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灰色の二人

部屋では、女子高生が楽しそうに会話している。

「兄ちゃん、楽しそうだね。」
「そうだな、弟よ。」
ベランダに佇む二人 女子高生たちを外から見ている。
不審者ではない、そう彼らは宇宙人

「兄ちゃん、あの人達はなんで僕たちに気づかないのかな?」
兄は、自分の腕を見てベランダでの滞在時間を知った。
気づけばもう3時間たっていると、F-91W-1JH が教えてくれる。
地球に来てからドンキで買ったチプカシだ。

チープカシオ、チプカシとは、日本の時計メーカーとして有名な「カシオ」から発売されている900〜3000円程度のリーズナブルな腕時計のことを言う

気づかないよな。宇宙人に興味ないのか?
先程から数えること27回。
女子高生たちと視線があっているはずなのだが……

「兄ちゃん、やっぱりこの姿が間違ってたんじゃないかな?」
弟は自分たちのスラリと長い手足、大きな目、それより大きな頭のことを言っているようだ。
「間違いか、しかし調べでは、この姿が地球人にとってスタンダードな宇宙人の姿だと書いていた、弟よ。」
彼らは、いわゆるグレイといわれる灰色で目がでっかい、ヒョロっとした姿であった。

「兄ちゃん、何で調べたの?」
おもむろに弟は兄に質問した。
その間に女子高生たちは、何やらすき焼きを始めたようだ。
「これだ、これが一番信頼できる、弟よ。」
兄は、弟に一つの冊子を手渡した。

「ムー」
赤いゴシック体で【ムー】と書かれている。
みんなご存知、1979年10月創刊 月間 ムーである。
弟はパラパラと冊子をめくり読み、一言

「兄ちゃん、たしかにこの姿で間違いないみたいだね。」

卵に肉を絡めて食べている。
実にうまそうに女子高生たちは、すき焼きを食べていた。
相変わらず、ベランダにいる宇宙人兄弟に気づかない。

「兄ちゃん、せっかく地球人との初コンタクトなのに、これじゃいつまでたっても進まないね。」
「そうだな、弟よ。」

弟がしびれを切らして窓を開けようとした。
「待て、弟よ。」
兄が弟を止める。チプカシが輝く右手で弟の腕を掴んだ。

「こちらから行っては、相手を驚かせてしまう。相手から気づいてもらうまで待つんだ、弟よ。」

「兄ちゃん。5時間」
気づけばもうベランダ滞在時間が5時間経とうとしていた。
チプカシが教えてくれる。

白飯が鍋に投入された。女子高生たちが、シメの雑炊を作り出す。

「うまいんだろうな、弟よ。」
「兄ちゃん、お腹すいたね。」
じゅわっと染み出した肉汁を吸い込んだ雑炊から立ち昇る湯気を
じっと見つめる二人の宇宙人。

ピーピッ、ピーピッ、ピーピッ、ピーピッ……
ドンキ BIGFUN平和島店 で購入したチープカシオが突然鳴り響いた。

「兄ちゃん、鳴ってるよ。」
「鳴ってるな、弟よ。」

兄弟たちの脳内に唐突なフラッシュバックが走る。

~地球突入1時間前~
「兄ちゃん、これ飲んだら6時間は、ご飯食べれないって。」
弟は、その手に持った箱の裏面を見ながら言う
【トメーイニナーレル】
宇宙人が地球などの外星に降り立つとき、目立たないように飲むと透明になれる薬だ。

「アッつ!!」
女子高生の片方が熱々の雑炊で口の中を火傷した。

「兄ちゃん。そのアラーム音鳴ってるってことは」
「そうだ、薬を飲んでから6時間たったぞ、弟よ」

透明になれる薬を飲んでいたことをすっかり忘れていた宇宙人兄弟。
女子高生たちがシメの雑炊を食べるまで、ずっと見続けた。
しかし、チプカシが教えてくれる。6時間経ったのだ……
ついに、ここに宇宙人と地球人の初コンタクトが成される瞬間が訪れようとしていた!!

「兄ちゃん、24時間。」
弟は、その手に持った箱の裏面を見ながら言う
【トメーイニナーレル】
外星への進行も安心。1日1回で24時間効果をしっかり発揮!!

無言で見つめ合う兄と弟

ピッピッピッ
兄は、チプカシに18時間タイマーをセットした。

「帰るか、今日は一旦帰ろう、弟よ。」
「兄ちゃん、そうだね。」

ゆっくりと地面から浮き離れ宇宙人兄弟たちがベランダから去ってゆく。
グツグツとしたシメの雑炊と女子高生たちの笑い声だけが、そこに残った。

「兄ちゃん、ご飯何食べようか?」
「そうだな、これで調べよう、弟よ。」
兄が目に刺さるほど黄色い冊子を取り出す。
そう、みんなご存知 アンリ・ゴとクリスチャン・ミヨのレストランガイドブック【ゴ・エ・ミヨ】だ。

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