2021年11月17日 西加奈子/夜が明ける



これは世相に対する強烈な批判だ。いま人間は無意識によりよく生きようとしている。貧乏よりは金持ちに。不細工よりは美人に。馬鹿よりは優秀に。なぜだろうか。よりよく生きるのは人生を充実させるようで、実は窮屈で、不幸せで、虚しいことがあるのに。あるいは、ある一線水準を下回った時点で、二度と救われず、壊れていく予感に誰しもが怯えている。一度壊れたら、数珠繋ぎのように次の絶望が待っている。一線を超えないように、人々は日々怖がりながらも努力し、自分は「そっちにはいない」と主張しているのかもしれない。(マウンティング、みたいなこと)すると、弱みを見せることはすなわちこの世の敗者であるとの宣言、かのような切羽詰まった現実を再認識させられる。

この作品の中には、こうした社会構造によって傷つく人が沢山出てくる。

シングルマザー。苦学生。売春。パワーハラスメント。セクシャルハラスメント。ゲイ。知的障害者。鬱病患者。アルコール中毒。自殺志願者。生活保護受給者。ありとあらゆる、貧困に苦しむもの。

淡々と、当たり前のように小説内で意味をもっていくこうした方々の存在にたいしては、怒りではなく悲しみが込められてる。また、作中には現実を騒がせた実際のおぞましいニュース(東海道新幹線で刃物をつかって殺人したひと、など、社会の構造が原因で壊れてしまった人に関するものだが)が各所に、複数、散りばめられる。記憶に新しいためか、小説の中の虚構の世界として没頭できず、まさにこれは、現実に起こっている歪みとして、自分のこととして、今のこととして受け止めざるを得ず、とても傷ついた。

この差し迫った闇に対して、お前は目を逸らしていないか、見えているか、見ているか、見ようとしているか、見ないことにしたいかと真っ向から常に読者に問いかけてくる、そんな意欲作だと感じた。

とある高校の同級生、友人同士の2人の人生を互いになぞっていくように物語は展開する。

15歳の時、高校で「俺」は身長191センチのアキと出会った。 普通の家庭で育った「俺」と、母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できることなんて何一つないのに、互いにかけがえのない存在になっていった。
大学卒業後、「俺」はテレビ制作会社に就職し、アキは劇団に所属する。しかし、焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、少しずつ、俺たちの心と身体は壊れていった……。
思春期から33歳になるまでの二人の友情と成長を描きながら、 人間の哀しさや弱さ、そして生きていくことの奇跡を描く、感動作!


毎回思うのだが、西さんの小説は最後の一文が素晴らしい。。。今回も鳥肌が立った。こんな世の中に対して、作品は最後、何を読者に問いかけるか、楽しみに期待して読むことをお勧めする。ただ、これを読んで、精神が救われたかというと、違う。ただただ悲しくて、やりきれなくて、あまり良い気持ちはしなかった。だけど、ページを繰る手が止まらない。簡単に人に薦められる本ではない。だけど、いまこの本は読むべきものだとはわかる。くそみたいな現実なのに、その語り口は真摯で、切実で、祈りのようで、強いエネルギーが満ちている。苦しい。やるせない。嫌になる。だけど、心強い。経験したことのない読後感に、読了後3日たったが、まだ余韻に漂っている。

夢に向かって頑張ります‼