記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『アサシンクリードオリジンズ』感想

 クリアから時間は経ってるのですが、『アサシンクリードオリジンズ』が最高です、という事をただただ表明したいだけです。
 
※ 以下、全部ネタバレ

■ 概要

 『アサシンクリードオリジンズ』とは、世に有名な『アサシンクリード』シリーズの一つ、古代エジプトを舞台としたゲーム。アクションゲームであり、様々な方法で敵を暗殺する。正面から暗殺してもいい(暗殺…)。

 本作のあらすじは、
「時代はクレオパトラ存命の、プトレマイオス朝後期。王のメジャイ(いわゆる警察)として働いていた主人公バエクは、ある日息子のケムと共に謎の結社に捕らわれる。そして、その組織に抵抗する中で、ケムは誤って死んでしまう。
 古代エジプトの考え方では、心臓を傷付けられた者は葦の原(天国)に行けず来世に蘇る事ができないとされている。
 
 息子の魂を救うためには、ケムを殺した者へ復讐するしかない。バエクとその妻アヤは、謎の結社の要人への復讐を行うことになった。」

 というもの。
 これが、アサシンクリードシリーズの、アサシン教団の起源となる=オリジンの話です。

■ ビジュアル

 私事ですが、古代エジプトが好きすぎてナポレオンの『エジプト史』を原文で見たくてフランス語を身に着けようとするくらいには古代エジプトが好きなので、このゲームは本当に感動した。
 もー凄いよね! 古代エジプトを再現した最高の画質。古代もちろんエジプトが舞台なので、ピラミッドや王の墓がどんどん出てくる。それがまた美しい。
 一番感動したのは、ギザの大ピラミッドではなく、実際今でも崩落・浸水している王墓を再現していたところです。こ、こんなものを再現……。
 現存しないものや、あるけれど推測の域のものについては想像で描かれている点も夢があって大変よかった。

 勿論、「本当の古代エジプトの風景はこうじゃないよ」とか「ここの解釈がおかしい」というのはあるだろう。しかし、古代エジプトを描いたオープンワールドでこれ以上のクオリティのものが、私の生きている間に出てくるだろうか。出ないだろう。出してくれ。本当お願い。

 また、DLCにはなるが、そのエリアは拡張。有名なラムセス2世やネフェルタリの墓がある、王家の谷等も追加。更に彼らの宗教観に基づいた天国に相当する場所なども見事な解釈で作られている。アテン神のところとか本当に凄かった。
 アテン神は従来の太陽信仰アメン神に対抗するために主神としようとされた神。この動きを主導したアクエアテンは速攻で抵抗されたため、嫌がれている節があり、バエクの時代の人にとっての悪の神殿のような、でも輝く神殿のような形ででてきたのはなるほど!と思った。太陽からの光線のみを現した神の表現で震えた。
 あとは作中、天国としてよく出てくる「葦の原野」に行けた時はうわああとなった。そうか、ここにケムはいるのか……。バエクは復讐者ゆえ葦の原にはいけないと言っていたように思うが、行けたよ!ちょっと違う方法だけど。

 ああでも1点だけ。
 壁に書かれたヒエログリフだが、柱に当たると途中で途切れているような表現がされている。壁紙の絵が途中で切れてるイメージ。
 ヒエログリフに関しては文字なので、そうはならない気がするとは思った。全てのヒエログリフを見たわけではないので、これは憶測だが。

■ 世界観、宗教観

 作中では古代エジプトの宗教観、死生観で人々が話をするため、没入感も素晴らしかった。
 こちらには馴染みのない事も彼らにとっては当然の話。息子ケムの話とかまさにそうだ。

 古代エジプトでは、良き死者は葦の原に行くとされる。そこでは現世と変わらない生活を営んでおり、太陽の船に乗ってまた日が昇るとともに現世に戻る、という信仰が信じられていた。
 故に、バエクは息子を救う、という目的を持っているし、復讐がなされれば息子は現世に戻ることができる、という思想を持っている。
 また、子が親の死に対する復讐を叶えるために命を懸けるような風習も自然に出てくる。良い悪いではなく、それが当然なのでそのようにみんな喋る。これが意外と難しい所を、このゲームは自然にやっていてとても感心した。

 また、各神に対する信仰もさらっと表現してくれる。
 バエクはワニを倒しまくっているけれど、ワニの神セベク(ソベク)がいる。これに対する実際問題ワニって神だけどやばいよね。いやソベクは大事だけどさー、みたいな信仰等がうまく表現されている。
 ……だからこそ、後述のアヤの違和感が凄いんだけど。

■ ストーリー(ネタバレ)

 泣いた。
 
 バエクは自分の子どものために復讐を誓い、多くを手に掛ける。一方でメジャイ(警察)という立場から、多くの人を助けもする。
 彼がメジャイであるため、オープンワールドとしては珍しく道行く人に尊重され、悪い事をするという選択も、市民を殺すということもないのがありがたかったです。私はグラセフも法定速度で走ります。

 子どものため、子どものためと突き進むバエクと、次第に「死んだ息子ではなく他の母のため」と道を違えるアヤ。夫妻が考え方の違いで別れるというのも、妙にリアルだった。

 夫妻がそれぞれの道に向かい、バエクはエジプトでアサシン教団を率いる存在になる。
 バエクは息子のために復讐をしていくのだけど、でも彼も本当はそれには本当の意味なんてないこと、結局敵のせいとは言え、ケムにとどめを刺したのは自分であることはわかっている。途中途中、ターゲットを仕留めるごとに出る彼の苦悩が終盤になる程苦しかった。
 
 最後、ケムの声で締めくくられた時はなんて美しい話だろうと思った。最後の一言のため、是非英語版(日本語字幕)でプレイしてほしい。 

■ 主人公バエク

 彼が良すぎた。
 
 メジャイであり、父である。そしてアサシンの祖となった。

 彼は当初、ボサボサの髪と髭、ぐぉぉと叫びながら人を殺す、と何こいつー…という印象を持った。これと何十時間も付き合うの?と。
 しかし道中、彼の印象は一変する。子どもを亡くしたからか、元々か、バエクはとても子どもに優しい。それはちょっとしたサブイベでも出てくる。最初は気付いていなかったが、それに気づいた時、彼の好感度が爆上がりした。あと、それ以外の人にも優しい人だ。特に女性にも気遣う様子や、ちょっとおかしな人にもうまく言葉を濁したりして優しい対応をしている。

 過去の彼の穏やかな生活を見るに、本来は温厚な人なんだとも思う。あと事故で指落としちゃって、その後なんかそれが神聖な儀式扱いされて仲間も指落とし始めたのをうわって感じでみてるのは笑った。
 彼の性格ゆえか、途中途中で協力した人たちが最後に仲間としてセーフハウスに集まっている。別に集まるような話はしていなかったので、これは人徳。こんな人も!?という人までやってきてくれた。

 正義の人であるため、民を守るような依頼しかないのもありがたかった。民間人に攻撃はできないのだけど、変則的な方法によっては殺害できてしまう。その時に『メジャイは市民を守らねばならない』のようなダイアログが出る。これぞ彼。

 元の職業が警察なので、シリーズにある事件現場での捜索に違和感がなく、強さと賢さにも納得がいく。

 息子ケムをあらゆる場面で思い出す彼は物悲しい。星座を見るたびに息子のことを思い出したり、彼は生涯ケムを忘れることはなかったんだろうな…。
 信仰心から復讐を行うが、それがある意味無意味であること、自分も同罪であることなど本当は分かってる、でも…と思い悩む彼は本当に可哀想だった。戦後幸せに生きてほしいけど、その後はアサシン教団が決まってるからな…。

■ アヤという人…

 バエクの妻。ケムの母。後のアサシン教団創始者。資料によればギリシャ人と見るのがいいかもしれない。

 このゲームが終盤に近付くにつれて、「彼女の世間での評価ってどうなってんの?」と思った。調べたら大体想像通りの評価である意味安心した。

 彼女はまあ、恐らく、UBIソフトが本来の主人公として、というか鳴り物入りで出した女性主人公だったのだ、と思う。
 初代アサシン教団創始者であり、強い女性、自立した女性。

 ただ……ちょっと長くなるが、彼女に関して、制作側はその見せ方を誤ったなと感じた。
 
 アヤはとても「現代的な考え方」をしている。
 すなわち、「自分の死んだ子どものことだけを考えても仕方ない。復讐をしても子どもは蘇らない。それよりは世界を変えて、悲しむ母親がいないよう改革をすべきだ」というような思想だ。そうであるからこそ、彼女は素晴らしく、アサシン教団創始者となれる偉大な人物だ、ということ。

 これは確かに、それはそうなんだ。復讐をしたからといって、息子が本当に蘇るわけではない。それはあくまで信仰での話。人を殺すのは悪い事だ。そんな事は、現代人である私たちは知っている。

 でも、私たちはこれまで完璧な古代エジプトとその死生観、宗教観を見ている。だからこそ、前に進むために我が子を忘れ、政治活動にまい進していくアヤは異物に見える。彼女のルーツがギリシャにあることも、古代エジプトテーマのゲームの中では宗教観を理解しない理由のひとつに見えてしまった。
 私たちが何十時間も見て来たエジプト人バエクが、子どもの事だけを考え、子どもを天国に行かせるために戦っていることに対して水を差されているように見えてしまう。「子どもを忘れた」という表現も反感を買っただろう。

 また、現代編でのTIPSもよくなかった。
 このゲーム、現代人が古代エジプトに生きた彼らを追体験しているという体を取っているので、古代の出来事に対して、現代人の女性レイラがコメントしていることがあるのだが、彼女はアヤ賛同派なのだ。
 わかりやすく、アヤの考えが正しいというような賛同をしているため余計にプレイヤーと乖離して、アヤとレイラが共倒れを起こしてしまっている。

 製作が彼女をどう扱おうと思っていたのか……。これこそ改革者であり、強い女性だと思っていたんだろうか。
 ただ、作中ではバエクがアヤに愛想をつかしたようにみえる形で別れている。なので社内でもアヤを推す人たちのほかに、彼女の反対派がいたんじゃないかなとは思う。全員これが素晴らしい主人公だと思っていれば、アヤはきっとバエクからの賛同のもと彼女を称えるように送り出されたのだろうから。

■ 総括

 ストーリー、ビジュアル、古代エジプトと信仰。それらが本当に素晴らしかったです。記憶をなくして……は無理なので、時間をあけて人生何度かやろうと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?