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年金の繰上げ受給・繰下げ受給の選択のポイント

国民年金および厚生年金は、原則として65歳から老齢年金が支給されます。
申出により、支給開始時期を早めたり遅らせたりすることが可能です。
60歳から65歳の間に支給の繰上げを請求することで、減額された年金の受給ができます。
また、66歳から75歳までの希望する満年齢後の月単位で、支給の繰下げを申出ることで、増額した年金の受給ができます。


1 繰上げ受給者と繰下げ受給者の割合


実際、どれくらいの人々が繰上げまたは繰下げをしているのでしょうか。
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和4年度)のデータがあります。
繰上げ受給を選択した人は、国民年金(基礎年金のみの人)では25.7%、厚生年金では0.7%となっています。
一方、繰下げ受給を選択した人は、国民年金(基礎年金のみの人)では2.0%、厚生年金では1.3%となっています。
繰下げ受給を選択するとその分年金額が増えてお得なのですが、実際に選択する人はかなり少ないのが実状です。 

2 繰上げ受給のメリットとデメリット


(1)メリット


①早期に生活費を補てんできる
たとえば、60歳で退職した場合、65歳までの5年間の収入が減少するケースがあります。繰上げ受給を選択することで、生活費を補てんでき、安定した暮らしを送ることができます。

②健康なうちに受給できる
年齢を重ねると健康リスクが増えるため、早めに年金を受給することで、健康なうちに年金を活用することができます。たとえば、旅行や趣味など、元気なうちに楽しみたい活動に年金を充てられるのです。

(2)デメリット


①年金額が減額される
繰上げ受給を選択すると、1か月ごとに0.4%受給額が減額されます。
たとえば、65歳から受給する場合と比べて、60歳から受給する場合は最大で24%減額されます(0.4%×60か月)。
仮に65歳からの受給額が月額10万円の場合、60歳から受給する場合は月額76,000円になります。
なお、減額は生涯にわたります。

②寡婦年金の受給ができなくなる
繰上げ受給を選択すると、配偶者が亡くなった場合に受給できる寡婦年金を受け取れなくなります。

③障害基礎年金の受給ができなくなる
繰上げ受給を選択すると、障害を負った場合に受給できる障害基礎年金を受け取れなくなります。

④国民年金の任意加入ができなくなる
繰上げ受給後は、国民年金に任意加入することができなくなります。そうなると、保険料を追加して支払って年金受給額を増やすことができなくなります。

(3)判断のポイント


繰上げ受給を検討する際には、次の点を考慮し、自分にとって最適な選択をすることが大事です。

①現在の収入と支出を把握する
退職後の生活費がどれくらい不足するのか、支出を減らせるのか、不足分をどのように補えるかを考えます。

②健康状態を確認する
健康状態に不安がある場合は、早めに受給開始するメリットがあるでしょう。

③将来の必要金額を考える
長期的な視点で、今後、どのくらいの年金額が必要になるのかを考えることが重要です。減額により将来の生活が厳しくなるなら繰上げ受給はデメリットが大きくなります。

3 繰下げ受給のメリットとデメリット


(1)メリット


①年金額が増額される
繰下げ受給を選択すると、1か月ごとに0.7%受給額が増額されます。
たとえば、65歳から75歳までの10年間繰下げると、最大で84%増額されます(0.7%×120か月)。
仮に65歳から受給する場合の年金額が月額10万円の場合、75歳から受給する場合は月額184,000円になります。

②長生きリスクに対応することができる
長生きするほど、受給総額が増えるため、老後の生活資金をより安定させることができます。

③税金対策
受給開始を遅らせることで、現役時代の収入と重ならないことになるため、税金の負担を軽減できる場合があります。

(2)デメリット


①受給開始までの収入がなくなる
繰下げ受給を選択すると、その期間中は年金を受け取れなくなり、収入がない期間が生じます。

②加給年金が受給できなくなる
繰下げ受給を選択すると、加給年金を受け取る権利が失われます。加給年金とは、65歳到達時点で生計を維持されている、一定年齢以下の配偶者または子がいるときに加算されるものです。

③税金や社会保険料が増える
受給額が増えることにより、税金や社会保険料も増える可能性があります。

④遺族年金の増額がなくなる
繰下げ受給によって増額された年金は、遺族年金には反映されません。

(3)判断のポイント


繰下げ受給を検討する際には、次の点を考慮し、自分にとって最適な選択をすることが大事です。

①現在の収入と支出を把握する
75歳までの10年間は年金を受け取れないため、その間の生活費をどうするかを考える必要があります。

②健康状態を確認する
長生きする可能性が高い場合は、繰下げ受給のメリットがあるでしょう。

③将来の必要金額を考える
長期的な視点で、今後、どのくらいの年金額が必要になるのかを考えることが重要です。

4 繰上げ受給をしたほうがよい人、繰下げ受給をしたほうがよい人


繰上げ受給をするか、繰下げ受給をするかは、個々の生活状況や健康状態、将来の必要金額により、どちらがよいかが異なります。

(1)繰上げ受給をしたほうがよい人


①貯蓄が少ない
退職後の生活費を貯蓄で十分に補てんできないなら、早めに受給する必要があるでしょう。

②健康に不安がある
長生きする可能性が高くない場合、早めに受給することで、健康なうちに年金を活用できます。

③早期退職を希望する
60歳で退職し、65歳までの収入がない期間を補うために繰上げ受給を選択することになります。

(2)繰下げ受給をしたほうがよい人


①長生きする可能性が高い
長生きすることにより、繰下げ受給による増額分を長期間にわたって受け取るメリットが大きくなります。

②十分な貯蓄がある
受給開始を遅らせても生活費に困らないだけの貯蓄があれば問題ないでしょう。

③65歳以降も就業する
受給開始を遅らせることで、現役時代の収入と重ならず、税金の負担を軽減できる可能性があります。 

(3)判断のポイント


①健康状態を確認する
自分の健康状態を考慮し、長生きする可能性が高いかどうかを判断することが重要です。

②経済状況を把握する
現在の貯蓄や収入状況を考慮し、受給開始を遅らせても生活費に困らないかどうかを確認することが必要です。

③将来の必要金額を考える
退職後の生活設計や目標に合わせて、受給開始時期を選択することが大切です。
 



年金を65歳から受給するか、繰上げ受給するか、繰下げ受給するかを選ぶには、それぞれのメリットとデメリットの理解が必要です。
そして自分の生活状況や健康状態、将来の見通しも考慮して検討するとよいでしょう。
具体的なシミュレーションやアドバイスが必要であれば、年金事務所やファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談することをお勧めします。

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