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新しい働き方「協同労働」とは?

「協同労働」が新たな働き方として注目されています。
2022年に施行された労働者協同組合法により、これまでになかった協同労働という働き方を実現できるようになりました。
協同労働は、労働者協同組合という組織を立ち上げて事業活動を行います。
なかには、フリーランスやシニアが労働者協同組合を設立して活動する例も出てきています。
 
協同労働とはどのような働き方なのか、メリットや留意点などについてお話しします。


1 協同労働とは


協同労働は、
①働く者(組合員)が自ら出資し、
②話し合って経営・運営を主体的に担い、
③自ら事業に従事する

という働き方です。
組合員一人ひとりが「雇われ者」ではなく、事業や経営の主人公になることを目指します。
会社は出資・経営・労働が分離しているのに対して、協同労働では出資・運営・労働が一体となっているという違いがあります。
 

協同労働の成功事例が厚生労働省のウエブサイトに掲載されているので引用します。
 
㋐労働者協同組合W.co.輪っはっは(埼玉県所沢市と志木市)
生活・家事支援や子育て支援、学童クラブの運営などを行っています。
利用者が笑顔で暮らせるよう、ひとり一人に寄り添った支援を提供しています。
 
㋑労働者協同組合上田(長野県上田市)
経験豊かな高齢者が営繕に関する仕事を中心に事業を展開しています。
同じ地域の高齢者がお互いに手を貸し合う仕組みを目指しています。
 
㋒労働者協同組合あるく(熊本県熊本市)
障害福祉サービスの生活介護事業を行っています。
障害者もいきいきと生活できる理想の介護を目指して活動しています。
 
㋓労働者協同組合創造集団440Hz(東京都新宿区)
映像、デザイン、Webサイト制作、動画配信などの事業を行っています。
不登校・ひきこもりを経験した若者たちが、自分らしく豊かに生きていくことを大切にしています。
 
㋔労働者協同組合プラスチックフリー普及協会(神奈川県藤沢市)
脱プラスチック・CO₂排出ゼロを目指し、量り売りを中心に生活用品の販売を行っています。
無添加のライフスタイルを提案しています。

2 協同労働のメリットとデメリット


協同労働にはつぎのようなメリットとデメリットがあります。
 
(1)協同労働のメリット
 
①働き甲斐と自主性がある
会社からの指示や命令ではなく、自分たちが主体的に働くため、働き甲斐を感じやすくなります。
また、自分たちのスキルや個性を生かして仕事を創造することもできます。
 
②個性重視の働き方ができる
同僚と競争するのではなく、仲間と協力しながら個々の力を発揮して成長することができます。
 
③手軽にスタートできる
3人以上の発起人が集まれば、登記すれば許認可なして労働者協同組合を立ち上げられ、手軽にスタートできます。
 
④法人格がある
法人格を与えられるため、契約なども労働者協同組合名義で行うことができます。
 
⑤地域課題を解決できる
住民が出資し合って労働者協同組合を立ち上げ、その活動を通して地域の課題や問題を解決できます。地域振興にも寄与します。
 
(2)協同労働のデメリット
 
①意思決定が遅れるリスクがある
組合員全員で意思決定を行うため、意見がまとまらなかったり、仲違いが起きたりすることもありえます。
 
②低賃金のリスクがある
出資・運営・労働が一体となっているため、賃金などの労働条件も自分たちで決めます。
事業経営がうまくいかない場合などに、労働条件を切り下げてしまうリスクがあります。

3 労働者協同組合法


労働者協同組合法は、多様な就労の機会の創出や地域社会の課題への取り組みを促進することを目的としています。
労働者協同組合の設立や運営、管理などについて定めています。
労働者協同組合は、労働者が自ら出資して事業の運営に携わる協同労働の仕組みを取り入れた組織です。

その目的は、つぎの基本原理に従い、持続可能で活力ある地域社会に資する事業を行うこととされています。
①組合員が出資すること
②組合員の意見を反映すること
③組合員が事業に従事すること

 
さらに、つぎの要件を備える必要があります。
・組合員が任意に加入し、又は脱退することができること
・組合員との間で労働契約を締結すること
・組合員の議決権及び選挙権は出資口数にかかわらず、平等であること
・組合との間で労働契約を締結する組合員が総組合員の議決権の過半数を保有すること
・剰余金の配当は組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行うこと

 

なお、労働者協同組合法が制定された背景はつぎのとおりです。
少子高齢化が進む人口減少地域では、介護、障害福祉、子育て支援、地域づくりなど幅広い分野で多様なニーズが生じています。
そうしたニーズの担い手は、NPOや企業組合、あるいは法人格のない任意団体として活動しています。
しかし、これらの枠組みでは、出資できない、営利法人である、財産が個人名義となるなど、いずれも一長一短があります。
多様な働き方を実現しつつ地域の課題に取り組むためには、新たな組織が求められていました。
そこで、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事する。そのような新たな組織を簡便に創設できるよう法制化されたのです。

4 労働者協同組合の設立手続き


労働者協同組合を設立するための手続きはつぎのとおりです。
 
(1)発起人を3人以上集める
組合員になる意思のある3人以上で設立します。
 
(2)必要書面作成
定款、事業計画書、収支予算などの書類を作成します。
 
(3)創立総会の公告
設立総会の2週間前までに日時、場所、定款を公告します。
 
(4)創立総会
定款の承認や事業計画書、収支予算の議決、役員(理事・監事)の選挙などを行います。
組合員となることを承諾した者の半数以上が出席し、2/3以上の多数による決議が必要です。
 
(5)出資の払込み
理事は事務引継ぎ後、組合員に速やかに出資をしてもらいます(出資一口につき1/4以上)。
 
(6)設立の登記
法務局で設立の登記を行います。
 
(7)設立の届出
登記後2週間以内に行政庁に組合の成立の届出をします。
 
(8)事業開始の準備
銀行口座の開設、社会保険・労働保険・労務関係の手続き、税務関係各種届出、物件契約、許認可の申請などを行います。

5 労働者協同組合の留意点


(1)組合が行うことができる事業
労働者派遣事業を除き、自由に行うことができます。
ただし、許認可等が必要な事業についてはその規制を受けます。
 
(2)事業従事の人数
①総組合員の4/5以上の組合員は、組合の行う事業に従事しなければなりません。
②組合の行う事業に従事する者の3/4以上は、組合員でなければなりません。
 
(3)組合員の出資義務
組合員は、出資一口以上を有しなければなりません。
組合員の出資口数は、原則として出資総口数の25/100を超えてはなりません。
 
(4)議決権・選挙権
組合員は、出資口数にかかわらず、1人につき各1個の議決権と選挙権を有します。
 
(5)組合の労働契約締結義務
組合は、一定の者を除き、事業に従事する組合員と労働契約を締結しなければなりません。
 
(6)剰余金の配当
組合の非営利性が損なわれないよう、出資配当はできず、組合員が事業に従事した程度に応じた配当(従事分量配当)のみ可能です。
 

 
厚生労働省によると、労働者協同組合は、2024年8月20日時点で、1都1道2府27県で102法人が設立されています。
分野もつぎのように多岐にわたっています。
・キャンプ場の経営
・葬祭業、成年後見支援
・メディア制作体験
・地元産鮮魚販売、給食のお弁当づくり
・カフェ、フェスティバル運営
・高齢者介護
・生活困窮者支援
・子育て支援
・障害福祉
・清掃、建物管理
・家事代行

多様な働き方のニーズに応えながら、地域特有の課題を解決する手段として全国に広がりつつあるのです。
今後も新たな働き方としてさらなる発展が期待できるでしょう。

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