走馬燈のページを増やす人生

今、世の中はえらいことになっている。

「みぞうゆ(未曾有)の」と間違っちゃって、
バッチバチに叩かれてた時代が既になつかしく感じる。

今まで味わったことない経験。
ステイホーム、三密、ソーシャルディスタンス、
ファクトチェック、ダメ！デマ！絶対！

そんな中あたしがどんな暮らしをしてるかって
誰も興味ないと思うけど書いている。

マスクを量産している！

最初は買えないしマスク勤務の義務付けと
男子は柄物を付けないから白で晒の4枚重ね立体型に
改良に改良を重ねていくことに夢中になった。

その最終形がコレな。↑ フィルターポケット付き、
ノーズワイヤーが出し入れできるゴムが縫い付けてある。

装着してみるとこう。

100枚以上制作して、
家族や大切な人に無償で配りまくって終わったと
思っていた。

そうその頃は……。

GW初日…夏日…

夫がおもむろに「マスク暑いねん」
と言う。

やだ！聞きたくない！既に100枚以上縫うとるねん。
あたしだって薄々気付いてた。

だって鼻にできもんできたし。

そんで「えー」と思いながら夏用マスク計画を立てる。仕事が早いのだ。私は。
最近は揶揄するように「府知事並み」と呼ばれている。

言われた日の夜中に生地を探す「冷感 マスク 生地」「夏用 マスク 生地」でググる。ググりまくる。
隣で既に夫は大いびきで爆睡している。

どれも高くて手が出ない。
今、マスクの材料だって高いのだ。
買えるかよ……と思ってiPhoneを布団に投げつけたその瞬間に降りてきた。

人は考え続けるとアイデアが浮かんでくる…という噂で聞いた「セレンディピティ」ってコレかよ！と思った。(ま、厳密に言うと晒4枚仕立てのノーズワイヤーを入れるアイデアも降りてきたから「セレンディピティパート2なんだけど)

こういうのってもっといい場面で使いたい能力。
欲しい時降りてこないのがセレンディピティ。

そして、深夜のUNIQLOオンラインショップで
4XLサイズのエアリズムメンズTシャツをGW特価790円で購入した。

4XLで9枚分のマスクの型取りができる。
Sと4XLが同じ値段てUNIQLOさんよ。
今はありがたいけど、Sサイズの人に申し訳ない。

思いついて注文して2日後には届いてこの状態。
仕事早いんですよ。爆速マスク。

ここまでやって、その日は寝た。
蒸し暑い夜だった。

まさかの事態！

朝になったら水で消えるチャコペンが
消えている。
苦労して取った型が吸湿素材で空気中の湿度を吸って
跡形もなく消失していた。

「嘘やろ…」

ああ、野麦峠。
女工哀史。

こんなことでは負けてられへん。
浪速根性でまた型取りをする。

夏の暑さだったのでエモい気分を味わいたい。
フジファブリックを聴いていたのだが、
何枚も縫い進めるうちに心がエモ方向から荒み系。
やけくそになって1980年代邦楽ベストに変更。

ひたすら同じことの繰り返し。
そういう刑罰あるよな…と思った。

頭がおかしくなりそうになってセンチメンタルジャーニーを熱唱する。伊代はいつまでも16歳だ。

何かが崩壊している。
ワイはなにをしているんや。
心を無にすること禅の如し。

ひたすら響くミシンの音に混じって聞こえる熱唱。
隣の部屋で次男は「大丈夫か？」と思ったらしい。

そして仕上げた冷感触媒、エアリズムマスク。
爆速30枚。

次男に快適とお墨付きをもらった。

よし、報われた。
そう思った。

それなのに、エアリズムマスクをつけて
仕事から帰宅した夫が玄関で
肩を落としてしんどそうにこっちを見ている。
すわ！コロナか？熱出たんか？
…と思って恐々聞いたら

「このマスク苦しいねん。フィルターポケットが鼻についてくる」

……と言うではないか。

オイ！業者ちゃうねんぞ！
と思ったけど結局フィルターポケット無しでも充分な性能を感じたのでフィルターポケットを手縫いで表と縫い付けた。その日の晩に……。

あの肩を落としてしんどそうにしている姿が、
どうやら嫁に角を立てずに苦しさを伝えるための
考えた末のスタイルだったらしい。

浅い！浅すぎる！完全に地雷だよ！
マスクにかけてる情熱舐めんな。

夫はアレコレ言い訳するが腹の虫が治らない
「方向性間違ってるから話しかけないで！
私の感情の問題だからしばらく放っておいて！」

と言いながら夫に背中を向け
全てのマスクのフィルターポケットを縫い付けた。

結局、仕事早いねん。

そんでふと思った、
駅からの帰り道の自転車でマスクいらなくない？
ソーシャルディスタンスどころかゼロ密である。
自転車漕いであのマスク苦しいに決まっとるやんか。

これがコロナ離婚……頭にこの言葉がよぎった。
しょうもなすぎる理由。

結局、がんサバイバーで再発予防薬飲みながらも
元気で働いてスキップして生きてたらコロナてか。

人生とはエピソードトークが多い方が面白い。
辛いことも腹が立ってもそれはそれでおいしいと思ってしまったら走馬燈のページを増やしてしまったことになる。

走馬燈のページは多い方が死ぬ瞬間おもろいと思ってる。毎日全力投球ですけど少しも後悔していない。生きているどの瞬間も全力でサバイブするのが私のやり方。

結局、暑苦しいのはマスクやなくて私の情熱。
わかってんだけどな。やっぱおもしろいからそれでいいか。

朝起きたら夫への怒りも消えていた。