韓国ドラマ「ロマンスは別冊付録」に隠された仕掛け

(長いうえに超個人的見解であることを了承の上お読みください!)

わたしの2021年は韓国ドラマとともにあった。
王道の愛の不時着からスタートし、話題のヴインチェンツォ・海街チャチャチャ。ストーリーの新鮮さに惹かれて計30本ほど視聴した。

今年の初め、韓ドラデビュー3本目となった「ロマンスは別冊付録」。
イ・ジョンソク主演のお仕事恋愛もの。最近になって、なんとなく見返していたところ、もしかしてこのドラマは複数回の視聴を前提に作られているのではないか?という疑問がわいた。何がそう思わせたのか、思うままに書いてみたい。

1回目の視聴で捉えていたストーリーはこうである。社会の理不尽さに直面している女性が再び自分の人生を取り戻そうと、社会復帰を目指すドラマ。
幼馴染のチャ・ウノ(イ・ジョンソク)が一途に思うものの、ヒロインであるカン・ダ二(イ・ナヨン)は鈍すぎるゆえ気持ちに気付かない。恋愛は果たして成就するのか!と物語が進んでいく。
ヒロインは新しい仕事に新しい恋と、自分の人生をリスタートさせていく。

人生で韓ドラ3本目と、ほぼ初めてだったこともあり、「韓国ドラマってこんな社会派もあるんだーおもしろいなー」とふわっとした感想を持ちつつ、
ダニさんが妻・母親というステレオタイプな性別役割から脱し、一人の女性として自分だけの人生をどう切り開いていくのかという点がメインテーマだと思い視聴していた。そこでチャ・ウノというヒーローはヒロインを支える役割を担っている。

しかし視聴した方は不思議に思ったことはなかっただろうか。

Netflixのサムネイルには簡単なあらすじが付記されている。
ロマンスは別冊付録のあらすじはこうだ。

”記録的な若さで編集長の座についた天才作家と、どうしても仕事が欲しい元人気コピーライター。出版社の中でつづられるのは、どんな小説よりも甘く切ない恋物語。”

Netflixより

確かにダニさんの鈍さ、ウノの報われなさを思うと切ないけれど、
”どんな小説よりも甘くて切ない”ほどなのだろうか?
ダニさんの新しい恋を視聴者が楽しむ恋愛ものなのに「どんな小説よりも甘く切ない」と言うほどだったのだろうか?
自分の中でどこか消化不良なドラマだった。

現在2回目を視聴している。
そして気付いた。
「ダニさんに感情移入しているときは見えない物語がある」と。
ウノの切なさ、恋しさが見えた時、この作品の奥深さを感じた。


ウノには両親がいない。いつ亡くなったのかまだ確認しきれていないが、かなり幼い時から天涯孤独な日々を送ってきてたはず。
そして出会ったのが、破天荒な年上のお姉さん、カン・ダニ。
孤独な幼少期を送っていた彼にとってダニさんは家族みたいな存在で、どこか生きる支えになっていたのだと思う。

多感な思春期、大切な人が結婚相手として連れてきたのは、ダニさんのことを思いやっている様子がなく身勝手で失礼な男ドンミンだった。親に愛された記憶が薄いウノにとっては、身近な大人のロールモデルがダニさんであり、彼女の幸せこそ自分の目指すべき幸せだと無意識に考えていたんだろう。ドンミンはダニさんを思いやっている様子はなく、結果ウノは自分自身を含め大切な人が大切にされる経験が薄い大人になっていく。2話で「愛が分からない」と言った理由はこの辺りにある。

酔った日に立ち寄った家でダニさんは幸せそうな日もあれば、一人泣いている夜もあったと。密かに思いを寄せていたからこそ、幸せそうな姿も傷ついている姿も辛かったと思う。結婚した女性のもとに異性であるウノは簡単には近づけない。門の陰から声を聴くことしかできなかったんだろう。そうして”恋しさは募”っていった。

カン・ダニという人に異性として惹かれるだけでなく、ウノには孤独な生い立ちの救いの存在でもある。つまり大切な人の幸せを願うとともに、孤独を救ってくれる存在がそばにいない、満たされない孤独を感じながら生きている一人の人間である。

ウノを主人公と捉えると”どんな小説よりも甘く切ない恋物語”だ。
この人の寂しさを思うと、泣きそうになる。


(後半の甘々っぷりから忘れがちだが、冒頭のウノはダニさんに対して態度がやや尖っている。口調もきつい。満たされないことからくる苛立ちだろうか。)

このドラマに隠された仕掛けはこうだと思う。
1話、ダニさんのハードモード人生を延々と浴びて、ダニさんに感情移入する頭になる。パッケージの可愛らしさとイジョンソクという旬の俳優さんの出演もあって女性視聴者の多さが予想されるし、ダニさんの主婦とキャリアの難しさに共感する現代女性は多いだろう。
理不尽な社会と戦う女性と、女性を癒す年下イケメン彼氏という構図。
ありがたい構図。笑
視聴者はダニさんを社会に疲れた女性=自分に重ねながら見ることができ、するとウノの物語は意識されないまま進んでいく
ウノの物語は女性の社会復帰と新しい恋をテーマにしていると思い込んでいると見えてこない物語ではないだろうか。
これらが複数視聴が前提と考える理由である。

複数視聴によって視点を移すことを意識的に行えばもう一つ別の物語が展開されている。前述した通り愛を知らない男性が安らげるを場所見つけていく物語だ。そこにはたくさんの切なさが内包されている。


噛むほど面白みが増すスルメみたいな作品。それは本を読むという行為に似ている。このドラマ自体が1冊の本のようだと思った。

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