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「空き家」問題への対策の現状

総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」から引用します。

2023年の空き家数は900万2千戸と過去最多、空き家率も13.8%と過去最高となりました。
空き家数の推移をみると、これまで一貫して増加が続いており、1993年から2023年までの30年間で約2倍となっています。

(出所)総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」を加工

賃貸・売却用及び二次的住宅(別荘など)を除く空き家は385万6千戸と、2018年と比べ、36万9千戸増加しました。総住宅数に占める割合は5.9%となっており、この長期間居住せず使用目的もない空き家が問題視されています。

(出所)総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」を加工

 
空き家の問題点と、どのような対策がとられているのかについてお話しします。


1 空き家の問題点


国土交通省住宅局「令和元年空き家所有者実態調査 集計結果」によると、つぎのような結果が出ています。
 
(1)空き家の取得方法
①相続:54.6%
②新築・建て替え:18.8%
③中古の住宅を購入:14.0%
④新築の住宅を購入:5.3%
 
(2)空き家の管理上の課題(複数回答)
①課題はない:30.2%
②管理の作業が大変:29.8%
③住宅を利用する予定がないので管理しても無駄になる:26.0%
④管理費用の負担が重い:21.6%
 
(3)空き家の今後の利用意向
①空き家にしておく(物置を含む):28.0%
②セカンドハウスなどとして利用:18.1%
③売却:17.3%
④取り壊す:13.2%
 
(4)空き家の買い手・借り手の募集状況
①募集中:39.4%
②まだ何もしていない:38.2%
③募集の準備中:14.4%
④買い手・借り手が決定済み:6.9%
 
(5)空き家にしておく理由(複数回答)
①物置として必要:60.3%
②解体費用をかけたくない:46.9%
③さら地にしても使い道がない:36.7%
④好きなときに利用や処分ができなくなる:33.8%
 
空き家にはつぎのような問題点があります。
 
㋐景観や生活環境の悪化
空き家が放置されると、建物の劣化が進み、地域の景観や周辺住民の生活環境が悪化します。
 
㋑犯罪リスクの増加
空き家は不法侵入や放火などの犯罪の温床となりやすくなります。とくに夜間や人通りの少ない場所では、犯罪のリスクが高まります。
 
㋒衛生問題
放置された空き家は、害虫や害獣の発生源となります。そうなると周辺の衛生環境が悪化し、健康被害が発生する可能性があります。
 
㋓不動産価値の低下
空き家が増えると、その地域全体の不動産価値が下がることがあります。地域の魅力が低下し、住みたいと思う人が減るためです。
 
㋔事故・火災リスクの増加
老朽化した空き家は倒壊の危険があり、とくに地震や台風などの自然災害時には大きなリスクとなります。また、放置された空き家は火災の原因にもなりえます。

2 空き家の解体や取り壊し


利用しない空き家は解体や取り壊しをすればよいのですが、なかなか進まない要因があります。
 
(1)解体費用の高さ
空き家の解体には多額の費用がかかります。木造住宅の場合、たとえば30坪の住宅を解体する場合、90万円から150万円程度が相場です。鉄骨造やRC造の建物の場合はさらに高額になります。
 
(2)固定資産税の増加
空き家を解体すると、固定資産税の軽減措置がなくなり、税金が大幅に増加します。空き家が建っている土地は固定資産税が軽減される制度がありますが、解体して更地にするとこの軽減措置が適用されなくなります。
 
(3)再建築の制約
古い空き家を解体すると、再建築が認められない場合があります。たとえば、建築基準法上の接道義務を満たしていない土地では、新たに建物を建てることができません。
 
(4)思い出や感情的な理由
相続した空き家には思い出が詰まっていることが多く、解体することに心理的な抵抗を感じる人もいます。とくに、先祖代々の家であれば、解体をためらうことが多くなります。
 
(5)相続問題
相続人が複数いる場合、空き家の処分について意見がまとまらず、解体が進まないことがあります。とくに、相続登記がされていない場合や、共有物件として相続された場合はより処分が難しくなります。

3 空家対策措置法


増加する空き家問題に対応するために2015年に空家等対策の推進に関する特別措置法(空家対策措置法)が施行されました。
空き家の適切な管理を促進し、放置された空き家が地域の安全や景観に悪影響を与えることを防ぐことが目的です。
 
(1)おもな内容
 
①特定空家等の指定
管理が行き届かず、倒壊の恐れがある空き家や、衛生上有害な状態にある空き家を「特定空家等」として指定します。
 
②所有者への指導・命令
特定空家等に指定された場合、所有者に対して改善の指導や命令が行われます。命令に従わない場合、行政代執行により強制的に撤去されることもあります。
 
③固定資産税の優遇措置の廃止
特定空家等に指定されると、固定資産税の優遇措置が廃止され、税金が最大6倍になる可能性があります。
 
④市町村の役割
市町村は、空家等対策計画を策定し、地域内の空き家問題に対処するための具体的な施策を実施します。
 
(2)2023年12月13日施行の改正内容
 
①空家等活用促進区域の創設
市区町村が「空家等活用促進区域」を指定し、この区域内では空き家の活用を促進するための特例措置が適用されます。具体的には、接道規制や用途規制の緩和が行われ、空き家のリノベーションや用途変更が容易になります。
 
②官民連携の拡大
市区町村がNPO法人や社団法人などを「指定空家等管理活用支援法人」に指定し、これらの法人が空き家の管理や活用を支援します。所有者や利用希望者への情報提供や相談対応が強化されることにつながります。
 
③特定空家への早期介入制度の創設
特定空家とは、放置すると倒壊の危険があるなど、周囲に悪影響を及ぼす可能性が高い空き家を指します。改正法では、市区町村が特定空家に対して早期に介入し、管理や除却を行うための制度が整備されました。
 
④固定資産税の特例措置
法改正で新たに「管理不全空き家」が定義されました。1年以上誰も住んでおらず、管理が不十分で特定空き家に指定される恐れがあり、安全性や衛生面で問題があるといった空き家です。特定空き家に指定される前段階の状態と考えられ、自治体が早期に介入しやすくするための措置です。
管理不全空家や特定空家に対しては、固定資産税の軽減措置が解除され、税負担が増加します。所有者が空き家の適切な管理を行う動機付けが強化されることになります。
 
⑤相続空家の譲渡所得特別控除
相続した空き家を売却する際に、譲渡所得から3,000万円の特別控除が適用される制度が導入されました。相続空家の売却が促進されることにつながります。

4 空家再生等推進事業


空家再生等推進事業は、空き家や空き建築物の活用・除却により、地域の活性化や居住環境の改善を図るための国の補助事業です。
 
(1)活用事業タイプ
空き家や空き建築物を改修して、地域のニーズに応じた施設として活用することを目的としています。つぎのような用途に改修されます。
・宿泊施設
・交流施設
・体験学習施設
・創作活動施設
・文化施設
改修費用や所有者の特定にかかる経費が補助対象となります。国費負担割合は1/2で、地方公共団体が補助する場合は民間事業も補助対象となります。
 
(2)除却事業タイプ
老朽化した空き家や不良住宅を除却し、防災性や防犯性を向上させることを目的としています。除却後の跡地は、地域活性化のために計画的に利用されます。たとえば、ポケットパークの整備や狭隘道路の拡幅などが行われます。
国費負担割合は1/2で、対象地域は過疎地域や旧産炭地域など、人口減少が認められる市町村です。

5 空き家バンク


空き家バンクは、全国の市区町村が提供する、空き家や空き地のマッチングシステムです。空き家や空き地を売りたい・貸したい人と、それらを買いたい・借りたい人をつなぐことを目的としています。
 
(1)空き家バンクの仕組み
 
①登録
空き家や空き地の所有者が、市区町村の空き家バンクに物件情報を登録します。
 
②情報公開
市区町村は、登録された物件情報をウェブサイトやパンフレットで公開します。
 
③マッチング
空き家や空き地を探している人が、公開された情報をもとに物件を選び、所有者と連絡を取ります。
 
(2)メリットとデメリット
 
①所有者側
【メリット】
・無料で物件を登録できる
・市区町村が運営しているため、信頼性が高い
・補助金や助成金が提供される場合がある
【デメリット】
・宣伝が行われないため、マッチングまで時間がかかることがある
・修繕が必要な場合、自費で行う必要がある
 
②利用者側
【メリット】
・無料で物件情報を閲覧できる
・市区町村がサポートしているため、安心して利用できる
・通常の不動産市場では見つけにくい物件に出会える可能性がある。
【デメリット】
・物件情報の詳細を確認するために現地まで行く必要がある
・契約交渉は自分で行う必要がある

6 空き家を利活用する方法


空き家を利活用する具体的な方法としてつぎのようなものがあります。
 
(1)賃貸住宅として活用
空き家をリフォームして賃貸住宅として提供する方法です。
 
(2)シェアハウスやシェアオフィス
空き家をシェアハウスやシェアオフィスとして活用することで、若者やクリエイターの交流拠点などとして利用する方法です。
 
(3)商業施設として活用
空き家をカフェやレストラン、体験施設などの商業施設に改装する方法です。
 
(4)コミュニティスペースとして活用
空き家を地域のコミュニティスペースやイベントスペースとして提供することで、地域住民の交流の場として利用する方法です。
 
(5)宿泊施設として活用
空き家を民泊やゲストハウスとして活用する方法です。
 
(6)文化・芸術の拠点として活用
空き家をアーティストの制作スペースやギャラリーとして提供し、文化・芸術の発信拠点として利用する方法です。
 
(7)農業や自然体験施設として活用
空き家を農業体験施設や自然体験施設として活用する方法です。

7 空き家発生の予防対策


そもそも空き家を発生させないよう予防する方法としてつぎのようなものがあります。
 
(1)早期の相続対策
相続が発生する前に、家族で話し合いを行い、空き家になる可能性のある物件についての計画を立てることが重要です。
 
(2)賃貸や売却の促進
空き家になる前に、賃貸や売却を検討することが有効です。リフォームやリノベーションを行って物件の価値を高められれば、借り手や買い手を見つけやすくなります。
 
(3)定期的なメンテナンス
空き家になる前に、定期的なメンテナンスを行うことで、建物の劣化を防ぎ、将来的な活用がしやすくなります。
 

 
以上のように、空き家バンクや、国や自治体が提供する支援策や補助金、税制優遇措置など、空き家対策が充実してきています。
また、国土交通省は、空き家対策の推進に関する特設サイトを設け、空き家のリスクや管理方法について情報提供を行っています。

個別の具体的な対策は、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家へ相談することもおすすめです。

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