下書き

18の春。歌舞伎町。
家出をしたから卒業式には出られなかった。ネットカフェに泊まる金のために知らない男とホテルに行って、解散しようとしたときに着信がなった。スマホの画面に表示されたのは昔のメンヘラ仲間。
「もしもし、たくぞうさん?どうしたの」
「蝶ちゃん、久しぶり。久しぶりでこんなこと言いづらいんだけどさ、、」
久しぶりに聞いたたくぞうさんの声色はなんだか暗かった。
「耀一郎とつきあってたよね」
「すぐわかれたけどね」
「蝶ちゃん別れてからもずっと引きずってたし、言わなきゃと思って、落ち着いて聞いてほしいんだけどさ」
そう言ってたくぞうさんは少しの間黙った。
「ようくんがどうかした?」
「昨日首吊って死んだんだ」
突然の衝撃の言葉に私は膝からくずれおちた。
嗚咽を漏らし始めた私を横目に、私を買った男は服を着てホテルの部屋を出ていった。
17のときに、はじめてできた彼氏。
はじめてセックスしたひと。
ふいにリスカだらけの自分の手首を見やると、ようくんにされた根性焼きの痕がひとつ。
私が持ってる彼の形見はこの痕だけだった。
ようくんは、口癖のように死にたい死にたいと言っていた。
しかし私のまわりに集まる人間なんて皆そんなことを言っている。
だから、彼が本当に死ぬとは思ってなかった。
彼と川の上の橋をあるいてるとき、彼に
「一緒にここから飛び降りたいな」
と言ったことがある。
彼はとびきりのえがおで
「いいね、それ」
と言ったが、しばらくふたりでその場に立ち尽くすと、彼の方から私の手を引いて歩き出した。
座り込んで泣いていたら、ホテルのフロントコールが鳴り響いた。退出時間だ。
さっき身体を売った金でネットカフェに泊まる。毎日同じことの繰り返し。生きがいも楽しみも欲しいものもない。
あの時、道連れにしてくれたら、別れたあとの虚しい日々も、今の生活の苦しみも、味わわずに済んだのにな。
ホテルを出て歩いていても涙はとまらなかった。私は悲しいんだ。そう思いたかった。
認めたくなかった。心の奥底で少し喜んでいる自分を。
もう、ようくんは誰のものでもないんだね。
他の女にこれ以上汚されないんだね。
もう嫉妬しなくていいんだね。
その日、私はホストクラブに行って、ホストとセックスをした。
ようくんと別れてから、はじめて、心の中のなにかが満たされた。
退屈も空虚も悲しみも、ホストクラブに行けば全て満ちるのだと知った。
生活費のための援助交際は、ホストクラブで遊ぶためにするものに変わっていった。
毎日のように何人にも身体を売った。
いつのまにかデリヘル嬢になっていた。
ふとした時に虚しくなるのは、どうして?
遊び程度でやっていた市販薬ODにマリファナ。これ以上はだめだと思っていたのに、
いつのまにか、もっと危ないものに手を出して、ヤク中になった。


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