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医療と法に関する覚え書き(2)ー3

前回(2)-2、前々回(2)-1の続きとなります。

5 過失の競合

では、ある過失ある行為(①)の後に、医療上の過失がある行為(②)があった場合にはどうなるのでしょうか。
この点については、いわゆる「共同不法行為」として(不真正)連帯債務関係になるとされています(交通事故の後に医療ミス(?)(注1)があった場合の事例として最判昭和63年4月21日)。
つまり、「加害者2人(以上)で被害者に対して、被害者に対して損害額総額払ってよ」という関係です(注2)。

(注1)この事案について「医療ミス」とまで言えるかどうかは認定として難しいところである。
(注2)なお、近年の民法改正により、不真正連帯債務と通常の連帯債務との明確な差異は少なくなっており、不真正連帯債務概念の有用性には疑問も呈されているところである。今後、改正法下で問題となる不真正連帯債務に関する論点としては、求償の場面が考えられるであろう。
(改正民法下における不真正連帯債務概念については、筆者の学部卒業論文の執筆テーマでもあるところ、別途note掲載予定。)

6 訴訟によらない解決

 ここまでは、医療訴訟で主に問題となりやすい民法上の知識について書いてきました。(2)の最後では、少し視点を変えて、紛争解決のための手続の話についても触れておきます。
 医療事故・医療過誤というと、「訴訟」というイメージの方が多いのではないでしょうか。たしかに、訴訟に発展して争いに争うようなケースもあります。
 しかし、訴訟だけなのでしょうか?

 最高裁判所が出している医療関係訴訟に関する統計を見てみましょう。

 https://www.courts.go.jp/saikosai/vc-files/saikosai/2021/210630-2syukyokukubun.pdf
 
 毎年50%前後が「和解」で終わっていることが分かります。
 (和解というと「負けを認める」という印象を持たれる方も一定数いる気がしますが、そうではなく、お互い納得できる着地点を探る(互譲による解決)というのが適切なイメージだと思います。)
 実は、医療訴訟は「和解」が多い紛争類型と言われています(注3)。というのも、訴訟になると、両当事者にとって訴訟コストもかかり、病院経営の観点からも望ましくないため、当事者は和解しようという方向に向きやすくなります。
 和解というのは、①訴訟のような一方当事者の勝ちか負けかという解決ではなく、お互いの納得点を見つけ、柔軟な解決を図るということが可能であるということ、②訴訟と異なり公開されないため秘密性が守られやすいことが利点と言われています。
 また、和解とは異なりますが、医療ADRという裁判外紛争解決の方法もあります。
 このように、医療過誤といっても訴訟だけが解決方法ではないことについても覚えておいていただけると幸いです。
 
(注3)上記統計上の「和解」は裁判上の和解であるが、裁判外での和解で終わること、訴訟提起前の和解で終わることも想定される。

7 (2)のおわりに

 これにて、「医療と法に関する覚え書き」(2)民事損害賠償請求と医療訴訟編は終わりです。次回のこのシリーズは、(3) 医療過誤と刑事責任に入る予定となっています。私ごとながら、執筆・note記事公開が不定期になりまして、申し訳ありません。気長にお付き合いいただいている皆さまありがとうございます。
 なお、ここまでの記事を執筆するにあたり、以下の文献のほか、学部時代のゼミのレジュメを合わせて参照しました。ゼミの該当回の発表報告担当者だった皆様にはこの場を借りてお礼申し上げます。

(参照文献等)
高橋譲編『医療訴訟の実務〔第2版〕』(2013、商事法務)
甲斐克則・手嶋豊編『医事法判例百選〔第2版〕』(2014、有斐閣)
潮見佳男『基本講義債権各論Ⅱ 不法行為法〔第4版〕』(2021、新世社)
医療過誤判例集 https://www.doctor-agent.com/service/medical-malpractice-Law-reports (最終閲覧日 2022/05/31)
最高裁判所ホームページ https://www.courts.go.jp/saikosai/iinkai/izikankei/index.html (最終閲覧日 2022/05/31)
日弁連医療ADRホームページ https://www.nichibenren.or.jp/activity/resolution/adr/medical_adr.html (最終閲覧日 2022/05/31)


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