 いい話だなー。(小並感)
 そっかー、加藤さんにとっては、藤波さんだったのかー。
 藤波さんって、リクルート事件の時につかまった人ってイメージしかなかったから、こういうエピソードが聞けるのは割とありがたい。

 そして、今回の政治資金問題についても。

 今回の派閥の政治資金の問題は、昔の金権政治のようなやり方がまだわれわれの頭の中に残っているという側面もあるのでしょう。そういうやり方から脱却するには、政治に必要な費用や設備などのインフラを、国がある程度整備していく必要があります。選挙に当選すれば、国会近くの議員会館に事務所を設けて、来客があればそこの応接室を使うことができるのも、一つのインフラですよね。政治家もある意味では、サラリーマン化してきているともいえます。

『一片冰心 谷垣禎一回顧録』(扶桑社)26ページ

 リーマン化する政治家……。(チベスナ顔)
 異論はないんだけど、ちょっと、複雑……。

 で、次回は第一章を取り上げます。
 次の週末には書き上げたいものですが……何しろこちらも思い入れが深い総裁時代の話なもので……どうなることか。

 それでは皆様、次回もよろしくお願いします。

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