兎鳩パセリ

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【短編小説】冷たい夜の流星

 冷たい風が肌を切るように撫でていく。  着古したジャージに防寒には少し物足りないコートを羽織って、クロックスに足を突っ込み家を飛び出ししてきた私は、早くも後悔していた。けど、家には帰れない。帰りたくない。  せめてダウンを着てくればよかったな。コートの襟を手繰り寄せながら息を吐く。白く曇った息が、濃藍の空に昇っていく。それを追いかけるように視線を上げた。 「あ」  一筋の光が、暗い空を走った。流れ星だ。  空を見上げたまま、足を止める。視界が曇らないように、息を潜

    • 【短編小説】牛飼の少年と熊の番人

       近づく気配に、熊はふいっと顔を向けた。  ガサガサと草の根を踏み分けながら姿を現したのは、案の定、人間だった。森で生きる熊に人間の年頃など分からないが、恐らく、まだ成熟する前の、未熟な人間だった。  人間は猿に似た長い手で、これまた長細い筒のようなものを構えている。人間に疎い熊も、それが何かはすぐに分かった。芯の臓を一瞬で潰してしまえる、恐ろしい武器だ。 『なにもしないから、それを下ろしてくれないか』  熊と人間の距離はそこそこ空いていたが、それでも熊の声は届いたら

      • 短編集①

        Twitterで載せた1ページ小説を、note用に書き直したものです。 時雨人-しぐれびと-  雨の匂いがして、喫茶店の大きな窓から外を見た。  少し前まで、あんなに晴れやかだった空に、灰色の雲がかかっている。心做しか店内の空気もじめっと重たくなったような気がした。  今朝の天気予報では雨が降るなんて言ってなかったから、普通にベランダに干してきてしまった。時計を見ると、針は十六時少し前を指している。今日のシフトは十八時。まだまだ終わらない。チクショウ、と私は心の中で悪

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