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S・ジョブズ 「十牛図」を歩いた56年(3)

とんがって生きていたスティーブでしたが、挫折によって「尋牛」からやり直したスティーブは、デジタルハブ構想で、新しい自分を発見するに至ります。

デジタルハブ構想は、iPodのリリースで具現化します。
しかしiPodはiPhoneのさきがけでしかなく、iPhoneはiPadへ飛躍し、iPhone、iPadがMacとともにハブになっていきます。

これら次々と投げ込むデバイスを貫いていたのが、シンプルな美しいデザインです。天地同根万物一体、美しい筐体には「禅」が息づいていました。

それは、十牛図でいう9番目の絵「返本還源(へんぽんかんげん)」の世界です。
長い「迷い」とやっと到達した「悟り」の間での葛藤を克服してみると、一塵のけがれもない美しい自然が牧人に還ってきたように、スティーブにも訪れたのです。

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私はiPhoneのブラックのモデルを愛用していますが、ブラックのモデルにスティーブの禅への思いが集約されているからです。

返本還源
返本とは、本(原点)に返(帰る)、源にたち還る。つまり「はじめに帰り源にたち還る」を意味します。

牧人に、8番目の絵「人牛倶忘」で描かれた空の世界からふたたび自然がもどってきました。
牧人の中に根本的な変革が起こったのです。
自我が消えたので、牧人は自然のようにすべてを平等視して生きることができるようになりました。

真の自分を超えて、新しい自分を手に入れたのです。

自然のようにすべてを平等視して生きることができるようになったとは、具体的にどういう現象でしょうか?

スティーブは新しい自分を手に入れたので、「涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)」に到達します。
涅槃寂静は「静やかな安らぎを得た悟りの境地」です。

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遠離一切顛倒夢想究境涅槃(おんりいっさい てんどうむそうくきょうねはん)。 般若心経の一節です。

自分は肉体を持った人間であり、いずれ死ぬ運命にあるという誰でもが信じ込んでいる妄想から離れるということです。遠離一切、自分にまとわりつく一切を切り離せば、自然と一体になって、自由になれるという教えです。

災難に逢う時節には災難に逢うがよく候
死ぬ時節には死ぬがよく候
これはこれ災難をのがるる妙法にて候(良寛)


江戸時代の曹洞宗の僧侶である良寛の言葉です。

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上の良寛さんのお姿は、晩年のスティーブ・ジョブズ氏に似ていますよね。

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私たちがどんなに手を尽くしても死ぬ時は死にます。
それは変えられません。
であるなら、それらを受け入れて生きるしかありません。
どんなに不運が続き、大災害に逢おうとも、それは紛れもない命の現実でしかなく、そのことを「災難」としてしか捉えることができないならば、どこまでもその不運を嘆いて生きて行くしかありません。

しかしあるがままを受け入れて、今日を最後のように過ごせばどんなにか充実した時をすごせるでしょう。

「もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか?」(スティーブ・ジョブズ)

自然体で、すべてを受け入れて自分らしく生きることを実践したのです。

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禅に憧れて禅そのものになり、スティーブ・ジョブズの世界は大宇宙になり世界を変えたのです。

つまり、いつしか十牛図、最後の絵、町に出て人々と交流する「入鄽垂手(にってんすいしゅ)」に到達していたのです。

「入鄽垂手」とは、悟りを開いたとしても、そこに止まっていては無益。 再び世俗の世界に入り、人々に安らぎを与え、悟りへ導く実践の意味です。

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墓場で一番の金持ちになることは私には重要ではない。夜眠るとき、我々は素晴らしいことをしたと言えること、それが重要だ。 
                       スティーブ・ジョブズ

この言葉は、まだ大学生だったスティーブのハートを鷲掴みにした4ドルの雑誌「全地球カタログ」に通じています。

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ブッダの教えである「一人一宇宙」は、大宇宙とつながったのです。(→入鄽垂手)

私たちは、スティーブ・ジョブズがワクワクして読んだ全地球カタログを体験したのです。

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