キタニタツヤのオールナイトニッポンX(第11回・スペシャルウィーク【ゲスト又吉直樹さん】)2024.6.10)②

キ 自分のやっている領域(音楽)に関して鑑賞者として向き合うときに、「ぼくだったらこうするな」とか、「ここはめっちゃいいけど、ここはそんなだな(あまり良くない)」みたいなのが、鑑賞しながら生まれてしまう。ぼくはそれが激しくて、何でこんな(メロ)いいのに、こんなヘボい歌詞のせるんだよ💢」って二度と聴かなくなったりする。だから、それは今鑑賞者の態度として良くないと思う。いいところにもっとフォーカスして何がいいのかを掘り下げていく方が自分にとってタメになるが、やっぱり自分が普段やっていることだから、余計に解像度が上がりすぎてしまってそうなる。

又 でもね、どっちがいいも悪いもないと思うんですけどね。

キ あんまりないですか?小説読んだりお笑い見たり(して、そのように思うことは)。 

又 ありますよ、その時期とかで思うことは。
例えば、ものを作っている人間に自分が何か言われたとして、「あ、なるほどな〜。そういう見方もあるんや」と思ったら、その人の見方が自分にインストールされて、他の作品には適用されないが、その人の作品をそれで読んだら「あれ、自分が言うてる批評の設定は、ご自身は超えられてないんやな」みたいな。

キ おまえの理屈でいったら、おまえもダメじゃん、って。

又 そういう意地悪な読み方や見方をしてしまうこともあるんですけどね、若い頃の方がもっとあったかも。

キ でもやっぱりお笑い作る人はお笑いが好きだし、音楽作る人は音楽が元々好きで、その好きなものの自分バージョンをいつか作るぞという初期衝動がたぶん最初だと思う。それも粗探しの目から始まったものだと思うんですけど。

又 最初はその時期絶対必要ですよ。僕も悩んだ。一番最初すごい好きな芸人がいっぱいいて、面白いなネタ、と思って、だけど自分がプロになるならそういうマネをしたらアカンから、10全部を否定せなあかん、みたいな。

キ 笑。あ、ちょっと頑張って(否定する)?

又 姉とリビングおるときとか、ねーちゃんと一緒にテレビ観てるけど、絶対に笑ったらアカンと思って。

キ アハハハ

又 特に、誰がどう考えてもめちゃくちゃセンスあるとか、これで笑うのはイケてるみたいなの何となくうっすらあるじゃないですか。小学生ぐらいのときはそういうのでは笑っていいと思っていたけど、めちゃくちゃベタな、普通なら誰も笑わんようなやつを笑っちゃうから僕は。

キ アハハハ

又 姉ちゃんとケンカしたときとか特に、今俺がテレビ観て、めちゃくちゃベタなくだりで笑うわけにいかないと思ってても吹き出してしまうから、俺そういう批評精神ないんか?めちゃくちゃゲラやなっていう。

キ こんなんで笑わないようにしたい?

又 そういうのもあったから、もの作り始める人は一回全部否定的に捉えて自分は全然違うことやるんだって始めるのは普通のことというか、そういう時期はあるけど、それずっとやってるのは結構しんどいですよね。

キ そうですよね。

又 本人がきつくない?そんなん。

キ (笑)

(CM)
・うんちルーティンのお話(略) 

(メール、又吉さんにとってのマージャン(※いわゆるコミュニケーションツール)とは何ですか?)

キ (そういうもの)あります?

又 お酒飲んだりするの好きなんですけど、そういう意味でいうと、酒場での過ごし方みたいなのが割と人もわかるし、こういう頼み方するんやな、とかもわかるかもしれないですね。

キ あー!確かに、酒場、、ぼく初対面の人の前で結構基本的にポテサラ頼みたいんですけど、ポテサラかポテトフライ。重たい芋。

又 僕めっちゃ好きですよ、ポテトサラダ。

キ 遠慮するんですよね、初対面の人と。

又 好き嫌い分かれるかもしれないですね。

キ 例えば海鮮居酒屋とかでポテトフライ頼んだら絶対バカにされるじゃないですか。

又 あ〜人によっては。海鮮じゃないねや、みたいな。

キ 刺し盛り頼めやって思われるのが怖くて、刺し盛り頼んじゃうんですよね。笑

又 僕一人で行くこともあるんですけど、一人で行ったら割とポテサラ頼みますよ。

キ 一人だと自由の世界ですしね。

又 一人で行ってたまにポテサラ頼んだら、四人で食べるぐらいの量出てきて。

キ あー。笑 ありますね。

又 ちょっとずつつまみたかったのに、ポテサラで飲んでるおじさんになっちゃった、みたいなときありますね。

キ アハハハ。注文するときに、そのものがどのタイプのものなのかわかんないときに、鶏皮ポン酢あるじゃないですか、あれカリカリかクニクニか、揚げてあるものとないものあるじゃないですか。それどっち派です?

又 どうかなー?僕カリカリも好きですけどね。

キ あーぼくカリカリだと胃もたれしちゃうんですよね。

又 そんなちゃんと体調にでてしまうんですね。

キ 酒飲むときクニクニのやつがいいんだよな〜と思って話してるんですけど、そっか、居酒屋での相手の出方をみるってのは(アリですね)。

又 何人かで飲んでるときもあるし、例えば二人で飲んでるときも、相手のお酒の減り方をすごく僕は気にしてしまうんです。

キ 合わせます?

又 基本僕は合わせにいくんですけど、相手が僕よりペースが速くなってきたときに、「僕はもうちょっと飲みたいけど、この人はどうなんだろ。帰りたいのかな?」と思ってるときにおかわりしてくれると、「はぁ!まだこの時間一緒にいていいんだ!」みたいな。

キ ハハッ!超わかる!!卑屈ですけど、そうですよね。特に自信のない相手だったら、「おれ、今日楽しませられてるかな?」みたいなときに、、

又 だから女性と一緒にお酒飲んでたとして、最高に聞きたい言葉じゃないですけど、その女の子のお酒のグラスは空いてて、僕はちょっと残ってて、これで今日はもう帰るやろなみたいな、明日もたぶん仕事があんねやろなとか思ってて、(相手が)トイレに行った、トイレに行きはったってことは、ここでシメといてって、そういうのもあるのかな?って思ってるときの、向こうの方から、トイレに行った女の子が店員さんに「すいません、さっきと同じのもう一杯」って聞こえてきたときの、「え、ちょっと待って??」みたいな。

キ うわー!!ちょっと離れて店員さんもいて、自分もいて、三角形の状態で。すごい!

又 もう、すぐ残り飲んでね。「僕も同じのお願いします」って。

キ うわー!(拍手)泣けるー!

又 ああいう瞬間ね。

キ ハハハハ

又 聞いたら済むことなんですけど、結構そんなん聞かずともわかれよ、みたいな場所もあったりするじゃないですか。空気も。

キ そうですよね。社会からの要請で「男はわかれよ」みたいな。

又 根性ないんで、そういうのあんま聞けないんで。

キ あーそんな女性がいたらもう素敵!!

又 素敵ですよね。

キ 居酒屋の過ごし方でいったら、『火花』に、知らん人のお会計勝手に払って、そのさまをサラリーマンが微妙な表情で出て行くのを見るみたいな(描写がありましたが)、あれってああいう遊びがあったんですか?

又 いや、それに近いことやったことはありましたけどね。

キ あれ存在しなかったら、思いついたらヤバすぎると思って。自分の中に積み重なってるものって、今のはエピソードっぽいものですし、自分の中に積み重なってる思想的な部分と、どっかでプールしてないと、すっと出せなくないですか?

又 そうですね。

キ メモったりします?

又 メモったりもしますけど、小説の場合はもうずっと長い時間書いてるから、何となく引き出されてくるというか、待ってる時間が結構ある。「さっきまでの俺、こんなこと知らんかったよな」みたいなのが書いてるときに色んな記憶とかが結びついて、こうなんかもしれへんなっていうのが出てくるから、それが結構面白いですけどね。

キ そっか、ぼくラジオでエピソードトークみたいなの全然できないんですよ。だからいつもシモの話に逃げてるんですけど、書くと、手を動かすと引っ張られるものって結構(ある)。

又 思い出したりとか。

キ なるほど、いいこと聞いた。良かった。

又 それはあるかもしれないですね、書いてたら。

キ 体動かすと、何か奇跡起こることありますよね。

又 ありますね。歩きながら曲作る方多かったり。

キ そうですね。トイレに行くっていう行動だけでハッとなったりとか。不思議、人間の体。

又 そうですね。

(メール、お二人は作品を生み出すお仕事なので、作業に没頭する時間がかなりあると思うのですが、いつもこれを飲むとか、これを食べながら作業するとかありますか?)

キ 作業のお供(ありますか?)

又 あ〜ようコーヒーは飲んでますね。

キ かっこよ。

又 コーヒーですか?笑

キ 文章書くから、耳とか自由じゃないですか。何か流したりします?

又 流すときもありますね。

キ 特にこだわりはない?ぼく何か変な擬似科学とか、嘘のスピリチュアルな話とかしてる、再生回数200ぐらいのおじさんのYouTubeとかめっちゃ観るんですけど、その中身が空っぽだけどいっぱい飾られてる、おままごととかぼく大好きで子どものおままごとに付き合うのが好きなんですけど、意味がないんだけど外だけがいっぱいあるものって結構ほっこりするというのがあって。そういうほっこりをしながらじゃないと書けなくなっちゃった。笑

又 そうなんですか!?

キ そういう、手放せないみたいなのないですか?

又 寝る前によく見るのは、それも寝る前やけど何か思いついたらいいなとか思いながら寝ることも多いんで、でいうと家建てる動画とか。

キ あー!単純作業系の匠の仕事を観る?

又 観るの好きです。海外の、何もないところから(建てる)とか、古民家をリノベーションしていくのを何日間もあるやつを観ながら、自分のこと考えたりするの好きですね。

キ それで何かパッと浮かぶ瞬間あります?

又 ありますね。

キ 頭空っぽになってるのがいいんでしょうね、たぶん。

又 そうですね。音楽聴きながらやるときもあるんですけど、書く前に散歩するときに音楽聴いたりとか。それは自分が今取りかかってる仕事に合いそうなセットリストみたいなのを作って、それを聴きながら楽しみながらやる感じですかね。

キ そっか〜。頭空っぽにするもの、ぼくもボロ屋敷の掃除の動画とか、めっちゃ観ちゃう。

(CM)

キ 又吉さんともそろそろお別れのお時間でございます。初対面でしたが、すごく面白い話をしていただいてありがとうございます。

又 楽しかったです。ちょっといつもの感じが出せてないんじゃないかなと思って心配なんですけど。

キ 10回ぐらいしかやってない適当な番組ですので、ここでぼくファンというかリスナーにナメられているきらいがあって、「下ネタの話一辺倒にしてるミュージシャンなんだろ、所詮」みたいに思われてるんで。ここで幅を、こういう一面を。笑

又 こういう一面もあるぞと。笑

キ 今日は教育番組かもしれない。

(メール、地方私大に通う自分には、今日の内容が難しかったとの内容)  

キ これは自分が学歴コンプくすぐっちゃってるから申し訳ないけど、大学は関係ないですよね、これは。

又 難しかったんかな?

キ 難しかった?でも、ものを作ったりしたら、それこそ『火花』でも最後、「1回お笑い(の)舞台に立ってみてほしい、その経験をしてほしい」みたいな一節があって、それめっちゃわかると思った。ぼくも音楽を1回作ってみてほしい。「音楽をこれからずっと作って
いけよ」ではなく、聴き方がわかるようになるから作ってほしいと思っていて、だから音楽理論を初心者にわかるように教えるYouTube配信とかやったりしてたんですけど、後進の育成とか興味あります?

又 1回やってみたら単純に楽しくなるから、見るのも楽しくなるから、やってみるのもいいな〜って。

キ でも、お笑いをやってみるって、めちゃめちゃハードル高いのか。

又 一生の傷になる可能性もある。

キ アハハハ

又 皆を楽しませようと思ってやったことで、友達笑かしたかったけど、地獄みたいな目でこっちを見てる時間が生まれてしまう。

キ でも、その地獄を知ることで、お笑い芸人のすごさをわかって、それを見るのが楽しくなる。でも見ると古傷が痛むようになっちゃうかもしれないのか。

又 やってみるのはお勧めですけどね。

キ じゃあ、最後友好の証にベイブレード回しましょう。

又 回しますか?

キ せっかくあるから。笑

又 回し方ってあるんですか?

キ これもう、差し込んで引くだけなんで。
(やり方をレクチャー)

キ 3・2・1   (スリー・ツー・ワン)

キ・又 ゴーシュート!!

(終)

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・とても有益な回。医学ネタがほとんどなく、真面目なクリエイティブ論に終始した。ともに創作をされるお二人が、クリエイターとして、また鑑賞者としてどのようなスタンスで臨んでいるのかなど、とても興味深いお話が聞けて良かった。

・又吉さん、穏やかで丁寧な語り口。具体的な例えを交えながらのお話がわかりやすく、さすが芸人さんという上手さを感じた。一方、キタニさんはインタビュアーとしての進行に長けていた。自分の考えを述べながらも相手の話を引き出し、聴きやすく心地良いトークを展開されていた。『火花』にも触れつつ、持ち上げつつ、というのが見事。

・ただ、リアタイしながら、時々ん、、?となっていたのを改めて聴きながら文字にしてみて、キタニさんの意図する(投げかけている)内容と、それに対する又吉さんの受け答えに少し齟齬があると思うところが何箇所かあった。キタニさんもおそらくそれには気づいていらっしゃったと思うけれど、上手く又吉さんのお話に合わせていかれているなと感じた。その辺にも頭の良さがとても表れていた。

・キタニさんも話されていたけれど、音楽は小説とは消費者に届く最終形態が異なるので、より作品との距離の取り方が難しいのだと思う。
小説は、紙に印刷された文字の集合体として、無機質なフラットな状態で消費者の目に触れる。そして、読者それぞれの脳内の声で読まれる。だから、そこに作家の人間性はほとんど絡んでこない(又吉さんほど元々有名な方だと、そうともいえないが)。そして、一度出版されたら、本は本で独り歩きしていくようなイメージ。
一方、音楽は最終的にアーティストの声や身体を使って表現するものなので、必然的に温度感があり、そのアーティストと完全に切り離すことができない。
ご本人の声を通して発することに伴う責任のようなものが生じるし、消費者は作品(曲)+アーティストを常に一体化した状態で耳に(時には目に)するので、永遠に二人三脚というか。
ゆえに、例えばキタニさんなら、キタニ曲≒キタニさん自身の言葉・考えのように思えてしまう。熱心なファンであれば(見えているのはほんの一部だとしても)「こういう人生を生きてきた」「このようなお人柄」という背景まで込みで聴くから余計に。
だからこそ、「作品との距離を広めに取れない」というところにキタニさんの誠実さを感じて、やっぱり好きだなと思う。タイアップ曲でも、作品・主人公に自分が共感できる部分を探して作るというところにも、それが如実に表れている。
(↑このセクションを2日ほど考えていたんだけど、結局上手く語れなかった。思考がぐちゃぐちゃ、言語化下手すぎて自己嫌悪)

・ほかの方を引き合いに出すのは心苦しいけれど、過去に純愛系・モテない男を主人公にしたような曲をよく書いていた方の不倫が報じられた際には、「全部嘘だったんだ」みたいな声を多く見かけ、それはそういう反応になるかもなと思ってしまった。聴く側はどうしても曲の向こう側にアーティストを透かして見てしまうから、ご本人の実像や思想と乖離がありすぎると信頼を損なってしまうのかもしれない。

・それで作品の幅が狭まってしまうとの懸念も示されていたけれど、私はキタニさんの楽曲には十分すぎるほどの幅があると思う。最近の曲も多彩で魅力的でいつも驚かされている。『ずうっといっしょ!』などは女性目線でもあるため、それがキタニさんの恋愛に対するスタンスとは全く思わないし。

・だから、私としては今のキタニさんの楽曲との距離の取り方はすごくいいなと思っている。好き。信頼している。作る側には常に悩ましい問題なのだとは思うけれど。

・それにしても、又吉さんの良き鑑賞者たり得ようとする姿勢、素晴らしいな。そうありたい。キタニさんの、クリエイターだからこそ消費者・鑑賞者としても色々気になってしまうというのもよくわかる(全然クリエイターでもないのに)。たぶんご自身に厳しく、ハイクオリティな制作を念頭に置かれている上に、物事を常に俯瞰できる方だからなのだろう。

・あと、居酒屋さんでの女性のおかわりの話がとても良かった。情景がありありと浮かんでドラマティックだった。終電逃す覚悟で、まだあなたと一緒に飲みたいですよって、そういう形で示せるの素敵だと思った。

・お酒の場はやっぱり良いコミュニケーションが図れるし、人となりも表れると思う。私はペース合わせるとかより、残り少なくなったら次を気にかけてくれる人がまず好き(社会人なら当然ともいえる)。それと、大人数のとき話に入れていない人がいたら、隣に行ってさりげなく話しかけるような人。自分もなるべくそうする。私は飲むと楽しくなっちゃうタイプなので、そういう人の方が心地良いなとかもある。 

・注文に関していえば、キタニさんのポテサラ好きが知れたの嬉しい。ということはさておき、海鮮居酒屋なら(相手の目を気にして)刺し盛り頼んじゃうというのめちゃくちゃわかる。私もそう。その役目は私が引き受けるから、相手には好きなもの頼んでほしい。
初対面だとしても、どんなお店で何を注文されても、それで引くことはないので。
居酒屋コミュニケーション考えたらもっといっぱい出てきそう。  

・とにかく良い回だった。いつもこういう感じでもいいなと思ったけど、それだとキタニさんのプレッシャーとストレスが増大してしまうかな?医学やぼざろを語っているときが解放されていて楽しそうなので。
今回こそ「#キタニタツヤを称賛せよ」を使って褒めちぎるべきたったのに、つい忘れてしまった。すみません。ここで絶賛しておきます。またこんな知的回を待っています。

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