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白雪姫の「毒リンゴ」とはいったいなんなのか?

イントロダクション(2024/5/13 一部変更

新しい動画の編集作業に没頭していたら、すっかりノートを書くのを忘れてしまっていた……
しかし、動画を編集・推敲していると「あれ?これってどういうことだろう?」とか「これって、どこかでみたような?」というような発見を度々することがある。
今回も「あれ?これって?」って思ったことがあり、編集作業に疲れたら、そちらについての考察をして息抜きをしている。
今から書くことは、ハッキリとした裏付けがある箇所もあるが、まったくない部分もあるのだが、記録として記憶として、今後の役に立つかもしれない断片的なパーツを乱雑に組み合わせただけの粗悪な考察を、ダラダラと書き記していきたい。
そう。ダラダラとである。いつも僕はこの作業を脳内でおこなっているのだが、今回はダラダラと言語化していくことにする。ダラダラという意味は、スクロールするとすぐにわかるはずだ

ポンコツ王子のミスリード

前回の記事でも触れたように、いま白雪姫に関する動画を作っている最中である。その動画に関しては、前回の記事内にリンクを貼ってあるので興味のあるかたは見ていただけると幸いです。

さて白雪姫について知らない方は少ないかと思うが、簡単にあらすじを述べると

・美を追求した継母(母親)である后によって、娘である白雪姫を殺害するために、森に置き去りにされる。
・良心のある狩人によって助けられ、白雪姫は七人の小人の家で居候することとなる。
・小人の家で白雪姫が生きていることがわかり、后は白雪姫を殺害するためのアイテムを持って訪ねる
・白雪姫は三度殺される。うち、二回は小人の手によって救出されるが、三回目の毒りんごによる死は救済できなかった。
・死んでしまった白雪姫はガラスの棺に入れられ、管理される。そこに王子が現れ、白雪姫をもらい受ける
・王子の従事によって、白雪姫の身体から毒リンゴが排出され、白雪姫は蘇る。
・后は、熱せられた鉄の靴を履かされて、死ぬまでダンスを踊らされる。

というような流れが、現在広まっている一般的な白雪姫である。
ディズニープリンセスの白雪姫は、また少し内容が違うが、それはリライトされているものなので、今回の話からは一旦おいておくことにする。

それで、今回注目するべきところはどこかというと「白雪姫が毒リンゴを吐き出し蘇る」という箇所である。

現在広まっているグリム童話完全版において、白雪姫はどのように蘇るのかというと

「白雪姫が眠るガラスの棺を、従事が担いで移動している最中、木の根に足を引っ掛けてしまい、その衝撃で口からリンゴが飛び出す。」

というものである。これが初版版は少し過激で

「死んでしまっている白雪姫の世話をさせられることにストレスを感じた従事が、白雪姫の背中を強く叩いことで、口からリンゴの芯が飛び出す」

というものである。正月の雑煮の餅を喉につまらせてしまったときのような対応である。ただ、この従事はそういった対処療法ではなく、本当にイライラしてやったことである。少女の背中をそんな感じで殴ったら、本来であらば大変なことになるであろう。

さて、この2つの方法。どちらも王子は一切関わっていないことにお気づきだろうか?ディズニープリンセスの白雪姫は、王子がキスをしたことで蘇ったのでグリム童話の白雪姫も、当然王子が助けていると思っている方もいるかもしれない。それは大きな勘違いであり誤解である。

グリム童話のなかに「カエルの王子」という話があり、その王子は姫のキスによって人間に戻る。なんていう事が巷では流布しているらしいが、グリム童話のなかにそのような話はない。
このあたりも映画などの影響によるが、キスをすることで何かが起きる。ということも、実は元ネタが他にある。が、今回は趣旨から外れるの別の機会にする。
(以降、こうやって脱線するかもしれないが、これも自分用の記録でもあるので、雑音だと思っていただけると幸いです。

それで話を戻すが、そもそも、王子は小人たちに白雪姫を貰い受ける際「白雪姫を助けます」とは一言も言っていないのである。彼が口にしたのは

この死体を売ってくれ」と「一緒にいない生活なんて考えられない」である

こういった言動から、本当は恐ろしいグリム童話では王子のことを「ネクロフィリア(死体愛好家)」として物語を展開している。

しかし、僕はこの王子はネクロフィリアではないと考えている。それではなにかというと、おそらく「ピグマリオンコンプレックス」つまり、人形偏愛者ではないかと考えている。

これに関する考察も本中に関係がないので割愛するが、この王子が登場する前後の場面で「死体」というワードなどが飛び交っていることもあり、我々にも「白雪姫は死んでいる」と印象付けられている。
しかし、白雪姫復活に関する事象をつぶさに観察していくと、実は、彼らによって我々はミスリードさせられていたのではないか?もしかしたら、白雪姫は死んでいなかったのではないか?白雪姫という物語の原型はもっと別の形をしていたのではないか?ということを、歴史的文献や民俗学的知見から考察していくのが本記事の主題である。

マナとは


グリム童話が刊行されるにあたり、グリム兄弟は多くの語り部から物語の聞き書きを行っていることがわかっている。
白雪姫を教えてくれた語り部のこともわかっていて、ハッセンプフール家の「マリー」だとされている。以前は「マリーおばさん」と呼ばれていた別のマリーだとされていたが、近年の研究で違うことがわかってきた。

それで、このマリーから聞き書きした白雪姫のベースとなった「雪白ちゃん」という物語は、エーレンベルク稿と呼ばれるものに収録されており、現在翻訳版が出版されているので読むことができる。

このエーレンベルク稿のなかに書かれた雪白ちゃんは、どのように蘇るのか?というと、雪白ちゃんの父親の従事の医者が蘇らせてくれる。
ところがこの医者、薬などの現代医術で治してくれるのかと思いきや

部屋の四隅に縄を張り

という、極めて医者とかけ離れた方法で雪白ちゃんを蘇らせる。どうしてこのような奇怪なことをすることになったのか?についての解説は、別の機会にするとして、はたして、このような方法で雪白ちゃんを蘇らせることは本当にできるのだろうか?

まず考えなければいけないのは、この呪術が一体何なのか?である。
ドイツをはじめとしたヨーロッパ圏ではキリスト教が一般的である。
しかし、キリスト教では呪術というのは禁止要項とされている。

旧約聖書 申命記 18章
9節
あなたの神、主の与える地に入ったならば、そこの諸国民の忌むべき慣習を見習ってはならない。
10節
あなたの中に、自分の息子や娘を火にくぐらせる者、占い師、卜占する者、まじない師、呪術師、
11節
呪文を唱える者、口寄せ、霊媒、死者に伺いを立てる者などがいてはならない。

一般社団法人 日本聖書協会 新共同訳

呪術者や、日本のイタコのようなものを 旧約の神「ヤハウェ」は禁じている。では、キリスト教の聖典 新約 はどうかというと

新約聖書 ガラテヤ人への手紙5章
19節
肉の行いは明白です。淫行、汚れ、放蕩、
20節
偶像礼拝、魔術、敵意、争い、嫉妬、怒り、利己心、分裂、分派、
21節
妬み、泥酔、馬鹿騒ぎ、その他このたぐいのものです。以前も言ったように、ここでも前もって言いますが、このようなことを行う者は、神の国を受け継ぐことはありません。

一般社団法人 日本聖書協会 新共同訳

旧約ほどではないが、魔術的なものに関し制約を課していることは間違いない。

では、エーレンベルク稿のなかのあの記述は一体何なのか?
これについてはグリム兄弟の著書の一つ「ドイツ神話学」のなかで指摘していることで一応の説明がつく。
この書籍の中で言及していることの一つに「昔ばなしのなかには、神話の残存がある」ということである。キリスト教が本格的にヨーロッパ各地に広まるまでには少し時間があった。では、それ以前ヨーロッパでは一般的に信仰されていたものはなにか?というと、日本と同じ自然崇拝。いわゆる「アニミズム信仰」というものである。

この方面から、医者の行う呪術について考察をしてみると、おそらくこれは「白魔術」の残存だという結論に到達する。
白魔術とは一体何か?某世界を代表するRPGゲームにも登場するものなのですぐにお分かりであろうが、人間の「生命力」に関係するものである。

白魔術の事に書かれた書籍「A History of White Magic」によると、白魔術の起源は「丘の上に祀られた祠の崇拝」遊牧民族たちにとって魅力的であった農耕民族が祀る「豊穣と植物を司る神々や女神」まで遡ることができると説いている。

僕のYoutubeチャンネルで過去に配信したもののなかに、世界各地の創世神話の人類創世に関する解説を行ったものがある、人類創世に関しては大きく分けて以下のように分類することができ

【穴】
創世神話の初期型である、ゴンドワナ型神話に多いモティーフ。壁画が、洞窟の最深部で多く描かれていることから、洞窟の壁の向こう側に別の世界があると考えており「自分達はそこからやってきたのだ。」と考えられている。

【土】
アダムは神が粘土から作ったとされ、シュメール神話に至っては、神々が自分達の仕事をしたくないので、人間を土から作ったと言われる。

【植物】
ゲルマン神話では、流木から人間を作ったとされる。神話学の中では有名な「ハイヌウェレ型神話」の起源となったインドネシアのセラム島では、人間はバナナから誕生したと言われる。少しややこしい変遷と、しっかりとした理解が必要だが日本人もこのカテゴリーに入る。

どうしてこのような話をはじめたかというと、実はヨーロッパ圏には穀物の女神というものがいる。ギリシャ神話に登場する「デーメーテール」だ。
彼女のことについて語りたいことはいっぱいあるが、本考察とは趣旨がズレるのでこれも、割愛させていただきたい。

地中海の島の中に「クレタ島」というものがあり、古代ミノア文明が栄えた土地だとされる。このクレタ島で信仰が厚かったのが「デーメーテール」だ

ギリシャ神話は、日本の古事記のと同じように歴史書と捉える話もある。
その着眼点でクレタ島の歴史を考察すると、当時のヨーロッパには二つの神を信仰する人々がいたと考えられている。ひとつは「ゼウス」を最高神と信仰する民。もうひとつは「デーメーテール」を最高神として信仰する民。ギリシャ神話において、この二人の神は姉弟という関係であるが、ゼウスがデーメーテールと性的関係(近親相姦)を持つ。という描写が、ゼウスを信仰する民が、デーメーテールを信仰する民を屈服させた。という見方がされている。

このデーメーテール。穀物に関する女神とされているが、じつはヨーロッパの広範囲にて「穀物の母」と呼ばれる土着の精霊を大切にしている地域があことが、社会人類学者のジェイムズ・フレイザーの大著「金枝篇」にまとめられている。
そこから、古代ヨーロッパの人々が、穀物の神や精霊を今もなお丁重に扱っていることがわかる。
なぜなら、穀物の母をぞんざいに扱うと、それは飢饉へと繋がり、ひいては飢餓という未来が待っているからである。
つまり「豊穣や植物の神々や女神」に関係がある白魔術というのは、一言にいうと、【穀物の神のマナ(日本でいう霊力)を借りる秘術】と言ってもいいわけである。
穀物のマナを操作するという思想は、じつは日本にもある。詳しいことは機会を見てやりたいとおもうが、古きヨーロッパと日本の根底にある基本的な思想には、自然崇拝と、穀物の精霊への信仰が共通だという事が見えてくる。

白魔法「レイズ」は可能なのか?

ずいぶんと脱線に次ぐ脱線が過ぎてしまったのでそろそろ話を戻すことにするが、この穀物の母のマナを借りる白魔術で、死者を蘇らせることができるのか?というと、少なくとも僕は、そんな話を聞いたことも見たこともない。
マナは生きために必要なものである。つまりは、身体中にマナで満たされていないと人間は生きていけないのである。しかし、白魔術でマナを身体に補充することはできても、マナが身体を巡らせる機関が停止していては意味がないのである。時々、どれだけ回復魔法を唱えたとしても、治癒できない。というストーリを目にすることはないだろうか?
どれだけ大怪我を負っても回復魔法一つで治癒できていたのに、どうしてそんなことが起きるのか?それはマナを循環させる機能が停止仕掛けている者に、どれだけマナを補充しても滞るだけだからである。僕たちはこのマナを体中に循環させる機能、機関のことを「心臓」と呼んでいる。

では心臓が停止している死者に対し、どうのこうのして蘇らせる術はないのか?答えは「ある」。それは、一般的には白魔術と対立する「黒魔術」とよばれるものである。黒魔術の中には死者を操る「ネクロマンシー」がある。ドラゴンなクエストに登場する、ゾンビや死霊の騎士がそれにあたる。白魔術師は活動を停止した心臓の鼓動を戻すことはできない。
黒魔術師は停止した心臓でも、マナとは別の力を身体の中に循環させ、死者を動かすことができる。しかしそれは、本当の意味での蘇りではない。雪白ちゃんをゾンビにしてしまっては全然めでたくない。よって、医者の呪文というのは白魔術だと断言ができる

ということは、エーレンベルク稿の医者が行う呪文が白魔術だったとしたら、雪白ちゃんは死んでいないということになる。物語中にははっきりと「死体」と書かれているが、実際のところは死んでいてもらっては本当に困ってしまうのである。某ゲームのレ〇ズのように都合のいいものはないのである。

それではこの場面はどう解釈すればいいのか?白魔術と思われる呪術で雪白ちゃんは蘇る。これを打開する一つの手段として「死体のような〇〇」という便利な解釈を導入するのが一番手っ取り早い。本当に都合のいいものであるが、完全なる死体ではなく、一見すると「死体」に見える状態では大きく話が変わってくる。

例えば、死体に見えるほど生命力が乏しい状態。いわゆる虫の息な状態であれば、穀物の母のマナで生命力を回復させ、蘇らせることは理論的には可能であろう。ただ、この状態には一つ大きな障害があらわれる。

というのも、初版以降、白雪姫という物語の結末部分は、フェルディナント・ジーベルトから聴いた話に置き換えられ、また、二版以降の蘇生部分は、ハインリッヒ・レオポルド・シュタインの話に置き換えられたことがわかっている。つまりこれが何を指すかという

医者が呪文を唱える→背中を強く叩く→切株に躓く

という、変化をしているということである。

ここからわかることは、白雪姫の身体に起きている状態はそのままに、蘇りの方法だけが置き換わった。ということになる。障害というのはまさにこれのことである。

もし仮に、白雪姫の生命エネルギーとしてのマナが枯渇しているのであれば、背中を殴る。背中を突き上げるような衝撃という外的性ショックにより残っていたマナが失われ、ほんとうの意味で死体になってしまうのではないか?

以前、白雪姫のこの場面に対し、

「あれは、電気ショック的なことだったんだよ」

という意見をあげていた知人がいた。しかし、AEDは心停止時に作動する仕組みになっている。つまり、【電気ショック≒心停止】であって、マナが循環していないことになる。この状態を「死んでいない」と断言するというのはいささか無理があるだろう。

心の臓を止める方法

暗礁に乗り上げていると感じているかたもいるかもしれないが、じつはそうでもない。なぜなら、これまでしてきた考察というのは

「文字に書かれている通り、白雪姫は本当に死んでいるのか?」

という事に対しての真偽を確認するためのものであって、彼女を蘇らせる方法が正しいかどうか?の考察ではないからである。ダラダラとここまで書いてきたが、やっと「白雪姫は本当に死んでいるわけではなさそうだ。」ということがわかった。これでようやくスタートラインに立ったとも言えよう

では、彼女がどういう状態であれば救出できるのか?ということを今から考えていきたい。まず注目しなくてはいけないのは、「口からリンゴが飛び出す」と、白雪姫は息を吹き替えす。ということである。つまり、白雪姫は毒リンゴを食べたわけだが、

それが胃の中へと入り、内臓を経由して毒素が全身に回り死んだ

という事ではないことがここからわかる。では、このリンゴにはいったいどういう効果があるのだろうか?
シンプルに考えると、口にした者を「死んだように見せかける」効果があると考えられる。
では、死んだように見せかける。とはどういう状態を指すのか?先にも上げたように、死というのは身体のマナが尽きるか、もしくは循環しなくなった状態をさす。

白雪姫のマナは十分にあったことは間違いない。なにしろ、毒リンゴを口にするまでは健康そのものだからである。ということは、この毒リンゴの効果というのは

心臓を意図的に止める

ということができるものだということがわかる。しかも、毒リンゴは身体の外へと排出されると、また心臓が動き出すという優れモノである。
私たちの実社会にそんな便利なものはない。と、思うかもしれないが、一つだけ心当たりがある。勘のいい方であればお気づきかもしれない。そう「フグ毒」テトロドトキシンである
嘘か真か、このフグ毒にあたり、呼吸が止まり心臓が止まり、死亡診断が下されたにもかかわらず、数時間後に蘇ってくる。というケースを耳にしたことがあるかたもいるだろう。

一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター の2014年の記事によると


現在のところ、フグ中毒に対する効果的な治療法や解毒剤のようなものはありません。しかしながら、人体内ではフグ毒の排出が早いので、8時間ほど生命を維持できれば、回復に向かい後遺症はないとされています。万一フグ中毒に罹った時には、直ちに医療機関に連絡し、人工呼吸により呼吸を確保し、適切な救急治療が施されれば必ず救命できます。

という記載がされている「人工呼吸による呼吸の確保」というのがネックにも見えるが、都市伝説的な話ではそういったものがされているわけではないので、条件さえそろえば、一時的に死んで、後々蘇ることも可能である。と、いうことは白雪姫の毒リンゴの毒は、このテトロドトキシン同等なのか?一つ一つ確認していこう。

まず白雪姫が「死んだようになっている」状態は数時間レベルではなく、数日間。場合によっては数か月単位にも及んでいる。そんなに長期間体内に毒を保有していたら、さすがに心臓を再び動かすことは困難であろう。それにフグ毒の場合は、自然に毒を体外へと排出できるのに対し、毒リンゴはそういう系統のものではない。どこか一か所にとどまり、毒素を常に出し続け、常に体内が毒で満たされている状態を維持している。仮に毒リンゴに休毒日なんてものがあったら、白雪姫は自力で蘇ってきてしまう。

ということは、毒リンゴからテトロドトキシンのような神経毒が排出され続け、それによって意図的に心肺停止に追い込まれているわけではないことがわかる。

それでは、フグ毒のような神経毒以外で、摂取すると心臓の鼓動が止まり、それが取り除かれると、また心臓が動き始めるなんて都合のいいものはないのだろうか?

一つ、僕の頭の中に思い当たるものがある。それは、吸血鬼。ドラキュラの心臓に打ち込まれる「白木の杭」である。杭が心臓に打ち込まれると吸血鬼は活動を停止する。では、グリム童話が制作されたドイツで吸血鬼についてどう思っているのだろうか?

ドイツ圏の吸血鬼

正直言って、民俗学的知識と昔ばなしに関する知識は、一般人よりは多く持っているつもりだが、残念ながらこの手のオカルト的なこととなる、知識が殆ど無い。よってインターネットという文明の利器をつかい、ドイツ語と戦いながら調査を進めることとなった。

ざっとわかったことは、ドイツでの吸血鬼伝説というのは18世紀に頃から報告が確認されるが、その多くは南東ヨーロッパからもたらされたのものだということである。
具体的にはトルコ戦争が終わった1718年から1732年にかけて、吸血鬼伝説の話が報告されている。どうだろうか?この期間、長いだろうか?それとも短いだろうか?
「ドイツには吸血鬼(という概念)はない」と、どこかで読んだ記憶があったが、どうやら吸血鬼自体はドイツでも認知はされていたようだ。ただ、ドイツ国内で吸血鬼そのものはいなかったのであろう。

しかし、情報を集めていくうちに、ドイツには吸血鬼がいない理由にたどり着いた

1731年の12月 吸血鬼がいて困っている。という村に、グレイザーという名前の医者が派遣されることとなった。現地で調査を開始すると、長期間地下墓地で眠っていたにも関わらず、まったく腐敗していない遺体を発見し、彼はそのことについて報告書を提出した。
翌1732年1月に調査隊が結成され現地調査が開始されるが「そんなものはない」という報告書をあげた。
この結果には多くの波紋を広げたそうだが、先にも上げた通り、この年以降吸血鬼伝説は報告されることはなかった。

実は、このときに派遣されたグレイザー医師というのは、ペストを専門とした医者だということである。どうやらドイツでは、吸血鬼がいると報告が上がると医者・聖職者を派遣し、原因は「ペスト」ということで片付けていったようなのである。
というのも、吸血鬼だと言われ実際に調査した情報が集まりはじめると、その症状に一貫性がなく異なっているケースが多い事に気づいたのである。よって、医者や聖職者は「未知の感染症」ということで、十把一絡げにまとめてしまったのである。

そんなことが本当にあるのだろうか?「吸血鬼は感染症で亡くなった人」にわかに信じがたいが、それを裏付けるかのような資料をみつけることができた。


Aberglaube und Strafrecht

と、言っても、まぁ、読むことは難しいであろう……なにしろ、中期ドイツ語である…
これは、1897年 J.Radeという人物によって書かれた「Aberglaube und Strafrecht」と呼ばれる書物の一部抜粋である。
「Aberglaube und Strafrecht」を邦題に訳すと 「迷信と刑法」ということになる。

ここには一体何が書かれているのか?というと、実は、非人道的であり、場合によっては気分を害する方もいるかもしれないが、要約するとこんな感じになる。

・ユスティナ・ユシコフという女性が、流行り病「コレラ」で亡くなった。
・彼女の死後もコレラが蔓延し続ける。
・その村(町?)の医者ルプトゥオフが「これは、性的暴行を受けて妊娠し、身籠ったまま亡くなったユシコフの胎児が引き起こしている。墓の中にいるのに、どうしてそんなことが起きるのか?というと彼女の口が開いているからだ」と指摘する。
・人々は相手にしなかった、コレラが蔓延し続けるので、彼女の棺を掘り起こし中を調べることにした。
・彼女の子供の有無を確認。彼女の口が開いていることを発見する。
・彼女の口にトネリコの木で作った杭を打ち込み、彼女を再び埋葬した。

Aberglaube und Strafrecht 99p

本のタイトルにあるように、まさに迷信じみたことである。
つまりこの医者というのは、コレラの流行の原因は、同じ病で亡くなった女性の口が開いていて、それが放出され続けているからで、今すぐ口に栓をしろ。と言ったということになる。

この対応に関しては、一定の理解を示せないことはない。と、言うのも、19世紀以前は感染症といったら「空気感染」が原因だと考えられていた。
しかし、コレラは空気感染をしない。コレラは、コレラ菌に汚染された水や食料を口にすることで感染する伝染病である。

ユシコフの場合も、感染症のコレラであると医師は判断をつけた。しかし、「口に杭を打ち込め」という奇妙な診断をくだす。このことについてもう少し詳しく調べてみると、どうも本当に吸血鬼っぽいぞ?という患者に関し、主にドイツ北部の方では口に杭を打ち込む。ということをするそうだ。

と、いうことはドイツ圏内では、口に杭を打つ。口を塞ぐという行為は伝染病を流行らせないための対処療法だったと考えられる。

さぁ、勘の良い方であればもうお気づきだろう。白雪姫が毒リンゴをたべると、血色の良い、まるで生きているかのような状態で死んでしまう。
これはどうみても吸血鬼の特徴、そしてドイツで行われていた吸血鬼を蘇らせないための手段ではないだろうか?

ただ一つ違うことは、白雪姫は健康そのものだったということである。といことは、あの毒リンゴというのは、死を与えるものではなく、吸血鬼化させるためのものだったのではないだろうか?

であれば、エーレンベルク稿の雪白ちゃんのもとに医者がいて、その医者が呪文を唱えるという理由も納得がいく。なにしろ吸血鬼かどうかの調査は彼らに任されていたため、2つの要素が一つにまとまってしまったのではないだろうか?

だとすると、白雪姫の心臓は確実に止まっている。なにしろ死者が吸血鬼となるのだから、心臓は止まっていないと、今度は困ってしまう。

と、かなり長々ダラダラとここまでやってきたが、あの毒リンゴというものは一体どんな毒で、どんな効果があるのかの一つの仮説を立てることにしよう。

まず、白雪姫は本当に死んでいるのか、それとも、死んだような状態になっているのか?といわれた、どうやら白雪姫は死んでいるということで間違いなさそうだ。
では毒リンゴというものは一体なんなのか?それは、食べたものの心臓を強制的に止め、吸血鬼化させるというものだったのではないだろうか?
グリム童話が発表されたのは1812年。ドイツで吸血鬼伝説が現れ始めたちょうど100年後くらいにあたる。
ただ、白雪姫という物語はフランス由来という可能性があるため、純粋にドイツのそれらだけで話を片付けるわけにはいかないのだが、あくまでの一つの仮説として、100年ほど前に起こった吸血鬼伝説。そしてその対処方法の残存が、「悪性のもので口を封じられたことにより、まるで吸血鬼のごとく、生きているかのように死んでいる」という設定を生み出したのではないだろうか?

かなり雑なまとめとなっているが、冒頭にもあげてあるように、これは集まったピースを、乱雑につなぎ合わせただけの粗悪な考察なので、ところどころに穴がボコボコ空いているが、一旦ここで、毒リンゴについて考えることはやめることにしたい。

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