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なぜクーデターがおきた?

ミャンマーで2021年2月1日にクーデターが起きました。これは戦後ミャンマーの歴史的には3回目です。今回は軍事政権から民主化されて10年になり国GDPが7%まで増え他国からの借金が減って海外からの投資が増えているのになぜここでクーデターを起したのでしょう?

スーチー氏に近い人の話しによると彼女は拘束に来るのを寝ずに待っていたそうです。またスーチー氏の戦友であるWin Htain氏(80歳)も同じく拘束されるのを知っていて荷物をまとめて待っていたそうです。これを見ると今回のクーデターは予測されている事柄であることがわかります。

クーデターが起きる前1月26日にミャンマー国軍の最高司令官Min Aung Hlaing氏(通称MAL)は2度に渡って2021年2月からの新政権の大統領の座を譲るように交渉してきたようです。2回目の会談のあとにMALの要求にスーチー氏は怒りを抑えられずに携帯を投げ捨てたそうです。軍の高圧的な態度に腹が立ったのでしょう。幾ら高貴なリーダーでもここまで不当な要求をされると怒ってしまうのは当然です。

2015年にスーチー氏が当選しスーチー氏の率いるNLD党が圧勝してスーチー政権が生まれました。この政府は民主化前の2008年に制定された憲法内でしか活動できません。2008年憲法で一番問題なところは議席の25%を軍人が予め占有することが決まっており、憲法の改正などの大きな法律の変更は76%以上の議席が賛成しないと行けないというのがあります。まさに軍人第一主義の憲法であります。また外国に血の繋がった親族がいると大統領になれないという法律もあります。これはイギリス人の息子二人の母であるスーチー氏をピンポイントにターゲットした法律です。それが理由でスーチー氏は大統領ではなく国家顧問という大統領より高い立場になって政治に参加したのです。それから軍、警察、国境警備は政府の管轄ではなく軍の最高司令官の管轄であるという政府が武装組織を管理できないという制約もあります。

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ミャンマーの議会の25%を軍人が占めている様子

MALはなぜそこまで大統領の座が欲しかったのでしょうか?MALは今年64歳で今年は軍の最高司令官を離任しなければならない年でもあります。軍の財閥企業が大繁盛してお金は置く場所がないぐらい持っていて引退後はパラオにそこそこ大きい島を買ってたくさんのメイドを雇って優雅な生活をすぐ始められちゃうレベルです。ミャンマー自体はそのままでも発展していくのでそっとその席を譲れば誰にも恨まれることはありません。若い世代の国民は軍に興味ないのでMALの名前をすぐ忘れてしまうだろう。

ただ、MALには優雅な生活ができない理由があります。それはロヒンギャ族の虐殺でICJ(国際司法裁判所)で訴訟されている問題です。2019年のICJの裁判でスーチー氏が国を代表して出席し、国軍の最高司令官の為に弁明しました。その挙げ句スーチー氏のノーベル平和賞が剥奪されてしまったのでした。当時は国民もスーチー氏にたくさんの応援を贈りました。スーチー政権は軍を管轄できないのにMALを守る為に裁判に出席した理由はミャンマー国軍と国民の間の深い隔たりを埋めるためだと僕は見ています。スーチー氏本人も講演会などでよくその話しをしてくれました。

それでもMALはクーデターを起しました。彼が欲しがったのはICJ裁判から逃れる手口です。大統領になれば国の代表権でICJ裁判を拒否することが可能になります。ただ国際的なやりとりに長けたスーチー氏がいればICJの裁判は穏便に解決できるはずですがMALは誰も信用できずにクーデターという乱暴な手段を選びました。Win Htain氏は拘束される前に彼も選択肢がなくやったのでしょうとコメントをしていました。

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2019年12月のICJ裁判に出席したスーチー氏への応援

軍の内部では最高司令官というトップの座を狙っている将軍がたくさんいます。2004年に当時最高司令官だったThan Shwe氏が当時軍のナンバー2であるKhin Nyunt氏をいきなり拘束して引退させたできことがあります。Khin Nyunt氏が失脚したあとは彼が管轄していた軍諜報部はすべて解体され、階級の高い軍人や重要な情報にアクセスできていた軍人は全員投獄されました。僕の二人の友人の父親も軍諜報部の解体に巻き込まれて一人は投獄され、一人は無職になり当分の間は海外に出ることもできませんでした。これらは軍内部では信頼できる仲間がいないと言う証拠です。

これがMALがクーデターを起した本当の理由です。また中国は国連の議決に対して拒否権を持っているのでICJ裁判でMALの首が飛ぶのを阻止できるという餌でクーデターを指南したという噂もあります。経緯はどうであれ普段から他人に対して不当な行いをしている人はどれだけ不安を抱えながら生きているか見て取れます。軍内部の大多数の人間は階級が上がれば上がるほどこの問題を抱えて生きています。


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