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超音速旅客機の復活なるか

 オーバーチュア(Overture)は、米コロラド州に拠点を置くスタートアップ、米ブーム・スーパーソニック(Boom Supersonic)が開発中の超音速旅客機です。技術実証機「XB-1」に飛行に成功、2023年1月にノースカロライナ州のピードモント・トライアド国際空港にオーバーチュア・スーパーファクトリーの建設を開始しましたが、2024年に製造を開始、2029年末から2030年までに就航する計画です。オーバーチュアは、64-80人の乗客を乗せ、高度6万フィート(約1万8300メートル)をマッハ1.7の速度で飛行できます。これは現在最速の民間航空機の約2倍の速度です。現在、11時間かかるアメリカ西海岸から東京の飛行時間を約6時間に短縮できる速さです。洋上ではマッハ1.7,陸上ではマッハ0.94で飛行します。オーバーチュアは、日本航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空の3社が予約注文(オプション契約も含む)しています。ユナイテッド航空は2029年までに旅客便を開始する予定で、最大50機を購入する契約に署名したことを発表しました。
 ハルシオンは、米ジョージア州アトランタに拠点を置くスタートアップ、米ハーミアスが開発中の極超音速旅客機です。ハーミアスは、音速の5倍のマッハ5の極超音速旅客機により、世界の航空旅客輸送ネットワークを変革するというビジョンを掲げ、2018年に創業しました。マッハ5は時速に換算すると約6,120キロで、超音速旅客機として知られたコンコルド(最高速度マッハ2)の2.5倍、世界最速の偵察機だったSR-71(同マッハ3.2)の1.5倍強の速さです。実現すれば、ニューヨーク~ロンドンの飛行時間は現在、6-7時間かかりますが、わずか90分です。ハーミアスには、オープンAIのサム・アルトマン氏などが出資しており、2030年以降の実用化を目指しています。
超音速旅客機には、コストが高い、燃費が悪い、ソニックブームという超音速による騒音や衝撃波の影響でUSなど多くの国で上空飛行禁止となった経緯がありました。今日のビジネスクラスの料金で利益を出せる見込みとのことですが、5倍のスピードで飛ぶのにお金を払うという人がどれだけいるかは未知数で、製品が世に出て、実際のデータが入手できるまでその問題の答えはでないかもしれません。航続距離が約6,400キロであれば、ニューヨーク発パリ行きなどの大西洋をまたぐルートは十分ですが、ロサンゼルス発東京行きのような太平洋ルートには不十分で、乗り継ぎが必要になります。ニューヨーク発ロサンゼルス行きなど、陸地上空の路線は騒音規制のため選択肢になりません。音速の壁を破ると轟音が発生することから、通常は海上上空を飛行するしかありません。また、必要なバイオ燃料の供給不足の問題もあります。
 成功の可能性や潜在的に多額の資金調達が必要になってくる点については懐疑的な見方もありますが、イーロンマスクのスペースXでも草創期には同じ疑問が出ていたように思います。軌道投入には10億ドルかかるだろうと言われていましたが、スペースXはファルコン1を使い、9000万ドルでそれをやってのけました。アメリカのベンチャー企業は、様々な課題をブレークスルーしてきました。今回もそれを私たちに示してくれるのだろうと思います。

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