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融資審査における自己資金の重要性

2024年度から、日本政策金融公庫の無担保無保証の創業融資の条件として、自己資金要件が撤廃されました。従来、創業資金調達手段として自己資金の割合が10分の1以上必要だったものが、ゼロでもよくなったのです。

自己資金がゼロでも創業資金が簡単に借りられるようになったと誤解されている方が少なくないようですが、それは間違いです。

金融機関が自己資金をどれくらいもっているかを審査判断の重要ポイントにしていることに変わりはありません。それはこれから創業する方に限らず、すでに事業を営んでいる方や、事業融資以外の住宅ローンなどの審査においても同様です。

自己資金とはどういうものか、自己資金が重要視される理由は何かといったことについてお話しします。
 


1 自己資金とは


自己資金は、預貯金や株式などの所有資産のすべてを指すものではありません。そのうち、事業経営者なら事業のための資金、生活者なら生活のための資金に充てるものをいいます。

事業や生活のために自由に動かすことのできるお金が自己資金です。ですから、自分名義のものに限らず、家族名義でも事業や生活に充てられるのであれば自己資金となります。

2 自己資金として認められるもの


(1)認められる自己資金


自己資金として認められるための条件は、お金の出所が確認できることです。
貯めてきた過程を証明できるものである必要があります。
 
①預金通帳などに記録があるお金
定期預金、積立預金、保険積立、投資信託などです。毎月の給与が振込まれて残高が増えてきた普通預金でももちろんよいです。
通帳などに記録された、出所の確かなお金は自己資金として認められます。

審査時に通帳などの原本を確認されます。そして、計画的に準備していることが評価されるのです。
 
②返済義務のない贈与されたお金
親族や友人からの資金援助も自己資金として認められる場合があります。
ただし、お金を出してくれた親族などの収入や保有資産などを証明できるものの提示を求められ、根拠を確認されることがあります。

③退職金
退職金も自己資金として認められます。
 
④所有資産を売却した資金
有価証券や不動産などを売却して事業資金や頭金に充てる場合も自己資金として認められます。
 
⑤すでに支出して充当した資金
すでに設備投資などに資金を投じている場合、その金額を自己資金として認められることもあります。
 
⑥ビジネスパートナーとの共同出資
ビジネスパートナーと自己資金を出し合い、共同で事業を進める方法もあります。
ただし、出資者との契約や役割分担を明確にしておくことが大切です。

(2)認められない自己資金


①タンス預金
預金通帳に入れておらず手元に現金として保有しているお金は自己資金とはみなされません。
 
②見せ金
直前に大きな金額が振り込まれている場合、お金の流れが不明確とみなされることがあります。
どこかから一時的に借りてきたものではないかと疑われることになります。
 
③親族や友人などから借りて返済義務があるお金
返済が必要なお金は自己資金として認められません。

3 金融機関が自己資金を重要視する理由


金融機関は融資金がきちんと回収できないことをもっとも嫌います。
手元資金に余裕があれば返済してもらえる可能性が高いです。
一方、手元資金が少ないときちんと返済してもらえるか不安になります。

ですから、金融機関は自己資金をどのくらい保有しているのかを重要視するわけです。自己資金も融資審査の項目のひとつとなります。
 
自己資金は、経営面から見ても事業を安定的に運営するために欠かせない要素といえます。
自己資金は次のような目的を達成するために必要不可欠です。
自己資金だけでは不足する分を借入金などで補填するというのが本来の形なのです。
 
①初期投資
事業を始めるためには、設備投資や商品仕入などの初期投資が必要です。売上の入金より先行して投資しなければならないので、自己資金で賄います。
 
②信用力の向上
自己資金を充てることで、金融機関からの信用が高まり、融資を受けやすくなります。
 
③運転資金
事業を継続するためには、日常的な運転資金が必要です。仕入資金の支払、給与などの経費の支払などのために自己資金が活用されます。
 
④リスクヘッジ
不測の事態が発生したときに、自己資金を充てることで、外部からの融資に依存しない安定性を保つことができます。経営上のリスクに備えるためにも重要です。
 
自己資金がゼロまたは過少だと、金融機関は前向きな判断が難しくなるというのが実態です。
「お金の管理ができない人なのではないか」
「行き当たりばったりの起業ではないか」
「不測の事態が起きたときに対応できないのではないか」
などと思われてしまいます。

4 自己資金が少ないとまったく融資を受けられないか


融資を受ける際に、自己資金が少ないと審査判断上マイナス方向にはたらくことは事実です。
とはいえ、必ずしもダメというわけではありません。
 
審査は、ひとつの項目に問題があればただちにダメというわけではなく、さまざまな項目を総合的にみて判断されます。
自己資金が不足しても、経験や実績などが豊富とか、ほかの資金調達方法があるといったプラス材料を見てくれることもあります。

公庫の創業融資の自己資金要件がなくなったことは、事業継続できると総合的に判断できれば融資しましょうという趣旨です。
ほかにプラスになる強い要素があれば、自己資金がゼロだからと形式的に断ることはしないという意味です。
 
それでも自己資金は多いほうが有利で、少ないほど不利ということに変わりはありません。
目安として一般に次のようにいわれています。
創業融資を受ける際の自己資金の目安は、必要資金の2~3割程度です。
住宅ローンの頭金の目安は、物件価格の2割程度です。

5 自己資金を十分に確保するには


自己資金は一朝一夕に貯められるものではありません。
できるだけ早い時期から、計画性をもって、長い時間をかけて必要な資金を準備していく必要があります。
 
①計画的に貯蓄をする
コツコツと貯金をしていく方法がもっとも確実です。着実に目標金額を貯められる点やリスクを抱えない点がメリットです。
毎月少しずつでも資金を貯めていく習慣をつけましょう。
 
②副業をする
本業以外に副業を始めることで収入を増やす方法です。健康面に注意しながら無理のない範囲で取り組む必要があります。
 
③投資をする
株式や投資信託などで資金を増やす方法です。成功すれば短期間で自己資金を集められますが、リスクもあります。
投資方法やリスクヘッジを勉強し理解したうえで、決して無理をすることなく取り組みましょう。
 
④資産を売却する
不動産やマイカーなどの資産を売却して資金を得る方法です。短期間で資金を集められます。
ただし、担保として活用できることもあるので慎重な判断が必要です。
 
⑤負債を返済する
カードローンなど金利の高い借入金は、可能なら完済させると手元の資金の減少を防ぐことができます。その結果、自己資金の増加につながります。
 


自己資金をコツコツ貯めることの重要性と、金融機関が自己資金を重要視することを理解していただけたでしょうか。

具体的な自己資金の目安や、実際の金融機関の審査判断はケースバイケースです。
ご自身に合った方法を考えて、できるだけ多くの自己資金を確保するよう努めることが大事です。

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