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わがままボディ

「ダイエット」という言葉がある。外来語として現代の日本で頻繁に使われるこの言葉は、基本的に「体重を減らす」「痩せる」「体を引き締める」などの意味で使われることが多いであろうと思う。

しかし、英語の名詞、dietが持つ意味は本来

1. 食べ物、食事、日常の飲食物

2. 食生活、食習慣

3. ダイエット、食事療法、治療食、規定食、節食
(英辞郎 on the WEB)

である。日本語とは非常にニュアンスが異なる場合で使われることも多く、"Rethinking your diet is a key to become healthier." は「食習慣を見直すことはより健康になるための鍵」という意味になるし、"She changed her diet."は「彼女はダイエット法を変えた」ではなく「彼女は食事療法を変えた」という意味になる。

わたしが日本語の文脈で使われる「ダイエット」に疑問を持ち始めたのはかなり前のことだ。おそらく高校生、中学生の頃からだから、人生の半分以上も疑問に思ってきたということになる。「ダイエット」という言葉を使うときはいつも「ダイエット」に対して懐疑的な態度を取っている時だ。


わたしは「ダイエット」をしたことはないが、「diet」についてはある程度は真面目に向き合って実行してきた方かもしれない、と思う。しかし、健康でいること、太らないことを意識してより正しい「diet」を行うために努めてきたというよりは、身体と心に対して敏感に、そして思いっきりワガママに生きてきただけのことだということは断言できる。もしかして、それこそが健康でいること、美味しいものをたくさん食べてもそこまで太らないコツなのかもしれないと、アメリカをはじめとした国々の食習慣に関するいくつかのドキュメンタリー映画を観て再確認した。

米国の危機的な肥満の増加の背景を追求するドキュメンタリー映画『FED UP』(2014年)では、戦後のアメリカの食生活の変化によって生じた肥満は、砂糖産業と加工食品産業の拡大、政府との癒着によって引き起こされた食習慣と食環境が原因だと主張する。

アメリカでは1953年までエクササイズは過度な運動とみなされ、心臓発作を引き起こしたり性的欲求を抑制する可能性があるとされタブーだったが、フランス人医師Jean Mayerの提唱による影響でフィットネス・レボリューションが起こる。肥満が出現し始めた1980年から2000年までの間に米国のフィットネスクラブの会員は2倍に膨れ上がるが、その間に肥満の人口も2倍に膨れ上がっている。そしてその10年後には、3人中2人のアメリカ人が肥満になっている。

映画はこのような背景の原因を問うことによって展開する。なぜ、肥満が増え始めた頃に政府や専門家があれだけ対策を練って運動の必要性を訴え、フィットネスクラブの人口も増え、店先にはローファット・ローカロリー商品が並ぶのに、その間に肥満人口は増え続けているのか?何かが間違っているのだろうか?

特に子どもの肥満は深刻で、30年前には肥満児は実は非常に珍しいものだったのだが30年間で一気に増加した。1980年には慢性的糖尿病を患う子どもは0人だったものの、2010年には5万7千人以上に膨れ上がったのだ。

「肥満を防ぐためには運動が必要だ」「毎食のカロリー計算は必須」「あなたが食べたものはあなた自身(What you eat is what you are)「食べた分だけ運動すべき」「太っているのは自己責任」「運動しても太っているのは意志が弱いからだ」という言説は間違っている、というよりも、そのような嘘を言って子どもを追い詰めるのはもはや犯罪だ、と多くの専門家は言う。

例えばカロリーについて。多くの専門家は、「カロリーはカロリーではない」と言う。どういうことかと言うと、仮に160キロカロリーのアーモンドを食べた場合、食物繊維によって様々な器官が大きく動き、カロリーはそこに消費されていくし、吸収の速度は遅くなる。しかしアーモンドの対極にあるソフトドリンクを摂取した場合、食物繊維や固形物が全くない液体のため、肝臓を通して直に脂肪となり身体に吸収され、その結果太るというメカニズムだ。つまり同じカロリー数でも、食べるものによって身体に与える影響は全く違うということである。

映画は実際に何人かのアメリカの肥満児の食生活や食環境を追う。太っているためにバカにされることも多い彼や彼女たちは、苦しみながら、時に瞳に涙を浮かべながら「ダイエット」に励むが、「ダイエット」を始めてからさらに太っていった子ばかり。子どもたちは大人に言われた通り、肥満が出現して以降呪文のように唱えられてきた「カロリーイン、カロリーアウト」の標語を守ろうとする。「カロリーイン、カロリーアウト」とは食べたカロリーの分を運動で消費すれば太ることはない、というものだ。しかし子どもが500mlのコーラのカロリーを消費するためには約1時間半自転車に乗らなくてはならず、わずか1枚のクッキーのカロリーを消費するためには約20分ジョギングをしなくてはならない。Mサイズのフライドポテトを消費するには、約1時間12分スイミングをしなくてはならないのだ。そんな時間と体力がある子どもはなかなかいないし、そもそも寝ているだけでカロリーは消費されるのだ、と専門家は指摘する。

彼らが太り続けていた原因はここにあったのだ。毎日「ローカロリー(低カロリー、カロリー減)」のソフトドリンクを飲み、「ローファット(脂質減)」のシリアルを朝ごはんに食べ、昼ごはんにはピーナッツバターとジャムを塗ったパン、またはホットドッグやハンバーガーなどのジャンクフードを食べ、後は摂取カロリー消費のために運動を強いられるという環境におかれている彼らは、自らが食べているものに対しての根本的な疑問を持つことなく肥満状態から抜け出せず、絶え間ない空腹に悩まされながらもどんどん太り続け、挙句には健康被害まで訴えている。

アメリカでは一度、1977年にマクガヴァン大統領が委員長を手がけた『栄養と人間欲求における合衆国上院特別委員会』によって、その頃出現を始めた肥満の原因が公的に突き止められている。委員会は肥満は心臓病の原因に繋がり、これからアメリカ国民にとっての最も発症率の高い生活習慣病になる可能性があるとし、またそこから生じうる医療費の増大を懸念して、砂糖、肉、脂肪、乳製品の摂取を控える報告書を発表し、国民の食生活の目標数値を掲げた。しかし「もちろん」、卵、砂糖、乳製品、牛肉産業が団結し意義を唱え、ロビー活動によって報告書からそれらの摂取を控える文言を削除することに成功したため、この指数や考え方はアメリカから完全に締め出され、代わりに「今までと同じか、それ以上に必要以上の肉やチーズや加工食品を食べ続けなさい。そして太りたくなければ運動すれば良い」という意見が大きく打ち出されたのだ。

「フィットネス」が流行り、「ローファット」という発想が大々的に広がり、それに応じて新しい産業が生まれたのが1980年代だ。考え付く限りの商品に新たに「ローファット」や「ローカロリー」バージョンが生まれ、「ダイエット食品」が店先に並び、人々はそれを買うことで安心してしまう。しかし「ローファット(脂質減)」「ローカロリー(カロリー減)」と謳う加工食品は脂質の代わりに実は人工甘味料も含めた砂糖を大量増加している。アメリカでは砂糖業界と国の(カネがからんだ)交渉によって、食品に含まれる砂糖の量を表記しなくても良いことになっている。食育を受けていない人々は砂糖産業や加工食品産業の思うまま、実はより肥満になる原因に繋がる食べ物を摂取し、太り続けているという現実があるのだ。実際、アメリカの国民は1977年から2000年の間、その前の期間と比べて2倍の量の砂糖を摂取している。

アメリカの食品会社は商品を売るために必死で広告戦略を練り、情報を正しく伝えず、コカコーラやペプシなどのアメリカのソフトドリンク会社やアメリカ飲料組合は自ら肥満に関する研究所を設立し、大金を受け取った御用学者が研究をすすめ、専門の研究者という立場を使って「ソフトドリンクとアメリカの肥満の因果関係の信憑性は低い」という論文を書いたりして、物議を醸している。映画では御用学者の一人に直接どうして信憑性が低いと言えるのかと尋ねたが、学者は全くうまく答えられてなかった。

また、レーガン政権下の1981年に子どもの栄養に関する予算から1兆円以上の削減を敢行したアメリカの学校給食は、2006年の時点で安く大量に仕入れることができるマクドナルドやピザなどの加工食品が市場の半数以上を占めており、また80%がソーダ会社との独占契約をしている(また、2010年オバマ政権下には給食に関する新しい決まりが作られたが、ミネソタの巨大ピザ会社があの手この手を使ってピザを「野菜」の項目に入れることに成功。アメリカの70%の学校給食を牛耳ることになる。そう、アメリカでは「ピザ」は野菜なのだ)。

街を歩くにもジャンクフードの店にぶつからずに歩くことはできない。電化製品を売る店、文房具を売る店、どの店にもレジのそばにはチョコレートやジャンクフードが置いてあり、そこには子どもたちの好きなアニメのキャラクターが描かれ、子どもたちの欲望をくすぐる。加工食品の人工甘味料を含めた砂糖含有量は言わずもがなで、例えばコーンフレークを砂糖なしで食べるのと、砂糖をコーンフレークなしで食べるのでは、味こそ異なるが代謝的には全く同じ量の砂糖を摂取していることになる。アメリカでは2015年には国民の3分の1が糖尿病、25年後には国民の95%が肥満になると言われている。

砂糖はコカインなどドラッグと同じ中毒性を持つことはマウスの実験でも明らかで、研究によっては中毒性は薬物の8倍とも言われる。映画では砂糖業界や加工食品業界をdemonizeする(悪魔として取り扱う、危険視する)べきだ、としてタバコの例を挙げていた。50年代にはタバコはクールでエレガントな嗜好品としてもてはやされていたが、健康被害への直接関係が明らかになってからはイメージは大きく変化し、今ではタバコ広告も禁止になった。専門家たちは、我々が時間をかけて正しいデータとともにタバコを危険視できるようになったように、砂糖に対しても同じ姿勢を取っていくべきだ、と主張している。(注:砂糖を一切摂るべきではない、と言っているのではなく、砂糖産業の政府との癒着によって引き起こされる国民の過剰摂取の問題を可視化する必要があるという主張である)

この映画ではアメリカの肥満を解決するのは「diet」であると主張している。加工食品とソフトドリンク、お菓子だけを食べる食習慣を変える。「ちゃんとした食事を作る=自宅で野菜や肉を炒めて食べたり、サラダを作って食べたり、トマト煮込みを作って食べたりする」ことが、アメリカの肥満を生み出す家庭ではあまり一般的ではないようで、少なくとも映画に出てくる肥満児の家庭の全ての親が子どもたちにシリアルやマカロニチーズ、冷凍食品、瓶詰めのスパゲッティソースなどを与えていた。子どもたちはカロリーゼロのコーラでそれを流し込み、ぶくぶく太っていたのだ。しかも加工食品は栄養価が低いだけではなく、少ない量でカロリーが高いためたくさん食べることができず、子どもたちはいつもお腹をすかせている。またそのような加工食品は食物繊維などが含まれていないので消化が早く、お腹が空いてしまう成長期の子どもたちはすぐに何らかのスナックを食べてしまう。

映画の後半で、14歳の過度の肥満で様々な病気を併発する可能性が危惧されている男の子が手術を要するという状態になるのだが、その手術が複雑死に至る可能性があるというもので、悲しみに暮れる親をうつすシーンがあった。結果的に親は何年かかけて息子のために家庭全体の食生活を根本的に変える必要があるということを知るのだが、泣きながら「チョコレートを家に置いたりしないことが息子を助けることに繋がるのなら躊躇なく息子を助けることを選ぶ。でもそれが本当に大変なの!」と言っていて大泣きしていたのが印象的だった。塩党で甘いものにそれほど興味がなく、野菜大好きのわたしにとってはチョコレートを食べないことで救える命があるのなら(しかも月に1回くらいはひと切れくらいなら食べていいはずだし)こんなに簡単なことはないと思うのだが、難しい人にはそれが本当に難しいのだ…。死んでしまうかもしれない息子のためにチョコレートを家に置かない習慣を作ることが…。(ショック)

この映画は日本未初公開だがツタヤなどで借りられるようなのでぜひ。

2010年のドキュメンタリー映画『Fat, sick, nearly dead』(デブ、病気、ほぼ死んでる)も「diet」を扱っている。この映画ではオーストラリア人の主役自身が太りすぎて病気になってしまい、死さえ身近に感じたことから、60日間野菜と果物のジュースだけを摂りながらアメリカ全土を周り、行く先々の街で会う人々や専門家と食生活についてのダイアローグを交わして健康な身体を再考していく。

続編も出たこの映画の良いところは、本人がみるみるやせて、そして元気になっていく様子をこの目で見られることだ。また、彼に関わる人々もどんどんと影響を受けて同じ食生活を始め、肉体的また精神的に健康になっていくところを見られるのは、視聴者としてもとても元気づけられ、やる気も出る。60日間野菜ジュースだけ飲むというのは極端な手法なので専門的なアドバイスの下で行うべきだと思われるが、『FED UP』のソフトドリンクのカロリーのメカニズムを逆利用しているこのジュースだけの食事は、食物繊維を取り除いた大量の野菜を一気に摂取することでビタミンやカロチンなどを効果的に身体に吸収させることで、手軽に、そして比較的時間をかけずに身体を元気にしていくという考え方に基づいている。そこまで太っていない人は、もちろん朝ごはんを野菜ジュースに置き換えたりして、週に数回作れば良いという。大事なことは、売っている野菜ジュースでは効果はゼロなので、野菜から自分の手で作るという点だ。

この映画でもやはりジャンクフードは控え、自宅で野菜を中心とした料理を作って食べることを推奨していた。(美味しい家庭料理がたくさんある日本の人には当たり前のように聞こえるが、アメリカの人々にはそれが結構難しい人も多く、食事は基本的に加工食品で済ませる人が殆どだった。中には「野菜が健康に良いのはわかってるけど、グロいから絶対食べない」と言っている女性もいた)

また、ジュース以外の食事も基本的には野菜を中心とした食生活を推奨しており、1日のカロリーの30-60%が野菜、10-40%が豆類、10-40%がフルーツ、10-40%が種、アボカド、ナッツなど、20%以下がジャガイモや小麦粉類、10%以下が卵、魚、無脂肪の乳製品、そして肉とチーズ、加工食品は同じグループに入れられ、「たまに食べるくらいがちょうど良い」という位置づけであった。

『Forks over knives』は2011年、アメリカの映画である。この映画ではアメリカの肥満の原因を探る2人の情熱的な研究者の半世紀を扱い、肉や乳製品、卵などの動物性食品を摂れば摂るほどガンを発症する確率が高まることを主張し、野菜中心の食生活を推奨する。

この映画は研究データを多く取り扱っているので、説得力はより強いように感じられた。特にT. Colin Campbell博士の研究と半生は面白く、アメリカで最も古い酪農家の出身で、戦後の多くの期間「牛乳は身体に良い」「カルシウムのために牛乳は毎日飲むべき」というスローガンの基礎となる研究をしてきた博士は、その後の研究によって自身の行ってきた研究が完全に間違っていたかを悔い、責任を取って大学を辞める。学校関係者、そして多くの乳製品機関から批判されたが、「牛乳は実は健康に良くない」という正反対の発見を貫き通している。彼は野菜中心の食事を続け、周りの人々、また肥満や糖尿病で苦しむ患者も取り込んで食事療法で健康を取り戻す人々を生み出し続けている。

日本もその影響を大きく受けているように、アメリカでは給食には牛乳が義務付けられ、朝の一杯の牛乳を飲むことは必須だという間違った生活習慣がいまだに信じ込まれている。「カルシウム」のため、「骨に良いから」という理由で牛乳は推奨されてきたわけだが、映画によれば、動物性カルシウムの牛乳は、摂れば摂るほど骨を蝕む。実際に、乳製品を摂る量が多ければ多い国ほど、骨粗しょう症の兆候とされる股関節部骨折患者の量は増えるというデータも紹介されている。

肉も同じである。1900年頃から肉はたんぱく質(プロテイン)を得るために人間に必要だという言説が生まれ、1950年頃にはアメリカの科学者のほぼ全てがその言説に賛同していた。しかしその後、Caldwell Esselstyn医師とT. Colin Campbell博士は重要な発見をする。肉や牛乳から摂る動物性たんぱく質は心臓病や肝臓ガンを引き起こす可能性がきわめて高いというものだ。

・1987年、アメリカの女性に比べてケニアの女性の乳ガン発症率は82分の1

・1958年、日本全土でのガンによる死亡者は18人に比べ、日本の2倍の人口のアメリカでのガンによる死亡者は14000人

・1970年代の中国農村部での心臓病リスクはアメリカに比べて12分の1の低さ、またパプワニューギニアに至ってはほぼゼロ

彼らはこれらの背景には、動物性食品の摂取量の低さがあると究明した。

また、ナチスドイツ軍に占領される前と後のノルウェーの心臓病と心臓発作による死亡率を見ても、占領の前と後で大きく数字が異なることがわかる。肉やチーズなどの動物性食品をノルウェーの国民が食べられていた1939年までは、増加する酪農と肉食文化によって死亡率は上昇を続けるが、ナチスに侵攻され、肉をはじめとした動物性の食物をナチス兵士に譲らなくてはならなくなった1940年からは心臓疾患による死亡率は一気に下降しているのだ(そして終戦後、また上昇)。

一年間におけるアメリカ国民一人当りの肉の消費量は20世紀はじめには54kgだったが、2007年には100kgになった。精製された砂糖の消費量は1908年には18kgだったが、1999年には全ての人工甘味料を含んだ精製砂糖の消費量は66kgになった。1009年には133kgだった乳製品消費量は2007年には274kgとなった。

 Colin Campbell博士は、ガンを持つ遺伝子というのは確かに存在するが、そのガンがより育つようにするのに働きかけるのが動物性たんぱく質だと言う。また、ヒトにとってたんぱく質は必要な栄養素だが、じゃがいもや米などが含む植物性たんぱく質はヒトが健康に生きるために必要な量をすでに持ち合わせていると言う。

また、加工食品を除いて、何を食べると身体に良くて、何を食べると身体に悪いという食物一つ一つに対しての二元論的なものの見方ではなく、摂取する組み合わせや量によって生まれるシンフォニー、ホリスティックなアプローチを研究の主眼に置いている、という博士の意見には心から頷いた。物事の多くはハーモニーだと思う。

ジャンクフードがあまりにも蔓延しているアメリカでは、どのような食事を作れば良いのかわからない人も多いため、映画のウェブサイトにはこの「diet」=食事療法の成功談やオススメレシピなども載っている。映画とともに、気になる方はぜひチェックを。


これらの映画の主張している内容が100%正しいとは思わないが、現代人がいかに太りやすく、病気になりやすい環境に置かれているかということはよくわかる。誰も、「ベーコンや牛乳が大好きで毎日摂取している」わけではないのだ。手軽に買えて、安くて、砂糖や油で脳みそに虚偽の幸福信号を送る。身体は毒に侵されて続け、ある時機能が止まる。その原因は食事のせいではなく、「運動不足」とされ、薬をもらい、同じ食事を繰り返してしまう。

昨年秋からTwitterで「ダイエット中」「ダイエッター」「ダイエット垢」と書いているアカウントを見つけて、30人くらいを長期にわたって観察していたのだが、日本の若い女の子の「ダイエット」はこれらの映画で推奨されているような方法とは異なっていることが多く、例えば週に数回ジョギングやランニングをする、という心がけは良かったりするのだが、「diet」すなわち食生活に関してはおそらく効果が期待できないであろうものが多かった。

多くのアカウントが食べたものをメモ代わりに投稿してカロリー計算をしているのだが、その内容といえば朝ごはんにイチゴヨーグルト、菓子パンまたはお惣菜パン、昼は唐揚げや冷凍食品の入った茶色いお弁当、夜はご飯抜き、または少なめでマカロニサラダや出来合いの食べ物など。含まれている砂糖や油、動物性たんぱく質に比べて野菜の栄養分がほぼ見当たらないことが見てとれる。彼女たちは少食を心がけているためにいつもお腹が減っていて、たまにケーキやお菓子を間食しては罪悪感に苛まれている。

簡単に言えば、

・一から手作りで作る料理が少ない

・野菜の量が極端に少ない

・お菓子や菓子パン、アイスクリーム、ヨーグルトなどを毎日のように食べる

人が多かった。

わたしは子どもの頃から驚かれるほど大食いだが、間食する習慣を持ってこなかったので(家に食べ物がなかったし、人もいなかったし…)、それが健康を害することのない食生活を歩めてこれた理由の一つだと思う。また、好きな食べ物も豆腐や野菜、納豆とお米。お菓子はたまに焼いたり作ったりするけれど、市販のものを買って食べる機会は殆どない。エミールが好きなのでたまにクッキーやポテトチップスなどを買うが(週に1回以下)、わたしは全体の10分の1くらい食べたら食べるのをやめてしまう。一方エミールは一度食べ始めると目の前からなくなるまで食べ続けるタイプなので、残りはエミールが瞬速で食べる。わたしはお菓子でお腹を膨らませるというのがあまり好きではなく、お腹が空いたらご飯に納豆をかけてお茶碗2杯がっつり食べるとか、カリフラワーをオーブンで焼いてレモン汁をかけて食べたりとか、きゅうりにごま油かけてバリバリ食べたりとか、どうもそういうのが好きなのだ。

これは日本にいた時から同じで、コンビニに寄ってお菓子やソフトドリンクを買うのもほとんどしないタイプだったし、スナック菓子やコンビニやスーパーで売られているようなデザートを食べるよりみかんとか豆腐を手軽に食べる方が好きだった。ケーキより和菓子が好きだし、そもそもお菓子は1週間に1回食べられるくらいで大満足で、ご飯に納豆の方が100万倍好き(しつこい)。なので新商品や街の新しいスイーツ屋さんの話などになると全く知識も興味もがないが、昼ごはんや晩御飯を人の2倍くらい食べても「ヤセの大食い」と言われ続けてきたのは単純に食の好みによるものだった。これでお酒飲まなかったら本当に健康的で良かったのだけれど。

わたしの場合は常に食べたいものを食べるようにしているので、たとえ目の前に豪華な食事が広がっていても、体調が良くなかったり気分が乗らなかったら味がほとんどついていない野菜などを料理から選んで取って食べるし、逆にお腹がすいていたら肉もパスタも大いに食べる。カップヌードルやハンバーガーだってたまに食べるし、美味しいとも思う。ただ、ちょこちょことお菓子を食べる機会がすごく少ないのと、基本的に粗食好きなのだ(味付けの薄い野菜と豆腐がご馳走)。無理をするどころか、自分の身体の調子と身体が本当に食べたいと囁くものに耳を澄ませて、好きなものだけを食べるようにしている。これは最大にワガママだからこそできることだと思う。

現代人に必要なのはもしかしたら、自分の身体に対していつも正直に反応し、最大にワガママに贅沢する、ということなのかもしれない。安いジャンクフードは手軽だが、カロリーが高い割に持続する栄養を与えてくれない。時間がなくても、お弁当ではなく良い豆腐を切って鰹節と醤油をかけたものや、アボカドを食べるというのはどうだろう。野菜は高いが、安くて栄養価の低い食べ物を食べ続けたその代償に払う健康被害や医療費はもっと高いのだ。

わたしは妥協を許さないので、目の前に高級なクッキーがあっても、家に帰って前日に農家から届いたカブを豆乳で煮て上質なオリーブオイルを垂らして上質なパルメンザンチーズを削ってはふはふと食べることでお腹を膨らませるまでは、その瞬間を待ち焦がれてその他の「その場をしのぐ」ようなものは受け付けない。高級ケーキもステーキも要らない。幸せは自分の好みを追求したところにあると思う。好みは食品産業のマーケティングや巷の言説によって簡単に左右されてしまうが、そういった戦略に踊らされず、とにかくワガママに生きることが健康につながると暫定的には思っている。

そして健康でなりたい体型のままで生きていられたら、「ダイエット」に悩まされたり、見た目のことばかり気にする時間を別のことにあてられるんじゃないか(余計な御世話だと思うけど、これは高校生の時から思っていた)。文学とかスポーツとか、社会情勢について調べたり映画観たりさ。

(この考え方はいつかまた変わるかもしれないので、その時はまた折を見つけて書きます)

(ちなみにわたしは20代後半までは痩せっぽっちでひょろひょろだったのですが、ロシアの血が入っている親の予言通り、そこから一気にしっかりした身体つきになりました。でもこんな風に変化していく身体も良いと思う。健康である限り痩せっぽっちだった自分も、もう痩せてはいない自分も、どの体型も好きです)

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【過去テキスト】

チェコ旅行記:第1部:

https://note.mu/minotonefinland/n/n40b3e1865234?magazine_key=mf53e59f9f07a

生きること、変わること、学ぶこと:https://note.mu/minotonefinland/n/n1655e6d0b206?magazine_key=mf53e59f9f07a
無知と戦う:https://note.mu/minotonefinland/n/nc9015ae3e8b9?magazine_key=mf53e59f9f07a
シネマ評:最近観た映画のまとめ:https://note.mu/minotonefinland/n/n7c86085fa78f?magazine_key=mf53e59f9f07a
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