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チェコ旅行記:第1部

友人のあっちゃんとチェコとドイツへの旅に行って一年以上経つのですが、ちゃんとした旅行記を書いていなかったのでここに記したいと思います(「ちゃんとしたもの」になるかは自信ないけど)。

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あっちゃんは大学時代に同じゼミ(宗教学研究室)で一緒だったイタリア在住の友達だ。初対面の日は山梨の合宿で二人で同じ部屋で寝ることになっている日という、今考えると結構パワープレイな出会いだったのだが、予測不可能なことにしれっと対応するところが共通しているわたしとあっちゃんはなんということもなく友達になり、あっちゃんは哲学、わたしはジェンダー研究というちょっと異色のテーマで卒論を書いて卒業し、その後はあっちゃんは大阪と京都、わたしは東京とパリに住んで学んだり働いたりしていたわけだが、同じ年に二人揃ってヨーロッパのはじっこ同士の国に引っ越し。旅のきっかけもなんとなく、「そろそろ会いたいねぇ」「イタリアに行くのもフィンランドに来てもらうのもアレだし、真ん中で会おうか」「チェコで」「ついでにドイツかオーストリアかポーランド行こう」「ドイツにしよう」みたいな感じでトントンと決まった。

チェコ(もしくはチェコ=スロヴァキア)という国にはかつてから興味があり、それはボヘミア王国やフス、プラハの春という歴史・宗教的キーワードやチェコヌーヴェルヴァーグ、チェコアニメーションなどの映画分野、そしてミラン・クンデラやカフカ、ボフミル・フラバルなどの文学作品の印象から来ているもので、色でいえば茶色や蘇芳色、季節でいえば晩秋、ボヘミア王国最盛期に中央ヨーロッパ中心地として花の街となったプラハの輝かしい豊饒と栄光に暗い影を落とすカレル橋に並び立つ冷たくごつごつしたバロック式の銅像、という実に勝手なイメージを持っていたのだが、秋に行けたことはとても良かった。

チェコとドイツをめぐった旅だったが、今回はチェコについてのみ記したいと思う。この旅行記は第3部構成となっているが、以下が各部のテーマ。

第1部 ビールとか旧市街地とかジョン・レノンとか

第2部 ビールとかチェスキー・クルムロフとか

第3部 スリーヴァヴィツァ(プラム・ブランデー)とかフスとかヴェレトゥルジュニー宮殿(プラハ国立美術館)とか


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第1部 ビールとか旧市街地とかジョン・レノンとか

空港からプラハの市内へはバスでおよそ30分くらい。21時頃に中央駅に着くと、フィレンツェから一足先に到着していたあっちゃんが迎えに来てくれて再開の抱擁。ホステルに荷物を置き、さっそくかんぱーい。

フィンランドに比べて安くて冷たくて美味しいチェコビールに感動。

食い意地のはったわたしは「お腹すいてないけどせっかくだからなんか食べたい…」ということで一人スープを頼んでみた。肉団子入りのヌードルスープ。

いいぞいいぞ。チェコ来たって感じがしてきたぞ。味気のない地味なコンソメスープをすすってみると、豊かな流れよ、ヴルタヴァの、広き水面は、今もなお、春には岸辺に花開き、秋には黄金の実を結ぶ、愛の河よ、しぶきあげて、流れゆくー!!とヴルタヴァの叙情的な調べが聞こえてくる。チェコ来たー。スメタナ先生の顔が目に浮かぶようだー。具も味付けも地味だけどスメさま作のテーマ曲は壮大。決して美味しいとは言えないけれどモラヴィアの穀倉、ボヘミアの森、豊饒の実りを捧げる百塔の都を感じる!

ビールは3杯ひっかけてぐっすりと眠りについた。

翌日はプラハ市内を散策。こちらは旧市街広場。

向かって右手にある教会がヨーロッパ随一の美しさを誇る宗教建築との呼び声も高いティーン聖母教会。ゴシック建築はヘルシンキではなかなかお目にかかることがないので豪華絢爛なその姿にドキドキ。好みというわけではないけれど世間でいうところのイケメンを目の前に鼓動が速まっちゃうみたいな感覚(ひどい)。バロック様式の内装天井画、ルネサンス様式の装飾も有名な建物。フィリップ・カウフマンが映画化した『存在の耐え難い軽さ』では、ヤナーチェクのチェロとピアノのための 『おとぎ話』がかかるサビーナの部屋からはこの教会を眺めることができた。

多くの教会やシナゴーグ、店が囲む広場にある名所といえば旧市庁舎。フランツ・カフカ賞の授賞式場としても使われているのこの建物(受賞者にエルフリーデ・イェリネク、ハロルド・ピンター、フィリップ・ロス、村上春樹、ハヴェル元チェコ大統領など)の北側の壁に取り付けられた 15世紀初期の傑作の天文時計。

ぴかぴかでおっきい!(感想)

1時間毎に動く仕掛けのからくり時計はまさにおとぎ話の世界に出てくるかのよう。この天文時計が作られたのは 1410 年。1411年にカトリック教会から破門され、1415年に火あぶりの刑に処されたフスは果たしてこの輝かしい時計を目にすることができたのか…。

悲しい最期で生涯を閉じた宗教改革者ヤン・フスの銅像があるのも旧市街広場。彼の死後から500周年目にあたる1915年7月6日に建立されたそう。フスの話はまた第3章で。

旧市街広場の北部はユダヤ人居住区。10世紀頃ユダヤ人商人がプラハ城近くに住み始めたのを契機に13世紀にはユダヤ人居住区が形成され、17世紀からは「プラハのゲットー」と呼ばれるようになり、裕福なユダヤ人たちの代わりに非ユダヤ人の下層民が住み着き貧民窟と化した。この地域は現在別称ヨゼフォフと呼ばれるが、それは19世紀半ば、皇帝ヨゼフ2世による解体と再開発が行われたからである。取り壊しを免れた6つのシナゴーグと旧ユダヤ人墓地を含め、今もユダヤ系チェコ人が暮らす街はアール・ヌーヴォーやネオゴシックなどの建築も見ることもできる。7万人以上のナチス被害者の名前と死亡年月日がびっしりと壁に書き込まれたピンカスシナゴーグや世界遺産に登録されている現在も使われているヨーロッパのシナゴーグ最古の旧新シナゴーグなど見学したかったけどチケットが結構高くて、検討した結果今回は見送ることとした。でも本当はシナゴりたかったな。次に機会があれば必ずシナゴりたいと思う。

旧市街広場に隣接した聖ミクラーシュ教会の先にはフランツ・カフカの生家跡がある。1階に小規模のカフカ博物館、目の前にはカフカカフェもあった。ヨゼフォフが輩出した最大の著名人であるカフカは生涯の大半をこの地区で暮らし、この地を舞台とした物語を数多く書いた。

新市街の中心を走るヴァーツラフ広場は最も商業化された繁華街だが、抗議運動や祝典を行う集会場としての歴史も持つ。プラハの春ののち、1968年8月20日に民主化の改革を阻止するためにソ連が軍事介入を決行し、チェコスロヴァキア侵攻(チェコ事件)の舞台となったのもこの広場である。国営放送は国歌ヴルタヴァを流し続けるのみで対外的には何のアナウンスもせず、国際電話やニュースの外信用テレックスも封鎖され、唯一規制出来なかったアマチュア無線からの発信と、交信に応じた局や傍受したBCLによって事件は全世界の知るところとなった。『存在の耐え難い軽さ』では、ソ連軍の戦車が石畳の狭い道を押し進むシーンや、不当な弾圧に対して抗議の声を叫ぶ民衆や火炎瓶を手にスローガンを叫び続ける若者を世界に伝えるためにカメラのシャッターを切り続けるテレサが描かれている。ソ連の侵攻および占領に抗議して。プラハの春の英雄と呼ばれるヤン・パラフが焼身自殺したのも、ヴァーツラフ広場である。

わたしたちが結構好きだったのはヴルタヴァ川を渡って南西へ進んだプラハ5の地区だった。このあたりは観光客はほとんどいなくて、街にある何気ない建物を観察しながらぼんやりと歩いたり、地元の人々から愛されるようなカフェでまったりとする時間を過ごした時間も多かった。

カレル橋を渡って、南西へ。渋い赤のトラムがプラハっぽい。わたしの想像していたチェコの赤だ。

これ何数字だろう?ヘブライ文字かな?(情報求ム)アールデコに中世っぽさの融合という奇跡的なチェコ的物象を見かけるたびに、ボヘミア王カレル1世の神聖ローマ帝国皇帝カレル4世即位万歳!と心の中で感極まってしまう自分がいた。

カンパ島にあるこの『ジョンレノンの壁』は80年12月に凶弾に倒れたジョン•レノンに対し一人のチェコの若者が弔いのために十字架とジョンの名前を書いたことが始まりとされる。世界中から訪れる人によってそれぞれが重ね合わさるようにして書かれたメッセージは壮大なアートの壁になり、2003年 12月 11日にはヨーコ・オノがこの壁を訪れ、メッセージと「 YO」 を書き残したそうだ。この写真を撮った1ヶ月後にはビロード革命25周年の節目にとプラハのアートスクールの学生によって壁は真っ白に塗り替えられてしまったけれど、わたしたちが訪れたときにはジョンへの愛と、音楽と平和への思いと、柔らかな日差しと、ジョン・レノンの曲を奏でるギター弾きの歌があった。

ジョン・レノンの壁から少し歩いたところにある可愛いカフェが静かでラブリーでとても良かった。フィンランドだったらコートに手袋にと防寒が必要な時期だったけど、プラハではまだオープンテラスでオッケーという環境に感動したのもあるかもしれない。

もうもうもう!ってくらいに散りばめられた花とか、ふわふわの皮がかかった椅子とか、床に集められた旬のかぼちゃとかが最高にチェコだった。

ところでどの店に入ってもあっちゃんが店員さんの対応の良さと静かさに驚いていたけど、「イタリアに住むとこんなことにも感動しちゃうのか」とイタリアに恐怖心を覚える旅でもあった。

チェコのことを少しずつ知り始めて、自分の中にあったイメージは少しずつ形を変えて、どんどんチェコに居心地の良さを感じていく暖かな日の午後にこの小さな橋で二人立ち止まって川に射し込む光を見ていた。


なつかしき河よ、モルダウの、岸辺には豊かな幸が満ちあふれ、

人の心はいつまでも、この河の流れと共にゆく わがふるさとの、この河モルダウよ

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次回 第2部 ビールとかチェスキー・クルムロフとか




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【過去テキスト】

生きること、変わること、学ぶこと:https://note.mu/minotonefinland/n/n1655e6d0b206?magazine_key=mf53e59f9f07a

無知と戦う:https://note.mu/minotonefinland/n/nc9015ae3e8b9?magazine_key=mf53e59f9f07a

シネマ評:最近観た映画のまとめ:https://note.mu/minotonefinland/n/n7c86085fa78f?magazine_key=mf53e59f9f07a

フィンランド発、TAIKKAのバッグ:
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トランスジェンダーと人権:https://note.mu/minotonefinland/n/n99c3d6bb73ec?magazine_key=mf53e59f9f07a

栄養たっぷりポタージュ風エスニックスープ(ヴィーガン対応可)の作り方:
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史上最高に簡単なフィンランドのブルーベリーパイの作り方:https://note.mu/minotonefinland/n/nd345244066b9

失うもの、手放すもの:
https://note.mu/minotonefinland/n/nb7c459620200?magazine_key=mf53e59f9f07a

歳を取ることは結構イイこと:https://note.mu/minotonefinland/n/n9af24cef38b0?magazine_key=mf53e59f9f07a

妄想フィンランド7日間の旅に皆さんをご招待:https://note.mu/minotonefinland/n/n1dc2b5304706?magazine_key=mf53e59f9f07a

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シネマレビュー: Casse-tête chinois(邦題:ニューヨークの巴里夫):https://note.mu/minotonefinland/n/n924cbf1aad4a?magazine_key=m86a5f3f1198a

シネマレビュー: Land Ho!:
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