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『これでいいんだっけ?』のはなし

インターネットが普及して、知名度がカネになる時代が到来した。もう『何を言うか』よりも『誰が言うか』に価値がシフトしつつある。そんなご時世、誰の目にも留まらないことは存在しないことと同じに扱われる。この世にいないものになってしまうくらいなら、と非倫理的あるいは暴力的な物事による『炎上』という手段で世界に訴えかける人間も出てきた。そんな人間達のエンジンは善悪じゃなく実利だ。

タチの悪いことに、この知名度は再生産性がある。つまり名が知られた存在はよりいっそう発言に着目され、SNSなどが持つ拡散力によってさらに広く名が知られる。まるでボヤがたちまち大火事に発展するかの如くだ。こうした炎上プロセスのもつ正帰還作用は強大だ。その波に乗って発言力を得ようとしているのか、ネットの海には目を疑うような恣意的な炎上発言がそこかしこに投棄されている。

これでいいんだっけ?

だが炎上を利用する人間の気持ちもわからないわけではない。なんら才能のない人間はその手段に頼らざるを得ない。何者にもなりえなかった人間の押せる最後のスイッチ。これを押すのか押さないかは、薄皮一枚の良心だけだ。なんの才能も持たなかった僕は、最後にそれを押さなかった。でももし押すことで、何者でもない今を変えるような、なにかを掴めていたとしたら?

これでいいんだっけ?

こないだ居酒屋の入り口の道路で酔いつぶれた女の人をみかけました。人通りの多い道の端っこでしんどうそうに顔をしかめて倒れている女の人の周りには、面白がって一緒に自撮りをしようとしている友人らしき人たちが数人いました。誰も女の人の心配はせず、ただゲラゲラ笑って写真を撮ろうとしていた様子に「かわいそうだなあ」と思いましたが、僕は声をかけることなくただただ横目に見ながら、その場を通り過ぎました。

今日の夜ご飯は豚の生姜焼きでした。おいしかったです。幸せ。

これでいいんだっけ?


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